小1女児殺害事件 無期懲役の判決 被告は控訴の方針

小1女児殺害事件 無期懲役の判決 被告は控訴の方針
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平成17年、栃木県の旧今市市、今の日光市で小学1年生の女の子が殺害された事件の裁判員裁判で、宇都宮地方裁判所は自白は信用できると判断して、殺人などの罪に問われた被告の無罪の主張を退けたうえで、「犯行は身勝手極まりなく、被害者の恐怖や苦しみは計り知れない」と指摘し、無期懲役の判決を言い渡しました。
被告は無罪を主張しており、控訴する方針です。
平成17年12月、栃木県の旧今市市、今の日光市で小学1年生だった吉田有希ちゃん(当時7)が下校途中に連れ去られ、茨城県の山林で遺体で見つかった事件では、栃木県鹿沼市の勝又拓哉被告(33)が殺人などの罪に問われ、裁判で無罪を主張していました。
判決で、宇都宮地方裁判所の松原里美裁判長は、被告が捜査段階では犯行を認めるうその自白を強要されたと主張したことについて「取り調べで厳しいことばはあったが強要されたとは認められない。自白の内容も遺体や現場の状況と矛盾せず、供述の態度からは犯行を認めるべきかどうか葛藤している様子もうかがえる」などとして、自白は信用できると判断しました。
そのうえで、「事件の発覚を免れるために殺害した身勝手極まりない犯行で、わずか7歳で命を奪われた被害者の恐怖や苦しみは計り知れない」などと指摘し、検察の求刑と同じ無期懲役を言い渡しました。
青いシャツに黒いジャージー姿で法廷に入った勝又被告は、証言台でまっすぐ前を向いて立ち、身じろぎせずに主文の言い渡しを聞いていました。
この事件の裁判は、有力な物的証拠がないなか、自白を信用できるかどうかが最大の争点となり、録音録画された自白が異例とも言える7時間以上にわたって法廷で公開されました。
弁護側は「現場や遺体の状況と自白の内容には矛盾があり、信用できない」などと主張し、判決が注目されていましたが、裁判所は、録音録画された取り調べの状況も踏まえて自白は信用できると結論づけました。
判決を受けて、有希ちゃんの遺族の代理人を務める横山幸子弁護士と柾智子弁護士の2人が会見しました。
8日の裁判には、当初、被害者参加制度を利用して有希ちゃんの母親の洋子さんも参加する予定でしたが、裁判が始まる前の去年5月に病気で亡くなり、有希ちゃんの父親と祖母が参加しました。
遺族側は「親族一同」としてコメントを出し、弁護士がコメントを読み上げました。この中で、無期懲役の判決を受けた被告については、「態度、発言からは有希の命を奪ったことに対する反省や後悔がみじんも見られず、自分の犯した罪に対する恐怖から逃れるための身勝手な主張に怒りが増すばかりです」としています。そのうえで、「私たちが有希を失った苦しみや悲しみがこれで終わる訳ではありません。被告には、私たち遺族と同じように有希のことを忘れず、その命を奪った罪を背負い続けて、自分の犯した罪の重さに苦しんでもらいたい。私たち遺族は永遠に被告を許すことはありません」と記しています。
また弁護士は遺族の話として、「つらい話を聞くことになったが、参加したからこそ見聞きできたこともあり、非常によかった」と述べました。一方で、弁護士は遺族側の意見として、「被告に対して思いを述べる時間が極めて少ないと感じた」と指摘するとともに「証人尋問の際に弁護側が被告に提示した遺体の写真が傍聴席側にも見えることが複数回あり、とてもつらかった。同席する遺族の感情には十分配慮してほしい」という意見が出たことを明らかにしました。
今回の判決について、宇都宮地方検察庁の澤田康広次席検事は「検察官の主張が認められた妥当な判決であると認識しています」というコメントを出しました。
また、栃木県警察本部の五味渕晃刑事部長は、「引き続き、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、子どもたちが安心して生活できる地域社会の実現に向け全力を尽くして参りたい」というコメントを発表しました。
裁判のあと勝又被告の一木明弁護士が取材に応じ、「全く納得できない不当な判決だ。客観的証拠よりも自白が重視されていて、本当にこれでいいのかと感じた」と話しました。
そのうえで、「被告本人は『法廷で真実を述べたのに、どうしてこんな判決が出てしまうのか』と話し、すでに控訴の意思を固めている。必ず控訴する」と述べました。

裁判員が会見 取り調べ公開についても意見

判決のあと、裁判員を務めた5人と補充裁判員だった2人の合わせて7人が記者会見に応じました。
この中で、今回の裁判で取り調べの録音、録画が異例とも言える7時間以上にわたって公開されたことについて、裁判員を務めた会社員の女性は「書面とは違い、映像だと臨場感があった。録音、録画を再生することは、裁判員が判断するうえで意味のあることだと感じました」と話していました。
また、30代の会社員の男性は「状況証拠は決定的なものではなかったので、録音・録画がなければ、判断はどうなったか分からない」と話す一方で「今回の事件で録音・録画された取り調べは全体の何割かしかないので、もう少し見たいという気持ちもあります」と話していました。
一方、判決を被告にどう受けてめてもらいたいかという質問に対して、裁判員を務めた70代の女性は「被告人にきっちりと受け止めてもらいたい」と話していました。
また、別の女性は「裁判員が真剣に評議した結果なので、真摯(しんし)に受け止めて考えてもらいたい」と話していました。

有罪判断のポイント

裁判では、有力な物的証拠がないなか、勝又被告が捜査段階で殺害を認めた自白が信用できるかどうかが最大の争点になりました。
判決で宇都宮地方裁判所は、まず、検察が自白の裏付けだと主張した複数の状況証拠について判断を示しました。
この中では、「Nシステム」と呼ばれる車のナンバープレートを読み取る機械に被告の車の通行記録が残されていたことや、被害者の遺体についていた猫の毛のDNA型が被告が当時飼っていた猫の型と同じグループだとする鑑定結果が出たことなどについて、「被告と犯行とのつながりを推定するには限りがある」と述べました。そのうえで「客観的な事実のみからは犯人と断定できない」と指摘しました。
その一方で、判決は「捜査段階の自白」を最大のよりどころとして有罪と判断しました。被告は「自白は強要されたものだ」と主張しましたが、裁判所は被告が自分の意思で殺害を認めたと判断しました。その根拠として、7時間以上にわたって法廷で公開された録音録画の内容が挙げられ、「捜査官は多少厳しいことばを使っていたが、自白の強要は認められない。『自白しないと死刑や無期懲役になると言われた』という話も捜査官が法廷で明確に否定しており、被告が都合よく話しただけだ」などと指摘しました。
また、弁護側は「自白の内容は客観的な事実と矛盾する」などと主張しましたが、裁判所は検察の主張どおり、自白は信用できるという判断を示しました。判決は自白の内容について、「被害者の遺体や、遺体が遺棄された現場の状況という犯行の根幹部分は自白と矛盾しない。特に被害者を刺したときの状況などは、想像に基づくものとしては特異とも言える内容が含まれ、実際に体験した者でなければ話すことができないものだ」と指摘しました。
さらに、自白したときの被告の態度などについても触れ、「被告が有罪になった場合の処罰について、しきりに気にしていたことは録音録画の内容から明らかだ。あらぬ疑いをかけられた者の態度としては不自然で、自白の内容は信用できる」と結論づけました。
判決は有力な物的証拠がないなか、自白を中心に検討した結果、有罪と判断したもので、今後の捜査の進め方に影響する可能性もあります。
判決について、元検事の落合洋司弁護士は「今回は取り調べの様子を録音・録画したことで自白の信用性を立証できたケースとなった。これまで検察は、自白があっても客観的な証拠の裏付けが弱い事件の起訴には消極的だったが、今回を参考にし、起訴に踏み切る可能性もあるのではないか」としています。
さらに今後の課題について、落合弁護士は「自白を中心とした捜査は誤った判断を導きやすいという危険性がある。捜査機関は自白によって有罪の印象を持ったとしても、ほかの証拠で裏付けられるよう常に意識するべきだ」と指摘しています。