なめらかで優美なバイオリンの音色と塗料の関係
音の世界では、センスだけでなくサイエンスも重要なみたいです。
バイオリン職人が最後の仕上げに使用するニスなどの塗料。木材の保護と保存を高めるだけでなく、音色の質を高める役割をも果たすことがスイスの科学者らによって論じられています。
塗料の化学成分、塗布する量、木材への浸透度によって、いかに楽器の音響効果に影響するか明らかにしたのは、スイス連邦材料試験研究所(EMPA)のMarjan Gilani氏ら。Applied Physics Aの新刊で特集されています。
研究でサンプルに使われたのは、ノルウェイで育った常緑高木であるベイトウヒ(マツ科)。同じ木から複数の種類の塗料をコーティングして調査が行なわれました。そのうち2つは、研究者独自の塗料、また他の2つはドイツの一流バイオリンメーカーによるもの。X線トモグラフィーを使用しながら、サンプルに何度も振動を与えてその影響を調べる実験が行なわれました。
すると、すべての塗料が木に振動を吸収・沈静化する効果が見られたのだとか。塗料なしのサンプルと比べると、塗料ありの場合、なめらかで温かく、優美で芸術的な音色が特徴として現れたのだそうです。また研究者独自の塗料よりも、ドイツの一流バイオリンメーカーによるもののほうが音色が良く、また大きな音が出たと見なされました。塗料の種類によっても異なったのですね。
バイオリンの音色と塗料の関係については過去にも研究されたことがありました。特にアントニオ・ストラディバリのバイオリンについては、遡ること2006年、使われている木材に塗られた化学成分が特別であることが明かされています。詳細には、蜂蜜、卵白、アラビアガム、銅塩、鉄、そしてクロムなどの混合物が含まれているのだとか。まるで秘伝のレシピのようなこれらの材料は、すべて木材の保護と吸音に有用であることが、生化学を専門とするJoseph Nagyvary教授によって論じられています。
現存するストラディバリウスのバイオリンの秘密に迫る研究は多数あるなか、現代ではCTスキャン、赤外線とNMR分光分析法やコンピューターモデリングなど、あらゆるハイテク機器を用いた調査も進んできました。
最近では、Strad3Dプロジェクトなんてのも。35年以上の月日をかけて研究してきたというGeorge Bissinger研究部長は、ストラディバリウスという名前を聞いただけで人々は畏怖の念を持ち、偏見的に評価する傾向があることについて指摘。そのことから同氏は、ストラディバリウスの持つ大きな秘密は、特に何も秘密がないことだといいます。
さまざまな科学的手法があるなかで、結局は人の感覚によって評価される音のクオリティ。これは科学的理論と同じくらい、アートの領域だともいえます。とはいってもやっぱり、今回のEMPAによる研究内容を踏まえると、きっと優れたバイオリン奏者は塗料について軽視できないかもしれませんね。
top image by Andrea Mosconi, curator, plays Stradivari’s 1715 violin “Il Cremonese” (2012). Paolo Bona / Shutterstock
source: Applied Physics A via Eurekalert
Jennifer Ouellette - Gizmodo US[原文]
(Rina Fukazu)
- ストラディヴァリウス (アスキー新書 82)
- 横山 進一|アスキー・メディアワークス
- 名器の響き ヴァイオリンの歴史的名器(再プレス)
- Warner Music Japan =music=