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ダイジェスト編 第一話
ある学園の教室
前髪で目を隠した少年の前で、ある太った少年がニヤニヤ笑いを浮かべている。
「いやぁ!!助けて!お兄ちゃん!」イド服の少女は、助けをもとめて前髪で目を隠した少年に手を伸ばす。
「貴様!リンちゃんを返せ!」
「断る。そもそもお前に返せなどといわれる筋合いはない。彼女は僕の奴隷なのだからな」
「くそっ……金の亡者リトネめ」
「ふん。だが僕も鬼ではない。『勇者アルテミックの剣』を取ってきたら、リンを解放してやろう」
「いいだろう。待っているがいい!」
少年は教室を飛び出し、剣があるという封印の山に向かった。
祠の前
ここに来るまでに魔物と戦い、全身傷だらけになった少年が、祭壇に刺さった光り輝く剣を抜く。
剣はあっさりと抜けて、少年は歓喜の笑みを浮かべた。
「やった。これでリンちゃんを!」
少年がそういったとき、いきなり目の前の地面が割れ、深い裂け目ができる。
「ぐわっはっは!我は魔皇帝ダークカイザー!勇者の血を引くものよ。我をよく解放してくれた」
次の瞬間、とてつもなく巨大な魔物が裂け目から出て、空へと駆け上がる。それに追従するように何万もの魔物が現れ、飛び去っていった。
「そんな……僕はなんてことを……」
呆然とうなだれる少年。
音楽が鳴り響き、オープニング画面が現れた。
「……結構ありきたりだなぁ」
そんなことを思いながら、太った男がゲーム画面を操作する。
男が進めると、選択場面になる。教室に戻ったら、リトネとの会話になった。
「ぐふふ。よくもってきた。さあ、剣か女か、どちらかを選べ」
「くっ……」
「『勇者アルテミックの剣』と『リン』のどちらを選びますか?という選択肢がでる。
剣を渡すのを拒否する。
「……ひどい……」
「ぐふふ。ならリンはこれからも僕のものだな。それじゃ……」
首輪についているチェーンを引いて、どこかに連れて行く。
「まさか、これって……」
男の想像通り、学園生活で仲良くなった女の子は、必ずリトネによって奴隷にされる。
そうしておいて、旅を有利に進められるアイテムと交換を迫るのである。
アイテムを選べばゲームはさくさくと進むが、仲間ができずにぼっちである。
少女を選べば仲間が増えて楽しいイベント満載だったが、ゲームは苦労の連続である。
魔皇帝ダークカイザーを倒しても、最後のエンディングで今まで見捨てたヒロインに主人公は刺され、無念の死を遂げる。
そのたびに女神ベルダンティーの加護により時間が巻き戻され、最初から開始されることになった。
「ふう……やっと倒した」
およそ30分もの激闘の結果も、ようやく大魔王を倒して、真のハッピーエンドを迎える。
「我ながらがんばったな」
そう独り言を言って寝床に入るが、ふいに空しくなる。
将来への不安で胸がつぶれそうに苦しくなってきた……。
「はあ……はあ…ちがう!これは!」
本当に胸が苦しい。
「まさか、心臓発作!」
男の意識は闇に落ちていった。
「こんにちは。私は女神ベルダンティー。あの、実はあなたにお願いがあるのですが」
意識が戻ると、真っ白い空間にいた。そこに清らかな声が聞こえてくる。
「このままでは、私の世界は魔王ではなく勇者に滅ぼされます。私はなんとかしてこの事態を食い止めたいのです」
真摯な目をして頼み込む女神に、心を動かされる。
「……わかった。どうせ死んだ身だ。できることはしよう」
女神が杖を振ると、男の意識は闇に解けてった。
そして12年が過ぎた。
ロスタニカ王国周辺に広大な領地をもつ、シャイロック金爵領のロズウィル村で……
一人の少年が、村長に怒られながら重労働をしていた。
重い小麦の袋を運んでいると、川原で遊んでいた村のワル餓鬼が近寄ってきた。
「貧乏人の子!」
「よそ者!」
「この村から出て行けよ!」
思う存分罵声を浴びせ、好きなように殴りつける。
彼らが満足して去っていくころには、破られた小麦の袋が地面に散らばっていた。
「また村長に怒られる……」
涙を堪えながら、村長の家にもどる。
すると、そこには一人の幼い水色の髪をした美少女がいた。
「傷ついているよ。ほら、ヒール!」
リンの手から出たやさしい水色の光が、傷口に張り付く。リトネの怪我は治っていった。
「ありがとう」
「どういたしまして。でも、この呪文ってすごいね。教えてくれてありがとう」
リンは小犬のようにじゃれ付く。彼女はリトネに小さいころから優しくされ、懐いていた。
リトネは彼女に魔法の力を引き出せるように水の呪文を教え込み、原作よりはやく癒しの力が使えるようになったのである。
リンのポワポワした笑顔をみながら、リトネはしみじみ思う。
(原作じゃ、リトネはリンをペット扱いして、●●●や×××までさせたんだよな……だめだ。どう転んでも、そんなひどいことはできそうにない)
今ではお兄ちゃんと慕ってくれるリンを、リトネは本当の妹のように愛している、とても18禁行為ができるような精神状態ではなかった。むしろそんなやからは勇者だろうが駆逐してやりたい。
「リンだけは渡さんぞ!」
まだ見ぬ勇者に敵対心を持つリトネだった。
なんとか小麦運びの労働も終わり、一袋の小麦をもらって家につく。
リトネの家は村はずれにある、ボロ家だった。
「酒もってこい!」
家の中から、酒に酔った声が聞こえてくる。父ズークの声だった。
「あなた……もうお酒はありません。それより、リトネも働いているのです。あなたも騎士になる夢などあきらめて、畑仕事などを……」
「うるせえ!俺はお前なんかと駆け落ちしたから、騎士になりそこねたんだ。何が貴族のお嬢様だ!このごくつぶしが!」
怒鳴り声と共に、バチーンという音が響く。
「ああっ!」
中で誰かが倒れる音がしたので、あわててリトネは家に駆け込んだ。
「母さん……大丈夫?」
倒れている母、ジョセフィーヌを抱え起こす。
「え、ええ。大丈夫よ。ううっ……」
母は口では大丈夫といいながら、地面に力なくへたれこんで泣き出した。
「……」
リトネはきっとなって、ズークをにらみつける。彼の全身から魔力が立ち上って、父を威嚇した。
「な、なんだクソガキ。やるってのか!」
大人げなく壁にかけている錆びてボロボロの剣を取ろうとするが、酒によっているためうまく抜けない。
「我、天に祈る。我が元に僕寄こしたまえ。出でよスライム!」
腰にさしていた木の棒を引き抜き、召喚の呪文を唱えた。
「うわぁぁぁぁ!」
魔方陣から出現したスライムに集られて、叫び声をあげるズーク。そのまま逃げ出していった。
夜
今日は月に数日の、月が青く輝く「蒼月夜」である。
魔物が活発に活動するといわれ、ほとんどの人が家に閉じこもって早く寝る。
にもかかわらず、村はずれを一人の酔っ払いが歩いていた。
「ひっく……くそ!あの糞餓鬼め!いつか目にものをみせて……」
愚痴をこぼしながら粋がるが、その声には勢いが欠けていた。
本音を言えば、自分の息子が怖くてたまらないのである。
「くそ……若いときの恋愛なんか、ハシカみたいなもんだ。あの時、貴族の令嬢なんかと駆け落ちなんかしなければ、今頃は騎士になれていたかもしれないのに……」
つばを吐きながらふらつく彼だったが、その時いきなり暗くなる。
「なんだ?」
思わず空を見上げた彼の目に、黒いマントを着た大人っぽい女の姿が目に入った。
「だ、誰だてめえは!」
思わず腰が引ける彼に、男は優しく問いかける。
「失礼。今宵の出会いに感謝を。私は魔皇妃カイザーリン。以後お見知りおきを」
「ま、まさか貴様は!魔族?」
逃げようと思っても、その美女の赤い目に見つめられると動けなくなる。
「リトネという少年を知っているか?」
「リトネは俺の息子だ……」
夢うつつとなり、正直に答える。
「なら都合がいい。私は我が夫を助けたいのだ。だから君に頼みたい。わが魔族にとって、リトネ君はきわめて重要な人物なのだ。彼を墜としてほしい…」
カイザーリンと名乗った男装の女は、やさしくズークに口付けをした。
「逃げろ!!!」
そんな叫び声が聞こえてくる。
「何かあったのか?もしかして魔物の襲撃?やばい!リンが!」
リトネは一目散に村の広場に走っていった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ。……ドコだ……」
中心広場で、村人たちを襲っている怪物がいる。
「ばかな!こんなところにグールが出るなんて!ランクCの魔物だぞ!」
村人たちは逃げ惑うが、次々と殴り倒されてしまう。
(落ち着け……生まれてから今日まで、さんざん訓練を重ねたんだ。俺に与えられた「召喚」という力を使いこなすために。今こそ、修行の成果をみせるときだ!)
初めての実戦で緊張する心を制御しながら、リトネは杖をふる。
「『カラダの一部』だけを召喚!」
目の前のグールに向けて、召喚魔法を使う。
「グオォォォォォォォォ」
グールの右手だけが召還され、リトネの前に落ちる。グールの肩から噴水のように血が噴出し、広場を染めた。
「グオッ!」
最後の力で、リトネの首筋めがけて飛び掛る。
なすすべもなく噛み付かれる一瞬前、リトネの間に影が割り込んだ。
振り向いたリトネは驚愕する。自分の身代わりとして、母ジョセフィーヌが噛み付かれていた。
「!!!!」
誰もが動けない間、ジョセフィーヌは地面に崩れおちる。
「母さん……いやだ!死ぬな!」
「残念だけど……もう力が残ってないの。よくきいて。私のベッドの下に……父上への手紙があるわ。それを出して……父上にこの指輪を……」
自らがはめている指輪を、リトネに差し出す。
「いやだ!」
「聞き分けがない子……ね。おねがい……します」
「……わかった。そいつを下がらせろ」
いつの間にか近くに来ていた、村人たちがリトネを拘束する。
「な、なにを……」
「グールに噛み付かれた者は、グールになる。だから首を切り落とすしかないんだ」
「や、やめ……」
「やれ!!!」
村人によって、速やかに処置は行われる。リトネもリンも、ただ見守ることしかできなかった。
リトネの小屋
リトネはベッドの下を探る。
母が言ったように、そこには祖父イーグル・シャイロックへの手紙があった。
「親愛なるお父様、生まれた子供には罪はありません。どうか、我が子リトネをお引き立ていただけますように、お願い申し上げますー。ジョセフィーヌ」
散々迷ったのか、ところどころ文が乱れ、手紙には涙のあとがあった。
その時、いきなり家のドアが開かれ、村長と数人の村人が入ってくる。
「捕らえろ!」
いきなりでびっくりしているリトネを縛り上げ、床に転がした。
「ふん!親も気に入らないが、お前はもっと気にいらねえ!どこの馬の骨かもしれない女の子供の癖に、俺のかわいいリンに手をだしやがって。奴隷商人に売り飛ばしてやる!」
村長の命令で、リトネは地下牢に連れて行かれた。
リトネを捕まえた村長は、嬉々として奴隷商人に連絡を取る。
「……わかった。とにかく見させてもらおう」
村長と男が村の地下牢に行ってみると、そこには瞑想している少年がいた。
彼の体からは、闇の魔力が立ち上っている。
「こいつは……」
「さあ、早く買い取ってくれ」
村長がそういったとき、リトネが目を開ける。
「……あんた、奴隷商人か?」
「そうだが?」
自分をみても動揺しない少年に、奴隷商人はちょっと気おされる。
少年は無言で手を上げ、はめている指輪の紋章を見せた。
とたんに奴隷商人の顔色が変わる。
「……村長、こいつと二人だけで話したいが、いいか?」
「別に構わないぞ。納得するまで査定してくれ」
そういうと、村長は地下牢を出て行った。
「ま、まさか!なら、お前……いや、あなたは……」
「お爺様にこれを渡してくれ」
母の書いた手紙を渡す。うやうやしく受け取った商人は、少年の前に跪いた。
「ここから出て、私と一緒に行きましょう」
「そうはいかぬ。今の私は何者でもないただの小僧だ。村を騒がせた罪人の子供でもある。だから牢から出るわけにはいかぬ」
冷たい地下牢に正座して、じっと奴隷商人を見つめる。その姿からは、確かに気品が感じられた。
「わかりました。必ずこの手紙を祖父君までお届けします」
奴隷商人は立ち上がると、一目散に村からでて領都に向かった。
ロズウィル村から馬車で三日かかるところに、金爵家の本邸がある領都エレメントがある。
そこは王都に次ぐ第二の都市であり、全国から平民があつまる商業都市でもあった。
その領主邸に、息も絶え絶えで走りこんでくる者がいた。
「お館様に緊急の報告があってまいりました!ぜひご面会を!」
手紙は騎士の手により、領主がいる執務室に運ばれた。
手紙を受け取って読んだイーグル・シャイロックは、真っ青な顔をして震えだした。
「……すぐにその奴隷商人を呼んで来い!」
イーグルの命令で、奴隷商人が呼ばれて、ロズウィル村での出来事が伝えられる。
「ええい、すぐに連れて……いや、わしが迎えにいく。支度をせい!」
イーグルの命令で、その日のうちにあわただしく出発するのだった。
三日後
ロズウェル村に、きらびやかな鎧をまとった騎士団が到着する。
いきなり田舎に領主が来たといわれて、村人全員が土下座して迎えた。
女の死体をみて、金爵は涙を流す。
「なんという無残な姿に……愚か者め。あの時わしの言うことをきいておれば……いや、わしが認めてやれば……こんなことには」
「金爵さまは、この女をご存知で?」
金爵のただならぬ様子に不安に駆られて、村長が思わず聞く。
「この女だと!愚か者が!ジョセフィーヌはわが娘だ!」
「ひいっ!」
村長は真っ青になって土下座する。リトネたちをいじめていた悪餓鬼たち、そして冷たく扱っていた大人たちも顔色を失った。
そんな彼らを今すぐにでも皆殺しにしたい思いに駆られるが、なんとか自制する。
「それで、娘の子がいると聞いたが、どこにおるのだ!」
「ひ、ひいい。お許しを!今すぐ連れて……」
「わしをそこに連れて行け!」
金爵の怒りが爆発する。村長はすでに死人のような顔になって、地下牢に案内するのだった。
地下牢
「お前がわが孫か……」
老人はリトネをまっすぐに見て、そうもらす。
「はい。お初にお目にかかります。私はリトネと申します。お爺様」
リトネはまっすぐにシャイロック金爵の目を見返して、深々と頭を下げた。
しばらく見詰め合っていたが、ふいに金爵が相好を崩す。
「ふむ。娘を唆したあの憎い平民男の血を引くとはいえ、その闇の魔力は確かにわが一族のもの。……今まで苦労をかけたようだな」
「いえ、この程度、なんということもありません」
「お前はシャイロック家の正当爵位継承者である。今日からリトネ・シャイロックと名乗るがいい!」
「はい!」
リトネは元気よく返事をするのだった。
領都エレメント
リトネとリンを乗せた馬車は程なくして、シャイロックの屋敷に着く。
「すごいね……」
「ああ。もう屋敷じゃなくて城だな」
巨大な城壁に囲まれた堅固な城だった。
馬車が門から入ると、ごつい鎧を着た騎士たちが何百人も整列している。
それぞれ自分の属する家の旗を掲げていた。
「これって……」
ものものしい出迎えに、ますます不安が高まっていく。
城門から入って10分もかけて、ようやく城の本丸に到着した。
それからの日々は、ずっと貴族としての勉強付けだった。
まずは座学で、シャイロック家の歴史、貴族として必要な作法、シャイロック領について徹底的に叩き込まれる。
教師役はイーグルの側近、キュリー夫人である。
「どうだ?勉強は進んでおるか?」
「はい。リトネ様はお嬢様から教育を受けていたらしく、読み書き計算は完璧に身につけておられます。とくに計算は魔法学校卒業生のレベルまで達しております。また授業にもまじめに取り組んでおられます。実に手のかからない生徒ですわ」
あいかわらずキュリー先生は、褒めているんだかよくわからない無表情で返事する。
「そうか。さすがはワシの孫だ」
イーグルは爺ばか丸出しで喜んでいた。
「そうだ。いい機会だから、面白いものをみせてやろう」
イーグルはリトネを、シャイロック家の宝物庫に案内した。
宝物庫では、大勢のメイドが毎日きれいに宝物を掃除していた。
その中に、真っ白い卵があるのを気がついた。
「お、お爺様?これは?」
「ああ。わしの父がとある冒険者から買い取ってくれと泣きつかれたのだ。何の卵かわからないから、放置しておる」
(おい!!!やべーよ!それマザードラゴンの卵だよ!!!!)
「お爺様!それは危険です!すぐ返しにいきましょう」
突然のリトネの大声に、シャイロックは驚いた。
「危険だと?」
「それはマザードラゴンの卵です。ほうっておいたら卵が孵って……」
リトネがそういったとたん、卵にヒビが入る。
「ん?なんだ?」
イーグルが首をかしげていると、どんどんヒビが大きくなっていった。
「マジか?おい!生まれるな!たのむから待ってくれ」
あわててヒビを押さえようとしたが、もう遅い。
「きゅい!」
卵が割れて、真っ白いドラゴンの赤ちゃんが生まれてしまった。
リトネとドラゴンの目が合ってしまう。
「きゅい?」
「おい。違うからな!俺は親じゃないからな?」
必死で弁解するも、赤ちゃんドラゴンに言葉が通じるわけがない。
「きゅい!」
赤ちゃんドラゴンはうれしそうに、リトネに飛びついた。
「わあ!可愛い!」
「本当に可愛いですね。これが竜の赤ちゃん」
リンをはじめとする、シャイロック家のメイドたちがかわるがわる交代で、赤ちゃん竜を抱いている。
ドラゴンはきゅいきゅい鳴いていたが、おとなしくされるがままになっていた。
「……困ったな」
「困りましたね」
その横では、イーグルとリトネが頭を抱えている。
まさか国で神聖視されているマザードラゴンの子供が生まれるとは思っていなかったので、これからどうしたらいいかわからなかった。
「うむむ。仕方がない。ペットとして飼って……」
「お爺様。それが駄目なのです」
あきらめて受け入れようとするイーグルに、リトネが反対する。
「なぜだ?」
「将来、あのドラゴンが原因で、わがシャイロック家が破滅するからなのです」
リトネは6年後、ドラゴンの赤ちゃんがシャイロック家のペットとして虐待されていると勇者から聞いたマザードラゴンが怒り、彼女が率いるドラゴン軍団がシャイロック城を攻め滅ぼすことを告げた。
「ううむ……確かにありえる話ではある。しかし、なぜそこまで具体的にわかるのだ」
「実は、私には前世の記憶があります。リトネとして転生する際に、勇者を牽制するようにと女神ベルダンティーから使命をいただきました」
リトネは自分が知っていることをすべて話した。
すべて聞き終えたイーグルは、納得したというように頷いた。
「なるほどな。いくら勇者だからとはいえ、政治ができるかどうかは別問題だ。領地経営の経験もない小僧に国王がつとまるはずもない。始末が悪いことに力だけはあるから、思い通りにならぬものを屈服させようとする暴君となるだろう」
「だから私は、強力なパートナーとなって勇者を操り、世界を崩壊に導くビッチたち……失礼、ヒロインたちをなるべく多く寝取らなけれはならないのです」
まじめな顔でひどい事を言うリトネだった。
「そうか……ヒロイン、つまり勇者をたぶらかす女たちとは、ほかに誰がいる?」
祖父の質問に、すべての名前を紙に書いて渡す。
「ふむ……いくつかは心当たりがあるな。ふっ、ナディもなのか」
思わず彼は笑ってしまう。自分の甥の娘がいたからである。
「ああ、ヤミデレ(闇デレ)のナディですね。可愛いけど独占欲が強くて、怖いというか……」
「わかった。彼女たちを手に入れることができるように、お前に協力してやろう。このドラゴンのことは、マザードラゴンの元に使者を出そう」
リトネとイーグルは顔を見合わせて、ため息をつくのだった。
次の日 中庭
ーグルは、リトネに向き直った。女神に祈るがいい。最初に念じた概念が固定される。いわば女神との契約じゃ」
イーグルは家伝の杖を渡す。それを聞いて、リトネは考えこんだ。
(えっと……召喚されても誰も困らないモノで、なおかつ役に立つもの。役に立つもの。そうだ。『異世界のゴミ』にしよう)
召還するものを決めて、杖を振る。
すると、中庭いっぱいにわけのわからないが散らばった。
「これは?」
「水筒の一種ですね。この缶の中に飲み物を入れて、売られています。飲んだ後はゴミとして捨てられています」
「そうか……奇妙なことをするものだな」
そういいながら、缶を拾い上げて確認すると、イーグルの顔色が変わった。
「これは……軽銀?それに鋼ではないか。こんな貴重なものをゴミにするとは。お前が前世で生きていた世界とは、何というもったいないことをしておるのじゃ!」
アルミ缶とスチール缶を両手にもって憤慨している。
「そんなに貴重なものなのですか?」
「軽銀は別名ミスリル銀とも言われ、魔力を蓄積できる金属として伝説の武器に使われておる。鋼は鉄より強固な伝説の金属として、今は製法が失われておる……それがゴミ扱いとは。なんと嘆かわしい。金や銀を捨てているようなものじゃ!」
しばらく缶を持ってブツブツ言っていたイーグルだった。
「それなら、商人に売ったら高く売れますかね?」
「いや、そんなもったいないことはせぬ。これは我が領の機密として封印する。これを使って鎧や剣を作り、軍に配備しよう。これで軍も大幅に強化され、我が家はますます栄えることができる」
イーグルは悪人面で笑うのだった。
応接室で、小心そうな顔の豪華な服を纏った男がつめを噛んでいた。
「……なぜ呼びつけられたのだ。まさか、あのことがバレたのか?いや、何人もの仲介業者を通して依頼したはずだ。バレるはずがない」
必死に自分に言い聞かしている男は、ゴールド・シャイロック。現当主イーグル・シャイロックの兄の息子である。そして、つい先日まではシャイロック家の後継者筆頭の地位にいた男だった。
「これは叔父上、ご機嫌うるわしゅう……」
「残念だが、わしの機嫌は麗しくはない。貴様の顔をみているだけで不快な思いをする」
イーグルは冷たい目でゴールドを見下した。
「な、なぜです?」
「すべてわかっておる。貴様が借金で首が回らなくなっていることも、後継者から外されて商人に責められたことも、悪あがきをしてわしの可愛いリトネを暗殺しようとしたこともだ!」
叔父から厳しく言われて、ゴールドは恐怖に震える。
「も、申し訳ありませんでした!何とぞ命だけは……」
地面に頭をこすり付けて頼み込む甥に、イーグルはやれやれといった顔をする。
「たしか、貴様には娘がおったはずだ。ナディといったかな?」
「は、はい!今年12歳になる可愛い娘で……はっ、まさか!」
ゴールドはあることに気がついてはっとなる。
「ナディをリトネの婚約者にして、わがシャイロック家を一つにまとめようと思う」
それを聞いた途端、ゴールドは満面の笑顔を浮かべた。
「そ、それはすばらしい。わが娘は美しく、魔法の才能も優れていて、性格も良く、リトネ様と同い年。まさに結婚相手としてぴったりではないですか!」
ゴールドは必死になって、娘の長所をアピールしてきた。それをイーグルは苦笑して聞き流す。
「暗殺など考える前に、娘をわが孫と結婚させたいと申し出てくればよかったのだ。そういう考えの足りないところが、はっきりと貴様を後継者に指名しなかったわけでもあるのだが……まあよい。今後はリトネの義父となり、その後ろ盾を勤めよ。リトネとナディの間の子が、次の次の当主じゃ!」
「は、はい!全力でリトネ様を支えさせていただきます」
再びゴールドは平伏して、忠誠を誓うのだった。
数日後、豪華な馬車に乗って、小心そうな男と、白い肌の小柄な美少女が館に訪問してくる。
「はじめましてリトネ様。私はゴールド・シャイロック。こちらは私の娘のナディと申します」
「…………」
ゴールドはもみ手をせんばかりに卑屈な笑顔を浮かべていたが、ナディは無表情である。
「こら、ちゃんと挨拶をしないか!」
父親に怒られて、少女はしぶしぶと口を開いた。
「…ナディ……です」
軽く挨拶すると、また下を向く。応接室に気まずい雰囲気が漂った。
「は、はじめまして。リトネ・シャイロックと申します。あなたとは又従兄妹になりますね。お会いできて光栄です。おじい様から聞いていたとおり、お綺麗な方ですね。これからよろしくお願いします」
精一杯の笑顔を浮かべてリトネは話しかけるが、ナディはぷいと顔を背けた。
「…………その笑顔、きもい」
ナディがそういったとたん、部屋の空気が凍りつく。
「な、なぜだ。明るく友好的に話しかけたなのに!好印象を与えられると思ったのに!」
「…………ただし、イケメンに限る」
「ぐはっ!」
リトネの心にナイフを突き刺し、ナディはグリグリと抉った。
「なんじゃと!!??????この小娘、わしの可愛いリトネになんと言った!」
イーグルの額に血管が浮き、ゴールドが慌てる。
「も、申し訳ありません。こらナディ、謝りなさい!」
「事実を言ったまで。つくり笑顔がきもい。私を利用しようとする下心が見え見え。そんな男と結婚なんかしたくない」
ナデイはそういうと、立ち上がって部屋から出て行ってしまった。
「リトネ様!本当に申し訳ありませんでした。娘には私からきつく申し渡しておきますので、どうか婚約解消だけはご勘弁を……」
みっともなく懇願してくるゴールドに、リトネは笑いかけた。
「いや。出会ったばかりの男を婚約者になど、無理な話でした。とりあえず、友達になれるように努力します。ゴールド様も、あまりきつく叱らないでください。彼女を追い詰めてしまいます」
「……そうじゃな。考えてみたらまだ子供じゃ。これからゆっくり時間をかければよいじゃろう」
イーグルもリトネの思惑を悟り、フォローしてくれた。
「あ、ありがとうございます」
頭を下げるゴールドに苦笑し、リトネは立ちあがった。
「では、子供らしく追いかけてみます。後は僕に任せてください」
一礼して、リトネは応接室を出て行った。
なんとかナディをなだめて、応接室に戻る。
「何とか仲直りできました。これから、よろしくお願いします」
「……お願いします」
リトネは作り笑いを浮かべ、ナディは無表情に手をつなぐ。
その様子をみて、ゴールドはやっと安心することができた。
別れ際に、リトネはナディに警告する。
「ひとつアドバイスしよう。君のお母さん「白姫ノルン」は、リリパット銅爵たちを救いに『グーモダンジョン』に行くだろう。そこで六魔公の一人「ツチグーモ」に負けて毒を受ける」
「……?何言っているの?母様はエルフ。誰にも負けない」
リトネを馬鹿にしたように、ふんっと鼻で笑う。
「この警告を生かすかどうかは君しだいだ。この手紙をお母さんに渡してくれ。詳しいことが書いている」
そういって、無理やり手紙をもたせた。
「……あなた、ほんとうに押し付けがましい。気持ち悪い」
「何とでも言ってくれ。確かに警告したぞ」
リトネは怖い顔をして念を押すのだった。
二人を乗せた馬車が沿っていくのを見送り、イーグルがつぶやく。
「……やはり、余計なお世話じゃったかの?」
「いえ、そうとは限りませんよ。この機会に警告できましたし。少なくとも、学園で初めて顔を合わせるよりはマシですね。まあ、ゆっくりと攻略しましょう」
自分に言い聞かせるかのようにつぶやくリトネだった。
(やばいぞこれは……このままじゃ、勇者に全部持っていかれてしまう)
改めて勇者と張り合うことの難しさを知る。あっちは勇者という生まれ持ったチート能力がある上にかくし子とはいえ王の血を引く王子様。しかもイケメンとくればほぼ無敵である。貴族の跡継ぎとはいえ、能力的には平凡であるリトネは最初から不利であった。
「これからどうすれば……そもそも、勇者に勝つにはどうすれば……」
何とかして彼に匹敵する力を身に着けたいが、どうしたらいいか分からない。
うんうん唸りながら廊下を歩いていると、メイドが叫びながら走ってきた。
「おぼっちゃま!大変です!!!早く地下室に避難して!」
「え?どうしたの?」
「中庭に……巨大なドラゴンが……」
それを聞いた途端、リトネは中庭に走っていった。
中庭
ボロボロになった騎士たちが、庭に倒れている。
鋭い爪で鎧は裂け、炎で丸こげになっているが、傷ついただけで命には別状はなさそうだった。
中庭に走ってきたリトネに対して、彼らは告げる。
「お、おぼっちゃま……お逃げください。凶暴なドラゴンです。我々も戦いましたが、まるで歯がたたず……」
そこまで言った所で、意識を失う。
(やばい。超こええ)
ドラゴンの迫力に押されてちびりそうになりながらも、リトネはドラゴンの前に進み出た。
「グワァァァァァァァァァァァァァァァ」
大きな口をあけて威嚇するドラゴンに、頭を下げる。
「マザードラゴン様。ようこそお越しくださいました。私はシャイロック家の跡継ぎ、リトネ・シャイロックと申します。あなたのお越しを心からお待ち申し上げていました」
礼儀正しく、そして卑屈にならないように精一杯敬意を示す。
ドラゴンはしばらくリトネをにらみつけていたから、ふんっと鼻息をもらした。
「……一応、礼儀を知っている小僧だな。話だけは聞いてやる」
しわがれ声でそう告げると同時に、姿が変わっていく。
「……とりあえず、我が子の元に案内せよ」
マザードラゴンは妙齢の女性の姿になって、偉そうに命じた。
「きゅいきゅい!」
「おお、可愛い子でちゅね~。無事に生まれてよかったでちゅ」
ミルキーに用意された部屋で、マザードラゴンは愛情たっぷりにお乳をあげている。
「お兄ちゃんは見ちゃいけないよ」
「わかっているよ」
後ろからリンに目をふさがれたリトネがつぶやく。
メイドたちもその様子をほほえましそうに見つめていた。
「……もうよいぞ」
しばらくして授乳を終えたマザードラゴンが声をかけると、リンはやっと手を放した。
「さて……リトネとかいったな。事の経緯を話してもらおう」
ミルキーのときとは一変して怖い顔になったマザードラゴンに、リトネは今までのことを包み隠さす話す。
すべて聞き終えたマザードラゴンは、大きくため息をついた。
「なるほど。嘘は言っていないようだ。お前たちは私の卵を盗んだ盗賊から、知らずに卵を買い取っただけか。なら、責められぬな」
「我々人間の無礼を、お許しいただけますか?」
リトネが胸をなでおろしながら聞く。
「本音を言えば、皆殺しにしてやりたいところだがな。ワラワも人間である勇者アルテミックに育てられた身だ。これも運命なのかもしれん」
無邪気にリトネの頭に上ってきゅいきゅいと喜んでいるミルキーを見て、目を細める。
「我々の伝説にも残っていましたが、本当だったんですね」
「うむ。我が寄り父は本当によい男でな。ワラワを本当の子供のように育ててくれた。ワラワを狙う人間や魔族を何十人も返り討ちにしてな。あの勇姿は、いま思い出しても心が震える」
マザードラゴンは何かを思い出して、頬を緩める。
しかし、次の瞬間冷たい顔をしてリトネをにらんだ。
「……だが、わが子の寄り父が貴様とは、なんと嘆かわしい。力も魔力も並の人間と大して変わらぬ。今の貴様に預けると、わが子を守りきれぬだろう」
「はぁ……やっぱりそうですか」
改めて自分の無力さを指摘され、リトネは落ち込む。
しかし、マザードラゴンはそんな彼をみて、ニヤリと笑った。
「仕方ないので、ワラワが加護を授けてやろう」
リトネをぐいっと引きよせて、口を付ける。
「○△▲×凹凸凹!!!」
リトネの全身に激痛が走った。
「暴れるでない!今そなたの体に竜血を流し込んでおる。しばらく耐えよ!」
口付けしたまま、マザードラゴンは思念波で話しかける。
永遠にも続くかと思われた苦痛は、やがて唐突に終わりを告げた。
「はぁ……はぁ……」
終わった後、リトネは床にへたり込む。
「ほう。あれを耐えたか。根性だけはあるようじゃな。よいか、貴様に流し込んだ竜血は、加護と同時に呪いを与える。もし貴様がわが子を害したり、邪悪な存在になった場合は、呪いとなって体を蝕むであろう」
マザードラゴンの言葉を聴きながら、リトネは胸の中で思う。
(わかっていますよ。勇者が魔王を倒すぐらいまで成長できたのも、マザードラゴンの加護を得たため。そしてその後滅んだのも、加護が呪いに変換されたため。なんにしろ、これで勇者と同じスタートラインに立てた)
ひそかに喜ぶリトネだったが、次の言葉で失望する。
「わが加護は「限界突破」じゃ。死ににくくなり、鍛えれば鍛えるほど強くなるというものじゃ。多少は肉体も強化され魔力もあがったが、貴様はまだ弱いままじゃ」
「え?だったら、ミルキーを守れないんじゃ?」
チート能力を手に入れたと思っていたのに、あてが外れてがっかりする。
「案ずるな。まだ我が子には乳が必要じゃ。これから毎日ここに通って授乳せねばならぬ。そのついでに貴様を鍛えてやろう。父アルテミックと同じように、我が子をまもるためにな」
そういって笑うマザードラゴンを見て、リトネはこれからの生活に不安を感じるのだった。
「もっと耐えろ。体の表面の防御膜を維持するのじゃ」
大きな釜の中に入れられ、そのまま火をかけられる。まるで釜茹での刑だった。
「熱い!」
「防御壁を張り続けるのじゃ!気をコントロールするのじゃ。一日中でも維持できるようにせよ!」
結局その日一日中釜でゆでられ、体中がふやけてしまうのだった。
次の日
「さっさと走れ!意識を集中させろ!」
「ひぃぃぃい!」
素っ裸のリトネが、はだしで走らされている。
周りには、鋭い刺を持ったハリネズミがのんびりと日向ぼっこしていた。
ここは大陸の端、未開の地にある『針の山』である。
魔物の一種であるグレートハリネズミがうじゃうじゃ生息する、誰も近寄らない岩山に連れてこられて、一日中ランニングさせられていたのだった。
とうぜん周りにはハリネズミがいるので、『気』を張り巡らせて身体に防御膜を張り巡らせていないと大怪我をすることになる。
「いたっ!」
足元にいた子供のハリネズミを踏みつけて、リトネが悲鳴を上げる。
「ばか者!常に自然状態で防御壁を張り巡らしておかねばならん。『気』を断つからじゃ!」
血だらけになったリトネを、容赦なく折檻するマザーだった。
こんな修行を一ヶ月も続けた結果、ようやく気で体を防御することをマスターするのだった。
マザードラゴンとの地獄の修業や、貴族の勉強にも慣れてきたある日、リトネはイーグルに呼ばれる。
「おじい様、失礼します」
執務室に入ると、意外な人物がいた。
「ゴールド様?」
「リトネ様、お久しぶりでございます」
ゴールドは、以前より落ち着いた様子で、入ってきたリトネに一礼した。
「なぜゴールド様がここに?」
「うむ。実はな。王国の予算編成の時期が近づいてきた。これから半年間、わしは王都に滞在せねばならん」
王国から届いた命令書を見せて、イーグルは告げた。
「そういえば、おじい様は財務大臣でしたね」
「うむ。正直王国などどうでもよいのじゃが、王に泣きつかれてな。ワシが予算を組まぬとまともに国を動かすこともできぬ。だが、リトネだけを残していくのも不安なので、ゴールドを呼んだ」
イーグルは今度はゴールドを見て、厳しい顔で告げた。
「よいか。リトネは優秀な召喚士であり、マザードラゴンの加護を得ているとはいえ、まだ12才の子供じゃ。ワシの代理を勤めるのは無理があろう。ゴールド、貴様が補佐役となって、実際の政務を受け持つのじゃ」
「はっ、承りました!」
ゴールドは深く頭を下げて、命令を受け入れた。
「リトネ、貴様はシャイロック家の跡継ぎとして、政治に深くかかわる身じゃ。ゴールドに師事して、政務を学ぶがよい」
「はい。がんばります。ゴールド様もよろしくお願いします」
「こちらこそ。リトネ様」
リトネとゴールドの様子をみて、イーグルは安心したように笑みを漏らした。
ロスタニカ王国 財貨室
国に残された財貨を確認して、財務大臣イーグル・シャイロックはため息をついていた。
「これは酷い……」
一国の財貨室だけあって金銀財宝であふれていたが、肝心なものが足りなかった。
建国当時は山のようにあふれていた金貨・銀貨が、今ではほとんどなかった。
「……ワシが領地に帰っている間、この部屋の財貨には手をつけるべからずときつく申し渡したはずだが?」
イーグルは鋭い目で財務担当の官僚を睨む。彼は恐れ入って平伏して言い訳を始めた。
「それが……緊急の出費がございまして」
「出費とは?」
「勇者アルテミック誕生400年祭の追加予算と、寵妃アントワネット様のギャンブルの負けの補填、麦の不作のため、騎士たちからの借金の申し込みが……」
それぞれの金額を提示されて、イーグルは眩暈がしそうになった。
「馬鹿な!王が毅然とした態度を騎士に示さずにいてどうする!騎士どもに舐められるだけではないか!あのバカ王め!」
ついにイーグルは癇癪を起こしてしまった。
「おっしゃるとおりです。いずれこのままでは、国庫が破綻してしまいます」
財務官僚の男たちは青くなって震えていた。
「……やむを得まい。もう一度現状をまとめて陛下に奏上する。やれやれ、ここから建て直すのは並みの努力では追いつかぬぞ」
イーグルはこれから先の困難を思い、肩を落とすのだった。
国庫の現状について詳しく資料をまとめ、イーグルは国王に謁見を求める。
散々待たされた後、やっと国王は会ってくれた。
「仕方ないだろう。困っている人をみたら、無私の心で救ってあげないと、ましてそれが僕の部下なら、王が手を差し伸べるべきことだろう?」
「それで国庫に負担を押し付けられ、国が滅んだら本末転倒ですぞ!国を支えるべきものたちが、国を危うくしてなんとします!」
「だ、大丈夫だよ。いざとなったら、借りれば」
「誰からですかな?」
「……」
ルイは期待するような目をイーグルに向ける
「言っておきますが、わがシャイロック家から王家への貸し金は1000万アルにもなっています。これ以上は貸せませんな。また、私が財務大臣である間は返済の猶予を受け入れていますが、辞任した後は全額返済していただきます」
「そ、そんな!困るよ!爺に見捨てられたら……」
ルイは青くなって頭を下げる。さすがに彼に見捨てられたら国家財政が破綻してしまうということは、イーグルから口をすっぱくして言い聞かされたのでわかっているのである。
情けない王の姿を見て、イーグルはため息をついた。
「……とにかく、この三つの問題を解決しないかぎり、新たな予算の編成などできはしません。ワシに全権をゆだねていただけますかな?」
「爺にお任せします」
ルイは観念して、全権代理の命令書をイーグルに与えるのだった
王家の後宮
ルイ17世の寵妃、アントワネット銅爵夫人が、近侍の少女に命令していた。
「マリア、このお菓子をセイジツ金爵家に届けてほしいの」
きれいな箱に入ったショコラを差し出す。
「うわっ。きれいですね、まるで宝石箱みたい。それに、おいしそう」
まだ12歳くらいの可愛らしい娘は、思わず唾をごくっと飲んだ。
それを見て、アントワネットは苦笑する。
「だめよ。これはアベルへのプレゼントなんだから」
彼女は離れて暮らす自分の息子のために、わざわざ手作りで作ったのだった。
「はぁーい」
受け取って、近侍の少女マリアは近くの金爵家の屋敷まで走っていった。
「アベル様にお届けものですよ。アントワネット様からです」
いつものことなので、マリアはフリーパスでセイジツ金爵家に入れる。
彼女を迎えたのは、輝くような金髪を長く伸ばした美しい少年だった。なぜか前髪が長く、目が隠れている。
「マリア、ありがとう」
箱を受け取ってあけると、おいしそうなショコラと手紙が入っていた。
「我が息子アベルへ。いつも不自由をさせて申し訳なく思っていますが、もう少しの辛抱です。シャイロック金爵などの一部の頑固な貴族たちは反対していますが、いずれ私は正式な王妃になるでしょう。そうしたら、あなたは晴れて、日のあたる場所に出てこられるでしょう。その日まで、強く生きていてください」
手紙からは、母アントワネットからの深い愛情が感じられた。
(お母様……僕はがんばっています。いつかきっと、母様と一緒に暮らせる日がくると信じて。シャイロックとやらの悪臣には負けません。いや、僕がアントワネット銅爵家の後継者として認められ、王の信認を受けるようになったら、奴らを皆殺しにしてやる)
菓子箱をもったまま、危ない妄想をするアベル。実は彼は母アントワネットが産んだ隠し子として、父親が誰か知らなかった。そのため母の実家セイジツ金爵家にひそかに養われているのであった。アベルはセイジツ金爵家においても日影者として扱われていて、美しくでプライドも高く、そして頭もよい彼には現状の身分が耐えられなかった。
(いつか、勇者になって世界を救ってやる。そうすれば……)
手に力が入ったので、菓子箱がメキっと音を立ててつぶれる。
「アベル様!もったいないですよ!」
「はっ。す、すまないマリア」
「もう……アベル様は力持ちなんですから、気をつけてくださいね」
そういって明るく笑うマリア。彼女は母親とのパイプ役であり、アベルの幼馴染である。彼にとって母親以外に唯一心を許せる相手だった。
「さあ、お茶にしましょう」
甲斐甲斐しくお茶の用意をして、アベルを席に座らせる。
「はい。あーん」
「あーん」
恋人のようにマリアに尽くされるアベルだった。
数日後、イーグルの宰相就任のパーティが開かれる。
国王も出席するパーティなので、国の重要人物はほとんど来ていた。
壇上に新たに宰相となるイーグル・シャイロックが立った。
「みなの者、よくぞパーティに参加してくれた」
壇上で傲慢に言い放つイーグルに対して、拍手かバラバラと沸きあがるが、ほとんどの者は憎しみの視線を向けている。
彼らにとって、うるさく口を出してくる彼は目の上のたんこぶであった。
そんな視線を無視し、イーグルは壇上で演説を始める。
「今日集まってくれた者たちは、国家に対して重要な責務を負う立場にいるものばかりだ。だから、これからも国に協力して欲しい」
イーグルが頭を下げると、彼らの表情もすこし和らいだ。
ようやく自分たちの立場を尊重してくれるようになったと思ったのである。
「いやいや、こちらこそお願い申し上げる。われわれは国のためなら、いつでも命を差し出す覚悟を持つ忠臣です。今までのいきがかりをすて、今後は協力しましょう」
にこやかに笑うルドルフ大騎士に、イーグルはにやっと笑う。
「アントワネット様はどうでしようか?」
「え?ええ、私ができることであれば……」
いきなり問いかけられて戸惑ったが、とりあえず適当に返事をしてしまう。
「ソレイユ卿は?」
「もちろんですとも!」
イーグルにギロリとにらみつけられ、慌ててソレイユは首を縦にふった。
三人の言質を取った上で、イーグルは命令を下す。
「では、早速協力していただこう」
イーグルが合図すると、何十人もの騎士たちが乱入してきて、彼らを拘束した。
「これは、どういうことだ!」
「あなた方に確認したいことがあるので、宰相閣下の許可を持ってこのような所業になりました。これも国を思う心の表れ。ご理解いただきたい」
「ばかな!われらが何の罪を犯したというのだ!」
ソレイユ大臣が声をからしてがなりたてる。彼の取り巻きの商人はすっかりおびえて、部屋の隅でぶるぶると震えていた。
「……それを調べさせていただく。あなたの屋敷には、別働隊が向かっています。やましいことがなければ、彼らが身の潔白を証明してくれるだろう」
イーグルの冷たい声を聞いて、ソレイユは青くなる。彼ら商人と結託して、大量の水増しした経費を懐にいれた証拠書類が屋敷にあるからであった。
「……私はどうなるのです?」
きっとなったアントワネットがイーグルを睨む。
「あなたには、少々お話をさせていただきます。ギャンブルの負け分の返済方法とか、今後の後宮費についてもね。騎士たちよ。彼女たちを丁重に後宮に送り届けよ」
イーグルの命令に従って、騎士たちが貴婦人たちを連行する。
アントワネットは悔しそうな顔をして退出していった。
「さて……ルドルフ大騎士」
「なんだ?ワシらは別に法にふれることはしておらんぞ」
イーグルの前で轟然と胸をはる。たしかに騎士の書いた借用書自身はある時払いの催促なし、無利子というひどい内容だったが、違法とまでは言えなかった。
「確かに、違法とはいえませんな」
「そうであろう」
勝ち誇った顔をするルドルフだったが、イーグルの次の言葉で真っ青になる。
「ですが、国に借金の肩代わりをしてもらわないほど困窮するということは、領地の経営がうまくいっていないということです。もともとあなた方の領地は国から下賜され、政務を任されているにすぎません。無能であるということは、改易の立派な理由になりますな」
「ま、まさか!」
イーグルの思惑を悟って、ルドルフは真っ青になる。
「この借用証書を書いた者は、経営に失敗したとして領地を没収する。逆らうようであれば、反乱罪を適応して一族全員死刑とする」
イーグルの冷たい言葉に、いい気になっていた大騎士たちは震え上がる。
「ま、まってください!そんなつもりはなかったのです!」
「先祖代々受け継いだ領地を失うのは耐えられません!撤回させてください!」
慌ててイーグルの足元にすがりつくが、冷たく払われる。
「断る。どうせ国庫から引き出した金はもう返済に使うか浪費でなくなっておるのだろう」
「そ、それは!」
言い当てられて騎士たちは口ごもった。
「……領地を召し上げた大騎士たちよ。今後は最低ランクの騎士からやり直すがよい」
イーグルの言葉にがっくりとうなだれる騎士たち。
こうして、国を食い物にする三種のシロアリの駆除に成功するのだった。
しかし、多額の賠償金を払わされた商人や、後宮費の削減のためリストラされた使用人、領地を失った騎士の恨みを買うのだった。
その中には、世界に重要な影響を及ぼすことになる少女がいた。
「お父様を捕まえたシャイロック家が、にくい」
「アントワネット様。私が絶対に仕返しします」
「くそっ!あいつら卑しい金貸しだけはゆるさねえ!あたいの親父の騎士の誇りを汚しやがって!」
三人の少女の憎悪は、いずれ出会う少年に向けられるのだった。
夜
空には、青い月が浮かんでいる。魔物が活発化する、月に一度の「蒼月夜」である。
魔皇妃カイザーリンは、リトネの情報を探っていた。
「まずいな……計算外だ。リトネがマザードラゴンの加護を得てしまうとは」
彼の身辺に潜入させているスパイの記憶を読んで、本来は弱いままであるはずのリトネの急激な成長に驚く。
「私が目覚めていられるのは、魔皇帝様が復活するまでは月に一度の蒼月夜だけ……なんとももどかしいな」
封印されていて、自由に動けないわが身を嘆く。
「ならばいっそのこと……くふふ。魔公を予定より早く目覚めさせて、力をつけさせるか」
そう独り言をつぶやくと、カイザーリンは北のリリパット銅爵領に向かう。
空を飛んで数時間で、目的地に着いた。
「我が同胞、六魔公の一人、土のツチグーモよ。我が祈りに応え、目覚めるのだ」
地面に手をつけて、しばらく念じる。
すると、地面の一部が盛り上がり、巨大な蜘蛛が起き上がってきた。
「シュュュュュァァァァァァ」
蜘蛛は糸を吐いて、カイザーリンを絡めとろうとする。
「おっと。目覚めたばかりだというのに、元気がいいな」
カイザーリンは空中に飛び上がって苦笑する。
「ほら、貴様の倒すべき相手はあっちだ。間違えるな」
カイザーリンは近くの入り口を指し示す。
巨大な蜘蛛は、その穴に入っていった。
リリパット銅爵領都 シェルター
街の中心部近くにある繁華街に、冒険者ギルドがある。
そこに設けられた情報交換のための酒場で、ひとつのチームがくだを巻いていた。
「……なんか、いい依頼がないのかしら?」
酒を飲みながら、色っぽい格好をしたエルフがつぶやく。
彼女は「白姫ノルン」と呼ばれる、Aランクの冒険者だった。
「仕方ない。このところ平和だからな」
筋肉ムキムキのドワーフがつぶやく。
「もうほかのダンジョンに潜るのも飽きちゃったよねー。全部制覇しちやったし」
メガネをかけ、赤い頭巾をしたリリパットの少女が、巨大なペンチをもてあそびながらあくびをする。
「退屈なら……俺といいことしないか?」
金髪のイケメン剣士がいやらしくノルンの手を握るが、ぺチンとその手を払われた。
「残念でした。私は人妻なの。おとといきなさい。ぼうや」
余裕たっぷりにいなされて、イケメン剣士は落ち込んだ顔をした。
彼らこそ、この世界でも1.2を争う名高い冒険者チーム「白姫」である。
ドワーフの戦士と人間の剣士、リリパットのメカマンとエルフの白魔術師という奇妙な集団だったが、多くのダンジョンを制覇してAランクまで到達していた。
その時、ギルドの本店に白髪のリリパットが飛び込んでくる。
「た、大変だ!!!助けてくれ!」
中にならわめき散らすので、あたりは騒然となった。
「あれ?爺じゃん。どうしたの?」
それを見て、リトルレットが声をかける。
「リトルお嬢様!!!よかった!!この街にいたんですね!助けてくだされーーーー!」
興奮してすがり付いてくる。
「お、落ち着きなよ爺。なにがあったのか、ちゃんと話して!」
ギルドに別部屋を借りて、詳しく話を聞く一同だった。
「え?家へのエレベーターが動かなくなった?」
白髪のリリパットから話を聞いて、リトルレットは目を丸くする。
「そ、そうでございます。お嬢様もご存知のように、我々リリパット銅爵家の本城は地下深くにあり、地上とは太古に作られた魔道エレベーターで直接つながっています。しかし、その間にある封印された「コウジョウ」と呼ばれるエリアに何かの魔物が入り込み、エレベーターをふさいでしまったのです!」
白髪頭のリリパット銅爵家の執事は、水を飲むと一気に説明した。
「そんな!それじゃ、父様たちも?」
「ええ、地上に出ていたのは、我々家臣とあなたのみ。他のリリパット銅爵家のかたがたは、地下の住居部分に閉じ込められてしまったのです」
執事の説明を受けて、リトルレットは立ち上がる。
「すぐに助けにいくよ!」
あわてて走り出そうとする彼女を、ノルンは引き止めた。
「まあ、待ちなさい。おそらくその魔物は強いわ。返り討ちにあうかもしれない」
「でも!」
泣きそうな顔になるリトルレットを抱きしめて、ノルンは笑う。
「大丈夫よ。準備してからいきましょう。ふふふ……これを待っていたのよ!」
ノルンの顔には、新たな冒険への期待が現れていた。
数日後
シャイロック金爵家に、リリパット銅爵家からの使者が訪れる。
「はじめまして。シャイロック家の跡継ぎである、リトネ・シャイロックと申します」
応接室で応対する領主代行の前に座っているのは、暗い顔をした中学生くらいの可愛らしい女の子だった。 赤い頭巾をかぶっている。
「お初にお目にかかります。私はリリパット銅爵家三女、リトルレット・リリパットと申します。突然の訪問にもかかわらずお時間をとっていただいて、感謝しています」
震えながら礼をする。彼女の着ていた服は破れ、体は何かの体液で汚れていた。
とても隣領の正式な使者とは思えない。
事実、シャイロック城の前でウロウロしていたのを不審者として捕まえられ、地下牢に入れられたのをリトネが聞いて、あわてて牢から出して面会したのである。
「どうぞ、おかけになってください。お茶を頼むよ」
椅子を勧めて、そばに控えていたリンに給仕を頼む。
しかし、彼女は一秒でも惜しいという風に首を振った。
「リトネさまにお聞きしたいのですが、この手紙はあなたがノルンに書かれたものですか?」
懐からしわくちゃになった手紙を取り出して、リトネに渡す。
「ええ、確かに私がノルン様に警告したものです」
それを見て、リトネは自分が書いたものだと認めた。
「どうして我が領の危機がわかったんだ!君がツチグーモをけしかけて、わが家を襲わせたんでしょ!君のせいでノルンたちまで……ありとあらゆる対毒ポーション、一瞬で全回復できるエリクサーまで用意していたのに、助かったのは、ボク一人で……」
いきなりリトルレットは泣きながらポケットからペンチを取り出して、リトネに突きつける。
それは一瞬で巨大化して、リトネを威嚇した。
しかし、リトネは落ちついて答えた。
「……そんなことをして、我が家になんの利益が?」
「そ、それは……ボクの家の領地を奪おうとして……」
「仮にそうだとしても、ならばなぜ警告を?」
「そ、それは……」
リトルレットは言葉につまる。
「白姫ノルンは、我が婚約者の母親。だから警告をしたまでです。ですが、正直私も驚いています。まさかこんな早く魔族の活動が始まるとは……もっと後にこのイベントが起こると思っていました」
「イベントだって!君は何を知っているんだ?」
再びリトルレットは激高する。
「あなたが信じるかどうかわかりませんが、私は女神ベルダンティーから使命を受けたものです」
リトネは知っていることを、話し始めた。
「そんな……これから魔皇帝と六魔公が復活して、世界を侵略するって……」
すべてを聞きおえたリトルレットは、しばらく呆然としていた。
「女神の予知では、六魔公ツチグーモは最後に現れる最強の魔公です。勇者はあなたと協力して打ち倒し、「土の珠」を手に入れます。それを使って伝説の船ペガサスウィングを復活させて……」
「もういいから!そんなホラ話!ボクを馬鹿にしているの!」
ついにリトルレットは怒り、席を立った。
「待ちなさい。どこに行く気ですか?」
「ここにくれば何かがわかると思ったけど、時間の無駄だったよ。ボクは一人でもみんなを助けてみせる。勇者なんか必要ない!」
そのまま走って館を出て行ってしまった。
一人残されたリトネは、ソファに座ってため息をつく。
「そりゃ、こんな話は誰も信じないよなぁ。この世界はゲームじゃないんだ。リアルに起こっている家族の危機を、イベント扱いされたら怒りたくもなるか」
そういって反省するが、リトネにだってどうすればいいかわからない。
魔族の復活が行儀よく知識どおりに進んでくれないので、心底困っていた。
その時、ドアが開いて、ナディが入ってくる。
「……お母様が魔物に捕らえられたって、本当?」
今にも泣き出しそうな顔をしている。
「聞いていたのか。ああ、残念ながら本当だよ」
リトネがそういうと、ナディは沈黙する。
「……あなたの言ったとおりになった。信じなくてごめんなさい」
しばらくして、ナディは頭を下げて謝ってきた。
「……いや、いいよ。所詮預言なんてものは、事が起こるまでは誰にも信じられなくて当然なんだ」
「今ならあなたが言ったことは信じられる。それで、どうすればいいの?勇者に助けを求めれば、お母様は助かるんでしょ?」
リトネにすがり付いて、必死に聞く。しかし、リトネはゆっくりと首を振った。
「残念だけど、今の時点では勇者はただの一般人だ。仮に勇者に頼ったとしても、ツチグーモにははかなわないだろう」
「そんな!それじゃあ、どうすれば……」
ナディの嘆きに、リトネはじっと考える。
しばらくして、ナディの頭にポンと手を載せた。
「ここでノルンやリリパット銅爵家を見捨てたら、攻略する予定のヒロイン二人から嫌われてしまうな。しょうがない。僕が行こうか。イヤだけど」
本当に嫌そうに言うリトネを見て、ナディは複雑な顔をする。
「助けてくれるなら、勿体つけないで。それに勝手に私たちを攻略しないで。そういう打算的なところが大嫌いなの。どうして嘘でもいいから、勇者っぽく困っている人を見捨てられないからと言えないの?」
「残念だけど、勇者じゃないんでね。俺はヒロインに恩を売るために、魔公と戦うんだ。だから、もし俺がお母さんを助けたら、感謝して俺に惚れなさい」
おどけた様子でリトネは笑う。
「馬鹿!」
ナディにひっぱたかれるリトネだった。
リリパット銅爵家
リトルレッドがダンジョンに入って数時間後、リトネたちが館に到着する。
「リトルレットさんはいますか?」
馬車から降りるなり、リトネは執事に聞く。
「お嬢様は家族を助けるために、コウギョウエリアに入っています。私たちも心配しているのですが……いまだにお戻りになられません」
やきもきとした様子の執事はそう答えた。
「やばいな……間に合えばいいいんだけど。リン、ナディ、いくぞ!」
「はい!」
「お母様を助ける!」
リトネたち三人は、グーモダンジョンにもぐっていった。
「シンニュウシャ・ニンシキ・ハイジョシマス」
機械的な声が発せられると同時に、シャキーンと音がして丸い円盤の側面から鋭い刃が出る。
「やばい!二人とも俺の後ろに隠れろ!『剛竜拳』全開!」
リンとナディをかばって、気を全開にする。
次の瞬間、ギュイイイーーンと音を立てて、が襲い掛かってきた。
「く、くそっ!おとなしくしろ!」
リトネは回転する刃に体表面を削られながらも、必死にゴーレムを押さえ込む。
いくらフルプレートに匹敵する防御力を持っていても、このままでは破られて体を両断されかねなかった。
「任せて!『水玉』
リンが後ろから杖をふるい、ルンバンを水の玉で包む。
パンという音がして、ルンバンは動きを止めた。
「助かったよ……電化製品の天敵は確かに水だな。水に浸かったら、たいていはショートして故障するか。よくやったぞ!」
「えへへ……すごい?なんかね。あのミルクのんでから、力があふれているの」
リトネに褒められてリンは気をよくするが、ナディから警告が入る。
「気をつけて!囲まれているわ!」
いつの間にか、たくさんのルンバンが全方位から迫ってきていた。
「くそっ!やばい!」
とっさにリトネは二人を両肩に担ぎ上げる。
マザーとの修行でレベルアップしていた彼は、二人の少女を軽々と担ぎ上げることができた。
しかし、その足元では多くのルンバンがガリガリと防御壁を削っている。
「いてぇ!リン、早く!」
「うん!『噴水』
リンが杖を振ると、リトネを中心として大量の水が噴出してルンバンたちをぬらす。
こうして、辛うじて先に進むことができた。
それからのダンジョン探索は、リトネが盾となって敵を引き付け、リンが水をかけ、ナディが凍りつかせて無力化するやり方で進む。三人の連携はうまくいき、本来ならラストダンジョンであるグーモダンジョンをどんどん攻略していった。
リトネたちがいる下の階
一人の少女が、傷だらけになりながら進んでいた。
「キルユー!」
なぜかサングラスをしたマッチョ男性を模したゴーレムが、大きなマシンガンを撃ちまくる。
「……くっ。「弱点のグラス」」
少女-リトルレットは物陰に隠れたまま、動けずにいた。
「はあ、はあ……どうしてあんなやつが!ノルンたちと来たときはいなかったのに!」
隠れたまま愚痴る。最初にダンジョンに入ったときはDランク程度のゴーレムばかりだったのに、いつのまにか強いゴーレムが出現していた。
「なんて、愚痴っていても誰も助けてくれないよね。いいさ、ボクは一人でも仲間を助けてやる」
物陰からこっそりとゴーレムの様子を伺う。
かけているメガネが輝き、ゴーレムの弱点を探りだした。
「……外部動力タイプだね。だとすると……あそこだ!」
後ろを向いてこの階の入り口まで戻る。
その付近の床を丹念に探すと、怪しげなネジを見つけなた。
「早くしないと……あいつがきちゃう!『自在の工具』よ、変形しろ!」
持っていたペンチがドライバーに変わる。
背後からマッチョゴーレムが近づいてくる気配を感じながら、必死にネジを回した。
「よし、外れた!」
ネジをはずすと、床の一部が開く。あけて見ると、中にはボタンがあった。
「これであいつを停止……ぐっ!」
突然右手に痛みが走り、血が流れる。
後ろを見るとマッチョゴーレムがすぐそばまで迫り、自分に向けて銃を撃っていた。
あまりの激痛で、気絶しそうになる。
「負けるもんか……ボクは……みんなをたすけるんだ!」
まだ動かせる左手で、渾身の力をこめてボタンを押す。
「ヒジョウテイシ」
マッチョゴーレムは、リトルレットに銃を向けたまま停止した。
「はあ……はあ……やった」
リトルレッドは、その場に座り込んで安堵する。
持ってきた包帯で右手を縛り、ポーションを飲んで血を止めた。
「迷っていても仕方ない。いこう。いよいよ最終階で、あいつがいるところだ」
リトルレッドは気持ちを切り替えて、最終階への階段を降りていった。
リトネたちは、動きが止まったゴーレムを見て感心していた。
「どうやらリトルレットはここまで来たみたいだな。しかし、よくこんなのと戦って生き残れたな」
リトネは強そうなマッチョゴーレムを見て身震いする。大きい上にマシンガンまで装備しているので、こんなのとまともに戦ったら命がいくつあっても足りないと感じていた。
「ここにボタンがあるよ。これで動いたりとまったりするんじゃない?」
リンがしゃがんで床の一部を指差す。
「……なるほど。考えたら暴走したときのために非常停止のシステムがあって当然か。まともに戦ってきたのが馬鹿みたいだ」
リトネは今までの戦いを思い出して憮然とする。
「……それより、急ぐ。彼女、怪我をしている」
ナディが床を見て言う。床には転々と血のあとがついていた。
「グズグズしてはいられないな。いそごう」
三人は工業エリア最終階に進んでいった。
最終階
地上まで吹きぬけになっている巨大な穴が魔動エレベーターのある部分である。
その底に、一匹の巨大な蜘蛛が巣を作っていた。
「シャァァァァァァァ」
叫び声をあげながら、尻から白い糸を吐く。
巣には大勢の人型の塊が散らばっていた。
「ねえ……あれって」
「うん。そうだろう」
三人は顔を見合わせて頷く。一番近いところにある人型の塊は、赤い頭巾をかぶっていた。
「とりあえず、助けよう。『召喚』!」
その人型に向けて、リトネは杖を振る。すると、メガネをかけた女の子が現れた。
「リトルレットさん、しっかりして下さい!」
リンが揺さぶっても、白い目をしていて無反応である。
そのうなじには虫に刺されたような跡があり、周囲は緑色に変色していた。
「やばいな……毒を打たれている。治療しないと……って!おい!」
獲物をとられたことに気がついたツチグーモが、猛然と迫ってきた。
リトネたちにまっすぐ向かって、口元を開く。
「くそっ!『剛竜盾』」
蜘蛛が消化液を吐くと同時に、とっさに自分の前方を覆うバリアーを張る。
「シャアアアアァ」
防がれたツチグーモは怒り、今度は尻を向けて糸を吐いてきた。
「やばい!」
糸はバリアーごと覆い尽くそうとどんどん絡み付いてくる。
「やばい!撤退だ!」
リトネたちはリトルレットを担いで、前の階まで戻るのだった
「リトルレットさん!おきてください!」
「目を覚まして!」
やっとのことでツチグーモの追撃を振り切り、上の階に撤退したリトネたちは、リトルレットを介抱していた。
しかし、麻痺毒を打たれた彼女は死んだように動かない。
「……仕方ないな。ここはテンプレ通り、俺が口移しで……」
マザードラゴンの乳入ったペットボトルのキャップを開けようとすると、横からナディにひったくられた。
「あなたはきもい。私がやる」
そのままマザーの乳を口に含み、口移しでリトルレットに飲ませる。
「ごほっ!」
一口飲んだ途端、緑色だった顔色は元に戻り、咳と共に毒を吐きだした。
「……よかった。生きていた」
「……誰?」
心底ほっとした様子で自分を見つめる白い肌をした少女を見て、レトルレットは首をかしげた・
「と、取りあえず、今日はもう撤退しないか?君を救うことができたし、体力も万全じゃないし、あんなの俺たちじゃかないっこないよ。そもそも六魔公最強の魔物に、一般人が初陣で戦うなんてのが間違っているんだから……あいつを倒すのは、何年か後の成長した勇者に任せようよ」
ツチグーモの強さに恐怖したリトネが提案するが、ナディとリトルレットは首を振る。
「……だめ。お母様をまだ助けていない」
「ボクの仲間たちだけじゃなくて、リリパット銅爵家の家族たちもつかまっている。今じゃなければ救えない」
至極まっとうなことを言われて、リトネは落ち込む。
「やれやれ……なんで俺がこんなことを……六魔公と戦うのは勇者の役目だろ……」
この期に及んでも怖気づいているリトネに、ナディとリトルレットは冷たい目を向ける。
「怖かったら、君は帰っていいよ。ボクは一人でもあいつと戦うから」
「……私も戦う。勇者じゃないただの臆病者はひっこんでいて」
二人にそこまで言われて、ついにリトネも観念した。
「……わかったよ。俺も戦うよ」どうやってあいつと戦おうか……)
必死で考えていると、動きをとめたマッチョゴーレムが目に入った。
「このゴーレムって、本来はこのダンジョンのボスなんだよな。ということは、相当強いはず。なら、目には目を、ボスにはボスをだ」
ようやくツチグーモに対抗できる作戦を考えたリトネだった。
「よし、ボタンを押して」
リトネに言われて、覚悟を決めてリトルレットは起動ボタンを押す。
すると、マッチョゴーレムの瞳が赤く輝き始めた。
「……サイキドウ……ゲキタイモード……」
マッチョゴーレムが動きだす前に、リトネは地面に向かって杖を振る。
「床を召喚!」
次の瞬間、床に大穴が開いて、マッチョゴーレムは下の階に落ちていった。
しばらくすると、下の階から、ものすごい銃声音と叫び声が聞こえる。
「キルユー!」
「シャァァァァァァァ!」
突然始まったボス同士の戦いに、リトネたちは耳を澄まして気配を探る。
そのまま階段から離れ、エレベーターシャフトに向かう。
中をふさいでいる糸を切りながら下の階に下りていった。
エレベータールーム
リンを上の階に待機させ、エレベーターホールの縦糸を伝って三人は降りていった。
工場エリア最深階に到達すると、眼下にツチグーモの巨大な巣が張ってあるのが見える。
「。『異世界のダンボール』こい!」
リトネが杖を振ると、大量のダンボールがこの場に現れた。
「いいか?こうして潰して、繭までの道を作るんだ」
ダンボールを平べったくして、蜘蛛の巣に貼り付ける。
それで道を作り、ようやく人型の繭が積み上げているところまでたどり着いた。
「お母様!」
そのうちの一人の繭から出ている杖をみて、ナディが悲鳴を上げる。
そのまますがり付こうとするのを、あわててリトネはとめた。
「大丈夫だ!死んではいない!」
「でも!」
「俺は白姫ノルンが助かることを知っているんだ。だから大丈夫だ」
取り乱しそうになるナディを必死に慰める。
「……わかった」
しばらくして落ち着いたナディは、リトネたちと共に人型の繭を回収して、上の階に運んだ。
「……よし。これで最後だな。なんとか間に合ったか……」
最後の繭を回収して、リトネはほっとする。彼最後の繭を上の階に運んだとき、いきなり縦糸が揺れる。
「な。なんだ!」
「きゃっ!」
大きく揺れたせいで、ナディが落ちて巣に貼り付いてしまった。
「リトネ君!あれ!」
蒼白になったリトルレットが倉庫の方を指差す。そこにはツチグーモがいて、巣の糸をひっばって揺らしていた。
「あいつ……くそっ!あとちょっとだったのに!」
リトネは悔しそうに歯噛みする。ツチグーモはマッチョゴーレムを倒すのに相当苦戦したのか、八本あった足のうち三本がとれ、体にはいくつも穴があいて動きも鈍い。
それでも目に憎悪を滾らせて、ナディたちに迫ってきた。
「は、はやく逃げないと」
「だめ!取れない!」
ナディは粘着性のある横糸に絡まれて動きが取れない。
ナディに向けて、ツチグーモはカチカチと口を噛みあわせながら迫ろうとしていた。
「二人とも行って!私はもう助からない!」
ナデイは上にいる二人に呼びかける。
「でも!」
「勇者さまに伝えて。……一緒に戦いたかったって」
そういうと無理に二人に笑いかけ、ギュッと体をこわばらせた。
ツチグーモはナディを食べるために消化液をはきかけようと、口をあける。
「さようなら……お母様!」
ナディは観念して、力いっぱい目を閉じた。
「……?」
目を閉じて一分が過ぎても、何も感じない。
「……なにが……?」
おそるおそる目を開けたナディの前には、一人の男のたくましい背があった。
「……勇者様?」
あこがれていた勇者が来たのかと思い、おそるおそる呼びかける。
「勇者じゃないって言っているだろ! 全開!『剛竜体』」
男の声は、聞き覚えがあった。自分を無理やり婚約者にしようとするいやらしい男。マザーの加護を得ているくせに、魔公と戦おうとしない臆病者-リトネ。
そんな男が、わざわざ飛び降りて自分をかばおうとしているのだった。
「……どうして……」
「わかんないよちくしょう!。早く!これは数分ももたない!」
一時的にマッチョになって、全身の服がはじけとんだリトネがわめく。
必死に全身から気を放出して前面にバリアーの壁を作り、消化液の放出を防いでいた。
「……やれやれ。世話がやけるね」
リトルレットも降りてきて、ニッパーを使ってナディを拘束している糸を切ろうとする。
「あなたまで……」
「即席とはいえ、ボクたちはパーティでしょ。白姫ノルンはこういった。「極限状態でも仲間を見捨てないのが、本当の冒険者だ」って。ボクは冒険者なの」
苦労してナディを拘束していた糸を切る。
「やったよ!」
「いけ!こいつは何とかして俺が倒す!」
そういうリトネに、ナディは初めて勇者を見るような目を向けるのだった。
(くそっ……格好つけたけど、どうすりゃいいんだ)
必死に気力を振り絞って考える。
(考えろ!蜘蛛は体が柔らかいんだ!だから、何か叩き潰せるもの!爺さんの『岩』みたいな、でかくて硬いもの!」
自分が召喚できる異世界のゴミを、必死に思い出す。やっとのことで、都合のいいものを思い出した。
「そうだ!我が求めに応じよ!異世界のスクラップ!」
やけくそになって念じると、上空から何かが出現した。
それは勢いよく落下し、蜘蛛の柔らかい背に突っ込む。
「グェェェェェェェ!」
その物体に押しつぶされ、ツチグーモは苦痛の声を上げた。
「あれ、なんなの?」
ツチグーモを押しつぶしている物体を見て、戻ってきたリトルレットが首をかしげる。
「俺の前世で活躍していた車。故障して放置されていたやつを召喚した。『大型トラック』という種類」
巨大な錆だらけの壊れた10トントラックが、クモの上に召喚されていた。
そんな車が背に載ったら、いかに六魔公最強のツチグーモであっても動けるはずがない。
押しつぶされたツチグーモは、緑色の体液を流しながら、ヒクヒクと蠢いていた。
「や、やったぞ……ははは……がくっ」
すべての気力と魔力を使い果たし、リトネは崩れ落ちる。
そんな彼を、リトルレットは叱り付ける。
「ほら!格好つけたんなら、最後まで立って。勇者でしょ」
「だから、俺は勇者じゃなくて、かよわい貴族のおぼっちゃんなんだって……」
苦笑しながらリトルレットに肩を貸してもらい、縦糸のほうに向かう。
そのとき、急に床の網が傾いた。
「えっ?」
「まさか、これって……」
振り向いてみると、強靭なツチグーモの網といえどもトラックの重みに耐えられず、どんどん沈み込もうとしていた。
「うわっ!やばい!」
「つかまって!」
あわてて縦糸に捕まる。同時に網が破れ、ツチグーモとトラックは一緒にエレベーターの底に落ちていった。
「これでツチグーモは死んだかな?」
「わかんないけど、たぶん…」
リトネがつぶやいた時、エレベーターの底の方で火花がチカッと光る。
それを見たリトネは慌ててしまった。
「はやく上がれ!こういう場合は、お約束の……」
リトルレットをせかして、最後の力を振り絞って縦糸を登る。
やっと上の階についた瞬間、盛大に爆発が起こり、エレベーターと地下の住居エリアは炎に包まれるのだった。
「ツチグーモを……たおしたの?あなたが?勇者でもないのに」
「お兄ちゃん!すごいよ!」
「家族を助けてくれて、ありがとう」
三人から賞賛されるリトネだったが、真っ青な顔になっている。
(やばい。あの下には飛空挺ペガサスウィングが……どうしようか?)
勇者が天空城ラビュターにいくための船をぶっ壊してしまい、どうしたらいいかわからなかった。
(やばい。やばいよ……あれ?)
急に目の前が暗くなってくる。
「お兄ちゃん!大丈夫?しっかりして!」
「リトネ!」
「リトネ君!」
三人の心配する声を聞きながら、リトネの意識は闇に落ちていった。
「……はっ?」
リトネの意識が戻ると、そこは白い病室だった。
なぜかリンをはじめとする三人の少女が、自分を取り巻くようにいすに座って寝ている。
「なんだこの状況?」
リトネが首をかしげていると、病室のドアが開いて数人の男女が入ってきた。
「あなたがナディの婚約者の、勇者リトネちゃんなの?ありがとう。あなたが助けてくれたのね」
先頭にいる白い肌をした絶世の美女が笑いかけてくる。彼女は手に白い液体が入ったペットボトルを持っていた。
「……世話になった」
ずんぐりしたドワーフは、小さく頭を下げた。
「まさか、俺が倒せなかったツチグーモをこんな少年が倒すとはな……しかもこんなに可愛い子たちに囲まれて!くそう。これが本物の勇者なのか!」
イケメンの剣士が悔しがる。どうやら、「白姫ノルン」のメンバーたちは、完全にリトネを勇者だと勘違いしているようだった。
「だ、だから、ちが……」
弁解しようとするリトネの手を、最後の人物が取る。
「勇者リトネ殿。わが一族を助けてくださって、まことに感謝する。私はリリパット銅爵と申すものじゃ。真の勇者よ……」
見た目は若いくせに髯をはやした変な男が、涙を流して感激していた。
「だから、ちがうんだって!俺は勇者じゃないんだー!」
リトネは死に物狂いで否定するが、この日以降「小さな勇者リトネ」の評判は国じゅうにひろがっていくのだった。
次の日
「勇者リトネ・シャイロック殿。わが一族を救っていただいて、まことに感謝する」
リリパット銅爵が、重々しく感謝の言葉を述べる。
ここはリトネたちをもてなすパーティ会場だった。
「何か望みはあるか。ワシにできることなら、何でもかなえよう」
リリパット銅爵はリトネに報酬を払うという。
「では、お言葉に甘えまして、ひとつだけ……」
「うむ」
全員がリトネが何を望むか聞き入る。
「リトルレットさんを、わが婚約者にお願いできませんでしょうか?」
「ぶへっ!」
リトネの隣でジュースを飲んでいたリトルレットは、思わず吹き出してしまった。
「あ、あのねリトネくん。ボクはこんな姿だけど、実は20歳オーバーで、ちょっとキミにとってはおねえさんすぎるんじゃないかな……と」
リトルレットは赤い顔をしてもじもじしと言い訳をするが、パーティ会場に湧き上がった歓声によって消されてしまう。
「勇者がお嬢様に求婚したぞ!」
「お似合いの二人だ!」
「二人の未来に祝福を!」
一族や家臣たちの声を受けて、リリパット銅爵も口を開いた。
「わがリリパット銅爵家とシャイロック金爵家は隣同士の領地として長く親交がある家柄じゃ。まして婿が勇者なら願ったりかなったりじゃ。こちらこそお願いいたす」
銅爵が頭を下げると、熱狂的な拍手が沸きあがる。
「ち、ちょっと待ってよ!ボクの意思は……」
「婚約者は私なのに……」
「……なんでだろ。ちょっと悔しいです」
その中であがった三つの少女の声は、喜ぶ人々の声にかき消されてしまった。
「どういうつもりなの!何考えているの?あんな大勢の前でプロポーズだなんて」
パーティ会場の別室で、リトネがリトルレットに責められている。
あれからリトルレットによって連れ出され、詰問されているのだった。
その様子をリンとナディが見守っている。彼女たちもいいたいことがありそうだった。
「どういうつもりも、言葉のどおりだよ。婚約者になってほしい」
リトネは真剣な顔をしてリトルレットを口説く。その様子に、リトルレットはちょっとひるんだ。
「で、でも、ナディちゃんも婚約者なんでしょ」
リトルレットはナディを見る。彼女は嫌そうにうなずいた。
「うん。だから第二夫人ということで……」
リトネはぬけぬけと言い放つ。確かに貴族の当主は複数の夫人を娶るのは普通であった。金爵家の嫡男が相手なら、銅爵家の三女が第二夫人でもおかしくはない。身分的な意味では釣り合いが取れていた。
「だ、だけど、ボクを第二夫人にって!……まだ子供のくせに!」
「俺は、君自身が欲しいんだ。シャイロック家に来てほしい」
真剣な目で見られて、リトルレットは思わず頷いてしまった。
「そ、そうなの?物好きだね……まあ君は強いし、家族をすくってくれたんだし……10歳くらい年下だけど、かわいい顔しているし、ボクのことが好きなら、しかたないか……でも、なんておませさんなんだろ。ちゃんと結婚生活できるのかな……一応サイズは合うかもだけど」
なにやら想像して、小さな自分の体を抱きしめてもだている。
「いや、残念だけど君がすきとかじゃなくて、世界を救うために必要なんだ」
「へ?」
「いい機会だから、みんなにも話しておくよ。聞いてほしいー」
リトネは三人の少女に、自分の知っていることをすべてはなした。
「だから、君は勇者のヒロインの一人、メカデレなんだ。君をほうっておいたら勇者をたぶらかすビッチになってしまうから、今のうちに婚約者にしておこうと……って、聞いてる?」
聞いているうちに、リトルレットはわなわなと震え始めた。
「なんだって!ボクが世界を滅ぼすビッチになるって!勝手なことをいうな!」
リトネのほっぺたに激痛が走る。リトルレットの手に握られた小さなペンチにより、つねられていた。
「痛い!痛い!」
「君の歯を、この「自在の工具」で抜いてあげようか?」
「ご、ごべんなさい」
「ふん!キミなんか大嫌い!」
パチーンとビンタして、リトルレットは部屋を出て行ってしまった。
後に残されたリトネは、黙ってみていたナディに聞く。
「……なんで怒ったんだろ?」
「あたりまえ。あなた、やっぱり最低」
ナディも冷たい目で睨み、部屋を出て行ってしまった。
「リン、君は……」
「私は平民のメイドだから、お兄ちゃんの婚約者になれないんだよね……」
リンは悲しそうにうつむく。
「うっ。そ、それは……」
「でも、私はお兄ちゃんのそばにいられれば、それでいいよ!私にとって王子様って、お兄ちゃんのことだもん。だからずっとそばにいさせてね」
リンはにっこりと笑いかけてくるのだった。
その日の夜、リトネに用意された部屋に、固い表情をしたナディがくる。
「お母様を助け、治してくれたことには感謝する。でも、やっぱりあなたを好きにはなれない」
ナデイは冷たい態度で言い放つ。
「そんな!死ぬ思いでお母さんを助けたのに!」
「その押し付けがましい態度が気に入らない。私のことをすきでもないのに手に入れようとしているのが嫌」
ナディからは明確な拒否が伝わってきた。
「で、でも、君はこのままじゃ……」
リトネは未来のことを危惧する。
「ふん。私は勇者のハーレム要員の一人で勇者をたぶらかして将来世界を滅ぼす堕ちたヒロインになるって話でしょ?だから私を勇者から奪うって?馬鹿にしないで。私は人形じゃない」
「……だけど……」
「勝手に決めないで。人権侵害。私はチョロインじゃない。あなたを好きになんて、絶対にならないから!」
そこまで言われて、リトネはあきらめる。
「わ、わかったよ……あんなに苦労したのに……」
リトネは未来の変更に失敗したと思い、思わず天を仰いだ。
「でも、お母様を救ってくれた借りは返す」
「え?」
「あなたを好きにはならないけど、あなたに協力はする。それならいいでしょう?」
そういって、初めてナディは笑顔を見せるのだった。
三日後
完全に体力が回復したリトネは、リリパット銅爵領を出発する。
「それじゃ、失礼いたします」
「勇者殿、本当に世話になり申した。リト.ルレットのことは必ず説得してそちらに向かわせるゆえに、しばしお時間をいただきたい」
見送りにきたリリパット銅爵は、申し訳なさそうに頭を下げる。
あれからリトルレットは自分の部屋から出てこなくなった。食事も自室でしているみたいで、顔も見せてくれない。
「いえ……あまりしからないであげてください。私も失礼なことを言ってしまったみたいなので」
リトネも申し訳なさそうに頭を下げた。
「それじゃ……」
「ちょっと待ちなさいよ!」
リトネが馬車に乗ろうとすると、甲高い声が響き渡る。
屋敷の玄関から、大量に荷物を抱えたリトルレットが出てきた。
「ボクをおいていこうとするなんて、どういうつもり?」
リトルレットはペンチでリトネのほっぺたをつねる。
「痛い痛い……え、君は婚約者になりたくないんじゃ?」
「なりたくないけど、あんな大勢の前でリリパット銅爵家を救った救世主に求婚されて、断われるわけないでしょ!一生恩知らずっていわれて、どこにも嫁にいけなくなるよ!」
不機嫌そうにいって、無理矢理馬車に乗り込んでくる。リリパット銅爵と家臣たちは、そんな彼女をうれしそうに見ていた。
「それに、自分が世界を滅ぼす悪女になるなんていわれて、平気でいられるわけないでしょ。とりあえずキミの側にいて、じっくり見ていてあげる。もしキミが悪なら、ボクは勇者に協力してキミを滅ぼしてあげるからね!」
カチカチとペンチを鳴らして威嚇してくる。
「わ。わかったよ……これからよろしく」
一応ヒロインの二人を手に入れたが、とても攻略できたとはいえないリトネだった
蒼月夜
魔物が活発に活動する夜と言われており、月に一度のこの日はどんな仕事も早く終えて人々は寝床に入る。
そんな中、一人のメイドが自分の部屋から抜け出し、宝物庫に向かった。
「鍵がかかってしますね。まあ、私にとっては無駄ですけど」
ぬるんと体を細くして、鍵穴から入る。さまざまな宝物がある中で、ひときわ大事そうに台座に設置された宝があった。
蒼い月の光に照らされて、白く輝くペットボトルである。
「ええと……マザードラゴンの乳ってこれですね」
メイドは乳を持ってきたペットボトルに少しだけ移し、足早に宝物庫を後にする。
月の光に照らされた彼女の影に映る耳は、魔族のように尖っていた。
中庭に出たところで、警備していた騎士に誰何される。
「こんな夜中に、どうかされたのですかな?」
「少し月夜の散歩をしようと思いまして」
「いけません。今日は蒼月夜です。お部屋に戻って……ぐぅ」
メイドの目を見た騎士は絶句する。見慣れた彼女の目は、真っ赤に輝いていた。
「そ、その目は……ぐう……」
急に睡魔に襲われ、その場に横たわっていびきをかき始めた。
「見事な『睡眼』だな」
いつの間にか来ていた男装の麗人が、メイドに声をかける。
「あなた様直伝ですもの。魔皇妃カイザーリン様」
メイドは青い光の中、あでやかに笑った。
「ところで、報告を聞こう」
「はい。リトネ様は、仲間と共にツチグーモを倒し、小さな勇者と呼ばれています」
リトネたちがツチグーモと戦った結果を彼女に伝える。
魔皇妃カイザーリンは薄く笑った。
「なかなかやるな……まあ、奴がどれだけ強くなろうが、我ら魔族の復活は止められぬが」
「ええ。所詮六魔公など大いなる目的の捨石にすぎませんわ」
カイザーリンとメイドは笑いあう。
「だが、候補者は奴だけではない。勇者アベルとやらにも肩入れせねばならんな」
「はい。ご用意できています」
メイドはうやうやしく少しだけ乳の入ったペットボトルを渡す。
「我が眷属、睡魔スネリよ。今後もリトネと女たちを監視するのだ。この役目はハーフデビルであるお前しかできぬ」
「かしこまりました。魔族の復活のため、微力を尽くさせていただきますわ」
スネリはカイザーリンに向けて、うやうやしく一礼した。
王都 後宮
30代前半の美しい女が、わが身に訪れた不幸を嘆いていた。
「あの不忠者が……宰相面して……なにもかも奪っていって……」
彼女がいる部屋の壁には爪あとが走り、来ている服も質素なものに変わっている。
元ルイ17世の寵妃として社交界で権勢を振るった貴婦人、アントワネット銅爵夫人だった。
髪をかきむしって呪詛をあげる彼女だったが、しばらくして落ち着きを取り戻す。
そうして、床に魔力を這わせると、隠し金庫が現れた。
「ふふふ……あの金貸しもこの金庫だけは見つけられなかった。これさえあれば……」
小ぶりな金庫をあけて中の宝石を取りだす。それは白く輝く円錐型のダイヤモンドだった。
「くくく……この『ホープダイヤ』は勇者アルテミックが残した、国で一番の価値がある宝石。これを担保にギャンブル資金を借りて、一発逆転して……」
さんざんひどい目にあっても、まだ懲りてない彼女だった。
その様子を窓の外から伺っている男装の女がいる。
「驚いたな。行方不明の六魔公の一人ダイヤトーテムをこんなところで見つけるとは。運がいい」
にやりと口の両端を釣り上げる。
「都合がいいな。ならば、奴を操って……「『眠霧」
窓の外から催眠魔法をかける。その霧に触れたアントワネットは、深い眠りに誘われていった。
『勇者の母よ……聖母アントワネットよ。私の声が聞こえますか?」
アントワネットが気づくと、白い空間に包まれていた。
「ここは……」
「あなたの夢を通じて、話しかけています」
どこからか清らかな声が聞こえてくる。
「あなたは?」
『私は女神ベルダンティー。勇者の母にして、いずれ世界をすべる王の母であるあなたに、お願いがあります」
「私が、王の母に!?」
自尊心をくすぐられて、アントワネットは喜ぶ。
「ええ。しかし、あなたはあることをしなければなりません」
「なんでもおっしゃってください!女神さま!」
アントワネットは土下座せんばかりの勢いで尋ねた。
「その『ホープダイヤ』は勇者の守り石。あなたの息子、未来の勇者アベルに届けるのです」
「これを?」
アントワネットはちょっと惜しそうに手の中のダイヤをみつめる。
「ええ。そうすれば勇者アベルは6人の伴侶と協力して、何年か後に王となるでしょう」
「……わかりました」
しぶしぶとアントワネットは同意する。
「この『聖なるミルク』を授けます。勇者アベルと彼と結ばれるべき6人の少女に飲ませることで、彼らは勇者として覚醒します」
女神ベルダンティーを名乗る声は遠ざかっていった。
同時にアントワネットは夢から覚める。
「今のは夢?……そうよね。この大事なポープダイヤを息子に預けるって……」
目が覚めたあとに苦笑するが、目の前には白い液体が少しだけ入った透明な筒がある。
「……やっぱり事実かぁ。しかたないわね」
アントワネットはあきらめて、ダイヤを息子に渡す決心をするのだった。
それを見ていた窓の外の男装の美女-カイザーリンはほくそ笑む。
「ふふふ。女神の神託とはまことに便利だ。簡単に人を操ることができる」
女神ベルダンティーを騙ったカイザーリンは、高笑いしながら闇に消えていくのだった。
次の日
多くの使用人が後宮を去っていく日である。
彼らは楽で見入りもいい職場を退職するので、肩を落として去っていった。
「それでは、失礼いたします。アントワネット様」
12歳くらいの美しい金髪の少女、マリアが涙を流しながら最後の別れの挨拶をする。
彼女は貧乏貴族の出身で、小間使いとしてアントワネットに仕えていたのだが、イーグル宰相によってリストラされてしまったのである。
「マリア、今まで忠実に仕えてくれて、ありがとう」
優しくて気前のいい女主人が、抱きしめて別れを惜しむ。
「うう……あの金貸し爺は、私たちになんの恨みがあるのでしょうか。何も悪いことをしていない私たちを首にして……」
マリアは泣きながらイーグルを恨む。
「仕方ないわ……なぜかあの金に執着する悪臣が宮廷で権力を握っているから。でも安心して。こんなひどい世の中はいつまでも続かないわ。きっと勇者がなんとかしてくれる」
「勇者……ですか?」
涙に濡れた目で、マリアはアントワネットを見上げる。
「そうよ。私は女神から神託を受けたわ。それで、あなたに最後のお仕事を頼みたいの」
「なんなりとお申し付けください」
何か硬いものが入っている包みをマリアに託す。
「この包みをアベルに届けて頂戴」
「わかりました。必ずお届けします」
マリアは真剣な顔をして頷くのだった。
セイジツ金爵家
「……ここに来るのも最後かも。もうアベル様にも会えないかも……」
金爵家の門を潜ったとき、マリアの目から涙がこぼれた。
「おや?マリア、どうしたの?」
中庭で剣を振っていたアベルが、様子のおかしいマリアに気がつく。
マリアは涙を流しながらも、無理に笑顔を浮かべた。
「アベル様……今まで仲良くしていただいて、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
「マリア、どうしたんだい?お別れの挨拶みたいなことをいって?」
「実は……私はアントワネット様の所を、お暇を出されて実家に帰ることになったのです」
「なんだって!そんな馬鹿な!母上が君を首にするなんて!」
いきなり思ってもいなかったことを聞かされて、アベルは驚く。
彼にとってマリアは唯一の心を許せる相手であり、ほのかに恋心も抱いていた。いつまでも自分のそばにいてくれると思っていたのである。
「私を首にしたのは、アントワネット様ではありません……」
マリアはしくしくと泣きながら、宰相イーグル・シャイロックによって後宮費が削られ、ほとんどの使用人が首になった話をした。
それを聞いているうちに、アベルの顔に怒りが浮かぶ。
「くそっ!あの金貸し爺め!僕にもっと力があれば、あんな悪臣を駆逐できるのに!」
母アントワネットから常に悪口を聞いていたこともあって、シャイロックを諸悪の根源のように感じていた。彼にとってシャイロックは無力な母を苛め、罪もない使用人を追い出す極悪人である。
「仕方ありません……そうだ。お母様からこれを預かってきました」
マリアはアントワネットから託された包みをアベルに渡す。それをあけてみると、中から見事なダイヤのネックレスと白い液体が入った水筒が出てきた。
「愛しいアベルよ。私は女神ベルダンティーから神託を受けました。あなたには勇者アルテミックの血が流れています。白い水は勇者とその伴侶の力を引き出す「聖なるミルク」です。そして、そのダイヤはあなたを勇者へと導く守り石です。常に身に着けていてください。いつかあなたは6人の伴侶を得て新たな勇者となり、この国を導く王となるでしょう。その時を楽しみにしています」
手紙には涙の跡があった。
「母上……ありがとうございます」
さっそくアベルは白い液体を飲む。すると、体の奥から力が沸いてきた。
「なんだこの力は……ははは、僕は勇者の力に目覚めたぞ!」
金色の髪が逆立ち、全身を金色のオーラが包む。
「すごいです……アベル様!」
マリアは光り輝く彼をうっとりと見つめていた。
「六人の伴侶か……もしかして」
アベルはマリアにダイヤを近づけてみる。すると、よりいっそう輝いた。
「マリア。僕は君を愛している。だから、僕の伴侶となるために、君もこれを飲んでくれ」
「聖なるミルク」入ったペットボトルを、マリアに渡す。
「え?私がアベル様の伴侶に?で、でも……私はしがない錫爵の娘で……アベル様とは身分が」
「かまわない。僕は君を愛している!」
アベルはマリアをしっかりと抱きしめる。
「うれしい……私の勇者様……」
涙を流しながら、マリアも飲む。すると、体の奥底から力がわきあがってきた。
「僕は勇者として、これからも修業し、いつかきっと王になってみせる。そのときは、母上と、そして君とも一緒に暮らそう」
「はい」
そして、二人は初めてのキスを交わす。アベルの首に掛けられたダイヤは、アベルから発せられる光のオーラを吸収するようにキラキラと輝いていた。

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