米国ではこのところ景気減速懸念が高まっているが、これまで続いてきた高成長に翳りが見えているというレベルの話であり、経済の基礎的な状況は良好である。企業は労働者の確保に苦慮しており、人件費には上昇圧力がかかっている。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、慎重なスタンスを示しつつも、利上げを常に意識しているのは労働市場の逼迫によるインフレを懸念しているからである。
カリフォルニア州は規模が大きく、全米各地に対する影響が大きい。同州が最低賃金の引き上げを決定したことで、全国的に賃金上昇が加速する可能性がある。
一方、日本は人手不足が続いているにもかかわらず、賃金は下落したままである。労働市場がタイトになれば、人件費は高騰するはずだが、日本ではなぜかその兆候が見られないのだ。
日本は完全雇用なのに賃金が上がる気配はない
総務省が発表した2月の失業率は3.3%と、現在の日本は、ほぼ完全雇用に近い状況となっている。失業率はリーマンショック後に上昇したが、その後は一貫して低下が続いており、企業は人員の確保に苦労している。
人手不足なら賃金が上がるのが普通だが、日本では上がるどころかむしろ下がっている。厚生労働省が発表した2015年の実質賃金はマイナス0.9%となっており、賃金の下落はこれで4年連続となった。物価の影響を考慮しない名目賃金も横ばいが続く。
人手不足にもかかわらず賃金が上昇しないというのは不思議なことだが、その原因は、労働市場の構造にありそうだ。日本は過去10年間GDP(国内総生産)がほとんど増えておらず、経済は基本的に横ばいである。経済が拡大しなければ、労働力に対する需要は増えない。