だが東南アジア各国は、急激な経済成長によって物価も急ピッチで上昇した。例えばタイの消費者物価指数はここ10年で1.5倍近くに上昇している。タイの都市部において、ちょっとした昼食代が1000円を超えることは珍しくなく、もはや日本と変わらない水準だ。物価が安いことを前提に移住した年金生活者の中には生活が破たんする人も出てきているという。

 消費が振るわない日本にとって、爆買いにやって来る中国人観光客は小売業にとって頼みの綱だが、これも日本の物価の安さの裏返しともいえる。彼等が日本に積極的にやってくるのは、日本での買い物そのものにブランド的な価値を見出しているということもあるが、物価が安いことも魅力の1つとなっている。

 日本人はこれまで自国のことを「付加価値が高い国」と認識してきたが、この状態が続けば、こうした認識もそろそろ見直す必要が出てくるかもしれない。コストが安いことを逆に生かせば、それは1つの戦略ということにもなるだろう。だが付加価値が低くなれば、日本人全体におけるグローバルな購買力は低下し、相対的な豊かさは享受できなくなってしまう。

 日本は今後も先進国として高付加価値を目指すのか、逆に低コストを利用すべき立場なのか、そろそろ決断する時期に来ているのかもしれない。