2016年4月10日
自分が観てみたい、が原動力。架空紙幣作家 oloさんインタビュー<後編>
“新しい創作”を生み出すクリエイターは、何を考え、どのようなプロセスで作品を生み出しているのか? 話題の作品の「つくり手」が持つ、その視点に迫ります。
みなさんは「架空紙幣」を見たことはありますか?
「架空紙幣」は、現実に存在するお札の模造品である「偽札」とは異なり、現実には存在しない紙幣のこと。自分の知らないどこかの国に、本当にこんな紙幣が存在するのではないかと錯覚する──いわば「創作紙幣」とも言えるものです。
ふだんは会社員として働きながら、「架空紙幣作家」としてたくさんの作品を生み出しているoloさん。前編では、お札のデザインの不思議や「olo流・お札の模様メイキング」を紹介してくださいました。
後編も、架空紙幣以外の作品や、ネットで作品発表する中で思うことなど、引き続きじっくりとお話を伺っていきます。
それではどうぞ!
企画・制作:pixiv Spotlight編集部
「お硬いものが冗談を言ったら面白い」が架空作品の原点
▲oloさんが制作した架空新聞。
━━oloさんは「架空新聞」なども作られていますね。これはどういった経緯で作られたのでしょうか?
まず大前提として、「新聞」ってすごく真面目な媒体だと思うんです。テレビ局で言ったらNHKみたいな、いかにも冗談を言わなさそうな「お硬い」イメージがあって。
そういうものが絶対言わないようなことを言ったら面白いだろうな……見てみたい。と思ったのが始まりです。
━━なるほど、架空紙幣とは異なる出発点なんですね。
はい。最近だと、そういった「お硬いものが冗談を言っている」要素は残しつつ、「架空の出来事を創作して新聞の形にする」ことで、どこかにそういう世界が本当にあって、こちらの世界にひとつの欠片として現れた……という設定で、架空新聞は作っています。
これに近い作品として、「ここではない世界で撮られた」という設定の写真を作ったりもしています。2chで話題になった「異世界へ行ってきた」という話を読んで、イメージが膨らみました。
一見、自分のいる世界のように見える。でも、少しだけ異なる世界。
「隣接世界」と私は呼んでいるんですが、そういうものがあったとしたら?と。
これも、どういうものになるのか見てみたくなって、作ったものですね。
▲oloさんが制作した「隣接世界」の写真のひとつ。
━━これも、見ていると不思議な気分になる作品です……!oloさんの制作プロセスは、ここでも「どんなものになるだろう?」「実際に作ってみよう!」なんですね。
「"本物らしい"架空の作品」を公開するうえでの難しさ
━━これまで作品公開をする中で「困ったこと」って何かありましたか?
そうですね……架空新聞は、はじめは出来上がった新聞の画像に少し汚しの加工をして、「新聞をスキャンして画像をアップした」という設定のもと、画像付きでTwitterに投稿していました。今は、投稿の仕方を少し変えています。
というのは、自分が作った架空新聞が改ざんされてTwitterへ出回るようになったのがきっかけで……。
━━なんと!「架空新聞の偽物」が作られてしまったと。
一部を切り取られたり、書き換えられたり、赤線を引いて「ヒドイことを言ってやがる」と強調されたりということが起きてしまったんですね。
それからは、改ざん防止をしつつ「新聞らしさ」を演出するために、印刷した架空新聞を斜めに置いて写真を撮ったものをアップするようになりました。
▲斜めに置いて撮影された架空新聞。記事や広告に思わずクスリとさせられる。
あとは、本物と勘違いして怒る人も出てくるんですよね。
架空のニュース動画を作ったら、画像キャプチャだけが意図しない形で一人歩きして、ちょっとした騒ぎになってしまったこともありました。
長年こういったものを作ってきた経験からわかったのは、どんなに見出しを冗談めかしても、明らかに嘘とわかる偽広告を載せても、本物だと思ってしまう人ってどうしても1割くらいは出てしまうんだな、ということですね……。
その分、その人達が信じても害のない内容で作らなくてはいけないな、と今は思っています。
▲oloさんが制作した架空のニュース番組「テレビパン」。見かけの完成度が高いゆえの誤解は悩ましい。
━━架空新聞にしろ、架空ニュース番組にしろ、社会風刺的な意図ってお持ちなんですか?
いや、ほとんどないですね。
私自身が小学校のころいじめを受けたこともあり「自分が安全圏にいて誰かを叩く」ようなものは作りたくない、と思っています。
政治ネタって、作るのはカンタンなんです。
よく政治家が失言で叩かれたりしますけど、普段はちゃんと仕事してるわけで……。そこだけピンポイントに問題にするというのもねぇ。
「叩いてる人、他人のこと言えるの?」って感じますし、私は叩く気になれないです。
作品を作るときは、たくさんの人が見て楽しめるように、「見る人みんなが持っている知識を前提にしたネタ作りができているか?」という点は意識しています。
━━なるほど。「みんなが知っている面白いネタ」が、結果的に話題のニュースや社会問題だった、ということなのかもしれませんね。