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王女は復讐を胸に 作者:鋼雅 暁
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:牢の中に牢番がいてどうするのだ:

 その日、アランははじめてバーバラを抱いた。

 高級品である石鹸と沸かしたお湯を惜しげもなく使って、バーバラの身を隅々まで綺麗に清めた後、バスタブの中で、大切に愛おしむように、抱いた。
 痛くはないか。
 苦しくはないか。
 辛くはないか。
 何度も何度も優しく尋ねるアランの声。
 事が終わった後、アランはバーバラの身体を丁寧に流して、タオルにくるんでベッドまで運んだ。
「あ、アラン、もういいから……綺麗になったから……」
 人を殺すことに長けていても、壊れ物を扱うかのように――つまり大事にされることには不慣れなバーバラは、明らかに困惑した顔でベッドに横たわった。
「バーバラ……本当に綺麗だ」
「お、お世辞は結構。わたしは……連続殺人鬼だぞ」
 だからどうした? とアランは大まじめな顔で言う。
「囚人に情けをかけてどうする、しっかりしろ、牢番!」
「バーバラ、ここでやめろと言うなら俺は引く。男に触れられたくないなら、去る。苦い記憶を消してほしいなら、消えるまで傍にいる」
「アラン、牢番の職分をこえているぞ」
「何をいまさら……」
 アランは、ベッドに腰かけてバーバラの髪を優しくなでる。
「俺はいつまででも、ここにいるぞ?」
「呆れた。牢の中に牢番が居てどうするのだ」
「牢番は牢の外にいなければいけないという決まりはないぞ?」
 過剰な接触を禁じてあるだろう、と、バーバラが呆れた声をあげる。
「アランが磨き上げてくれたから、大丈夫。アランも休んでくれ。今宵は――絶対に脱獄しないし復讐を実行しないと誓う」
 しばらくバーバラを見つめていたが、わかった、と小さく呟いたアランが、寝間着をバーバラに着せた。これも上等な、絹のものだ。
 そしてベッドから降りて牢の外へ立ち去る。
 外から、重たい錠がかけられたのを見届けた瞬間、バーバラの身体の至る所に複数の男たちの手の感触が蘇ってきた。
「うっ……」
 唇を強く噛んで、身体を折り曲げる。
 アランがどこからか持ってきてくれた上質な羽根布団をしっかり巻き付け、嗚咽をこらえる。

――ごめんなさい、アラン

◇ ◇ ◇

 自分が記憶を持ったまま転生したと気付いたとき、まっさきにアランを探した。前世で心底愛したのに結ばれることのなかった、相手。
 アランは、近衛隊で変わらず兵士をしていた。なぜか、平の兵士になっていたけれど。
 中流貴族の娘として生まれ変わった今なら、近衛兵の妻になることもできる。バーバラの心は弾んだ。
 だがほどなくして、父母が何者かに殺害された。哀れ孤児となったバーバラが引き取られた先は――宰相の家。
 そこで数年を過ごすうちに、自分《王女・エミリア》を殺したのが、宰相とその一派だったことを知ってしまった。

 宰相が王女を殺したのは――縁談を断られたから。
 花が咲きかけたような愛らしい王女を、好色な宰相は手に入れたいと願っていた。
 だから、王を通じて正式に縁談を進めていた。
 が、それを知った王女はある日、朝議の間に駆け込んできてこう言い放った。
「わたくしは、宰相の第三夫人になどにはなりません。然るべき方に嫁ぎます。この縁談、お断りいたします」
 並みいる臣下の前で恥をかかされた宰相の心中は、大いに荒れた。
 それから数日後。
 テロリスト集団だと疑いを掛けられて「いつもの遊郭」が警察隊に襲われて仲間が大勢殺され、捕らえられた。
 彼らの裁判や処刑を目の前で見せられ、エミリアの心はずたずたになった。
「彼らを助けて!」
 涙ながらに宰相に訴えに行ったその日、エミリアは朝まで帰ってくることがなかった。
「王女よ。この国では処女を捧げた相手と結婚するのが一般的ですぞ。さあ、儂の女になるとおっしゃい……」
 ドレスも下着もすべてはぎとられ、体中は男の液でドロドロだ。
 四つん這いにされて、背後から男が猛ったものを押し込む。
 或いは、鏡の前に連れていかれて己の秘部に醜悪なものが捻じ込まれていくのを見せられる。
 どんなに激しく突いても、泣きはするが喘ぎはしない。
 女が善がる場所を執拗に責めても、王女は乱れない。宰相は、気を失うまで十九歳の王女の肉体を貪りつくした。

 王女の二十歳の誕生日パーティーで悲劇が起こるまで、王女の若い身体は宰相一派に蹂躙され続けた。
 もちろん、アランはそんなこと、知らない。

◇ ◇ ◇

 そしてバーバラは、知らない。
 アランが――愛剣とは別の剣を手にして自分の屋敷を抜け出したことを……!
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