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あの娘ぼくがブログ書いたらどんな顔するだろう

3歩進んでは2歩下がってしまう25歳ゲイのブログ

愛すべき娘たち/よしながふみ

しばらく漫画を読んでいなかったのだが、最近漫画熱が高まっている。

高校生の頃は週に一度、横浜伊勢佐木町のTUTAYAにDVDを返却する帰りに有隣堂本店に寄って雑誌や漫画を眺めて帰るのがルーティンだったし毎週の「ジャンプ」「サンデー」「マガジン」の立ち読みも欠かさなかった。しかし近頃は週刊漫画紙の立ち読みもしていないし、「このマンガがすごい」くらいでしか漫画のトレンド情報を得ておらず漫画から少し距離が離れてしまっていた。

そんな僕なのだが最近、錠前やすしさんのブログを拝見するようになり熱のこもったレビューに感化され彼のおすすめを読みまくっております。今日はそんな中でもいいなあと思った「愛すべき娘たち」の感想をすこし。

 

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よしながふみが女性達の人生を丁寧に描く短編集。僕が印象に残ったのは第4話。中学生の時に仲良しだった「牧村」「如月」「佐伯」三人の人生の話。牧村は中学生にもかかわらず大人びていて自立する女性に憧れている。そんな彼女は「将来、公務員ではなく民間で定年まで勤め上げる」「だって女にとってまだ働きづらい民間でがんばった方が後々の働く女の人のためになるでしょう?」とお弁当を食べながら如月と佐伯に大志を語る。牧村と佐伯は同じ高校に進むのだが、牧村は「編集者になるために出版社でバイトをする」と早々に高校を辞める。のちに出版社のバイトも辞めてしまい「大検を受けて大学に行く」なんて言う牧村だが、それも叶わず徐々に彼女は自尊心をなくしていく。数年後、如月が牧村に会った時、牧村は「あたし...結婚して専業主婦になりたいな...」とぼやく。あの頃自分が一番嫌っていたはずの「男に依存する」という生き方を不本意に選ぼうとする牧村に佐伯は「編集者になるんだって言ったじゃない」「民間で勤め上げるっていったじゃない」「後々の働く女の人のためにがんばるって言ったじゃない!」と思いをぶつける。牧村は冷静に「佐伯は、まだ子供ね」と諦めた表情で答える。数年後、結婚した牧村と旦那と食事をする佐伯。旦那のご飯を取り分ける献身的な牧村を見て「きっと、これでよかったんだ」と思い込む佐伯。その晩、家に帰るともうひとりの級友「如月」から手紙が届いていた。「覚えていますでしょうか?中学の時一緒だった如月雪子です。先日結婚いたしました住所が移転しましたのでご連絡をしました。私は今市役所に勤めています。中学時代に話したように家庭内の男女平等はなかなかうまく行かないけれどそれでもなんとか仕事は辞めないでがんばっているよ。」派遣会社で働く佐伯だが、これを聞いて「本当は辛くて辞めてしまいたい仕事のことも、先の見えない不安も一瞬忘れさせてくれる言葉だった」「あの時はなしたささやかな夢を、かなえることができた友達がちゃんといてくれたんだ」と静かに涙を流す。

読んだあと、ざらっとした気持ちが残った。「たとえ夢が叶わなくとも、妥協してでも生きていかなければいけない」。この事実を噛み締めて僕もみんなも日々生きている。だからこそ誰も牧村を責めることなんてできない。誰もが叶わなかった夢を胸に秘めて、それでも自分を納得させて進んでいくのだ。しかし「夢が叶わなかったからといってその人が不幸なわけではない」。そんな優しいメッセージをよしながふみはこの漫画に込めてくれていた気がする。結婚した牧村が旦那と仲睦まじく幸せそうに描かれていたからだ。

人生は取捨選択。必ずしも夢を追うことだけが幸せなことではない。夢がなくなったその先にも幸せはあるのかもしれない。そう思うと少しだけ力を抜いていきていける気がした、よしながふみ先生ありがとう。

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よしながふみは「大奥」「きのうなにたべた?」くらいしか読んだことがなかったのですがすごくいい作家ですね。錠前さんもブログ内で彼女に対して「人間力が高い」という形容詞を使っているのですが、ほんとに懐の深い作家だと思います。あ、錠前さんの熱烈レビューはこちらなので、こちらもチェックしてください。

www.obanari.com

 

ノリマキ