「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」に埼玉県民が大喜びした理由
埼玉県民が東京へ行くには、通行手形が必要だ。しかし勝手な行動は許されず、もし高級百貨店にでも足を踏み入れればたちまち埼玉狩りにあい、百たたきの上に埼玉に強制送還される。食堂でも東京都民とはメニューが分かれていて、埼玉県民用のメニューは「残飯定食」「犬のよだれご飯」「雑草まぜご飯」……。
これらは全て、1982年に発表された漫画『翔んで埼玉』で描かれている埼玉いじりの一部だ。こんな話を聞かされたら、さぞや埼玉県民は怒るに違いないと思いきや、実際には大喜びしているのだという。
ツイッターを中心にネットで話題となった同作は、テレビ番組で紹介されたことで一気に火がついた。宝島社が運営する漫画情報サイト「このマンガがすごい!WEB」には復刊を望む声が多数寄せられ、昨年12月に復刻版を発行。初版20万部、4月頭には55万部を超えた。作者は『パタリロ!』で有名な魔夜峰央(まや・みねお)さん。この騒動に「もうあきれていますよ。30年以上前の作品が何でいまさら(笑)」と驚きを隠せないでいる。
『翔んで埼玉』は、成績優秀でスポーツ万能な美少年・麗が東京の学園に転校してきたところから始まるギャグ漫画だ。アメリカ留学帰りの麗は、埼玉県民が東京で虐げられていることに衝撃を受ける。埼玉県出身の生徒は医務室さえ使わせてもらえず、「そこらへんの草でも食わせておけ! 埼玉県民ならそれで治る!」と罵倒される始末。実は所沢出身の麗は、埼玉弾圧に立ち向かうべく革命に身を投じて行くことに……。埼玉差別主義ながら麗に惹(ひ)かれる美少年・百美との道ならぬ恋、ギャグ、ミステリーなど盛りだくさんの内容だ。
出版した当時は、よくも悪くも反響がなかったという。魔夜さんは編集者の勧めで新潟から上京して4年間所沢市に住んでいたが、その後横浜に転居。すっかり『翔んで埼玉』のことは忘れていた。今回改めて作品を見て、「うわっ、よくこんなの描いたな」というのが正直な感想だそうだ。
「埼玉県に住んでいた者として腹が立つくらいの作品ですが、自分が描いたということなので……ああそうですか、すみませんでしたと言うしかないです(笑)」
しかし実際は、埼玉県の書店でも『翔んで埼玉』は大人気。なんと、全売り上げの3割を埼玉県が占めているほど。市長たちからは感謝や激励のコメントが寄せられ、上田清司埼玉県知事も「悪名は無名に勝る」と期待する。
『翔んで埼玉』では「犬以下の埼玉県民をかばいだてするつもりか」「ああいやだ! 埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」とまで罵倒されているのに、なぜ埼玉県民にこれほど受け入れられ喜ばれたのか。魔夜さんはこう分析する。
「他のどの都道府県を描いてもこうはいかない。絶対にものすごい反感が来ると思います。埼玉県の人たちにはすごく心が広くて、自分のことを笑い飛ばせるような度量がある。埼玉って便利なところで、農産物も豊富で何でもありますからね。安心していて自信があるから、おちょくられても笑い飛ばせるのかなと感じます」
また、地方に注目が集まっていることも人気を後押しした。今月、地方自虐漫画を集めた『この「地方ディスマンガ」がひどい!』を発売した宝島社は、「青森県のように、自虐ネタでPRを盛り上げている地方自治体も増え、多くの方がそれを楽しんでいます。その流れで、他の地方ディスマンガ作品も注目され、人気を呼んでいます」と話す。
『翔んで埼玉』は差別をする側の愚かさもギャグとして風刺しており、単なる埼玉いじめの構造で終わってはいない。その土地のことをよく理解していなければ描けないだけに、むしろ愛情を感じる作品に仕上がっているのかもしれない。
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