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著名教授の「ご託宣」を請うまでもない デフレ下の増税は真逆の結果を招く

夕刊フジ 3月29日(火)16時56分配信

 【お金は知っている】春闘が盛り上がらない。経営側がチャイナリスクの高まりなど、景気の先行きが不透明なため賃上げに慎重になっていることが主な理由に挙げられるが、それは経団連での話だ。

 全雇用の7割を占める中小企業を含めた全産業でみると、デフレ圧力が主因である。その事態を招いたのは、政府の消費税増税と緊縮財政によるものだ。そのことは、米国の著名経済学教授の「ご託宣」を請うまでもない。

 筆者は日本型デフレについて、消費者物価の下落幅よりはるかに大きく賃金が下がることが特徴だと、10年近く前から定義してきた。グラフをみるとその「法則」に日本経済が囚(とら)われていることがわかる。

 目を凝らしてみると、賃金の下落傾向はリーマン・ショック後の2010年からかなり緩やかになる一方、物価も横ばいに近くなっていた。物価が横ばいで賃金が上がり続けば、上記の日本型デフレから脱する兆しとも評価できたのだが、14年からは物価は上がっても実質賃金は下がるという賃金デフレに陥った。

 グラフでは、非正規雇用を含む全従業員と正雇用に分けて賃金動向を追っている。賃金デフレ圧力は正社員では弱く、非正規を含める全雇用者で強く働く。非正規雇用の急増が賃金デフレを加速したわけである。

 そんなトレンドのもとで政府は14年4月に消費税率引き上げに踏み切った。増税とともに消費者物価は上昇、15年に物価はさらに上がっても全従業員の平均賃金は横ばいだ。

 アベノミクスは異次元の金融緩和によって円安・株高を演出した。しかし、円安トレンドは長続きせず、円高に転じると株価は急落する。増税によって家計から所得を政府が吸い上げるし、企業収益増で税収は増えた。

 歳出削減にこだわる政府は民間から取り上げた所得を民間に還流させない緊縮財政路線を強めている。その結果、民間の需要は萎縮するのだから、企業は雇用の改善や賃上げをためらうのは当然の帰結である。政府が需要を減らしておいて、賃上げを迫ったところで、企業側がおいそれと応じるはずはない。

 今、安倍晋三政権が唱えているのが「1億総活躍社会」である。同一労働・同一賃金によって賃金格差を縮小させる。介護離職をなくし、待機児童問題を解消し、家庭にいる主婦が外で働けるように環境を整えるという発想は支持できる。意思と能力のある個人が制度的・社会的制約・差別を受けずに自由に働けるようにする。

 それは自由な国家の政府として当然の役割だが、デフレ下の増税は真逆の結果を招く。低賃金の非正規労働、待機児童、介護離職問題は緊縮政策の産物なのである。

 安倍首相が消費税率10%への引き上げを単に1、2年の延期で済ますだけなら、経済的な意味合いは薄い。金融緩和と一体となった財政出動によって、内需を成長軌道に乗せ、非正規雇用、介護、保育の分野にもカネが回るという好循環を作り上げるまで、増税を凍結すべきだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)

最終更新:3月29日(火)17時22分

夕刊フジ

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