アイデアには確かに価値がある。
「インターネットでどんな情報でも手に入るようになった今、アイデアに価値はない」
こんな意見をよく耳にするが、率直に言ってそれは嘘だ。
むしろ今、アイデアには昔以上の価値がある。
優れたアイデアを持っている人の戦闘力は凄まじい。
なぜなら、今の世の中ではアイデアを数日、あるいは数時間、あるいは数分で形にするためのツールが溢れているからだ。
素晴らしいアイデアを考え出すことができれば、大きな注目を浴び、その気になればお金も集まってくる。
「アイデアがあっても実行しなければ何の価値もない」という意見もよく聞く。
これは全くもってその通りだ。アイデアさえあれば勝手にものごとが進んでいくと勘違いしている人はよくいる。しかし、だからと言ってアイデア自体に価値がないということにはならない。また、3つほど補足したい。
1つめに上述の通り、今の時代ではアイデアを形にするのが物凄く容易になってきているということ。
2つめに、優れたアイデアとは”最小の労力で最大の効果”を生み出すものであり、実行するための工数は最小限で良いということ。
3つめに、その工数さえかける気にならない人のもとには、そもそも優れたアイデアは降ってこないことが多いということ。
「アイデアはあるんだけれども実行できない」という人はぽっと出の思いつきをアイデアと呼んでいるだけで、本当に優れたアイデアを持っていない場合が多いのだ。
実例
もう少しアイデアの価値を強調しておきたい。
これから、最近ぼくが「これはアイデア勝ちだな」と感じたコンテンツを取り上げていく。ジャンルはぐちゃぐちゃで雑多な紹介になるが、どれも見る価値のある素晴らしいアイデアだ。
アイデアの勝利1:読むたびに内容が変わる漫画
今までにない表現で大きな話題となったサントリーのwebプロモーション「ふんわり男」。一度目は、登場人物たちのセリフだけ。二度目は、女性の心の声がスクロールに伴いふわっと表示される…というように読む回数によって内容が変わっていく。スクロールによってフェードインするセリフは、今までの漫画に欠けていた臨場感を与えている。
アイデアの勝利2:吹き出しやアイコンをうまく使ったLINEスタンプ
お前の気持ちを代弁するねこ
アイコンを指差してセリフを言うという天才的な発想のスタンプ。LINEクリエイターズマーケットでは着実にランキング順位を上げている(僕も買ってしまった)。セリフはどれも秀逸で使いたくなるものばかり。絵はテキトウなようで、しっかりと”ゆるく”仕上がっている。とはいえ、スキル以上にアイデアの勝利と言えるだろう。
吹き出しに群がる猫
吹き出しをイラストの中に含めてしまい、その上に猫をかぶせるという素晴らしいアイデア。こちらも結構な話題になっている。LINEスタンプで人気が出やすい「猫」というチョイスと「奇抜 なアイデア」が功を征した結果だと言えるだろう。なお、この手のスタンプを多くのクリエイターたちが真似し始めているようだが、すでに手遅れ感がある。
アイデアの勝利3:触るプロモーションビデオ。
1,000万回以上再生され、世界中で大きな話題となった安室奈美恵 の「Golden Touch」のPV。指を画面の中心に置いておくと、その指を介して様々なアクションが起こるというインタラクティブな仕掛け。このPVのディレクションをしたPARTYの川村氏は、アイデア勝ちのコンテンツをコンスタントに生み出し続けており、真のアイデアマンと言えるだろう。
アイデアの勝利4:葉っぱビジネス
ビジネスアイデアもひとつ。
徳島県上勝町のおばあちゃんたちが、衰退してしまったみかん産業代わりに始めた「葉っぱ販売ビジネス」のアイデアは素晴らしい。葉っぱと言っても、怪しいものではなく「つまもの」として使われるイチョウや椿の葉。山間部でいくらでも取れるこれらの”タダ”の葉っぱを「つまもの」として全国に販売した。これが大成功し、今や年間2億円以上の売上をあげる町の主要産業になっている。この葉っぱビジネスは結構話題になり、本も販売されている。
他にも紹介したいものは山ほどあるが、キリがないので、このあたりでやめておくことにする。
本当に優れたアイデアをシステマチックに絞り出す方法
優れたアイデアというのは問題を解決し、人の注目を集め、大きなビジネスの種になる。優れたアイデアを生み出す能力は必須ではない。言われた通りに、マニュアル通りにやれば十分という仕事はたくさんある。しかし、周りにうまいように使われるのではなく、自分の思い通りに気持ちよく生きていきたければ、アイデアを生み出す能力を鍛えておきたい。
アイデアマンやクリエイティブな人というと「頭の中から自然とポンポンとクリエイティブで目新しいアイデアを生み出す人」をイメージしがちだ。そして「それらの発想力は生まれつきのセンスで後天的には身につかない」と思っている人も多い。
実際は、アイデアを生み出す能力は鍛えられる。
むしろ後天的な要素の方が大きい。優れたアイデアが生まれるまでの流れを考えてみよう。
アイデアの作り方
アイデアは理想的には次のように生み出されるべきだ。
膨大な過去の体験と自分の持っている情報から
目の前の解決すべき事象に対するソリューションを考える。
これをスムーズにできる限り無意識に行える能力こそがアイデア生産力と言えるだろう。おおまかな流れは次のようになる。
- 解決すべき課題を明らかにする
- 課題に対するソリューションを広い視点から考える=アイデア
- アイデアの効果と現実性を見極める
1. 解決すべき課題を明らかにする
まず、解決すべき課題を明らかにするべきだ。
なぜなら、解決すべき事象がない中で漫然と思いついたアイデアは、本質的に有効でなく机上だけの論理(アイデアありき)になってしまいやすいからだ。解決すべき課題がなければ、アイデアの質を測る指標は曖昧になり、とりあえず目新しいものが良いアイデアとされてしまう。
本当に優れたアイデアとは地に足をつけたところから始まり、その上で突拍子もないほどに飛躍するものだ。
そのため、はじめに解決すべき課題を見極めることが重要になる。情報やデータを集め、何が本当の問題なのかをよく考えよう。可能であれば、実際に自分の目で見たり、体験するようにしたい。頭の中だけで「これだろう」と決めた課題に対して生まれたアイデアからは本質が抜け落ちやすいのだ。
2. 課題に対するソリューションを広い視点から考える
本質的な課題を見極めたら、その課題に対するソリューションを考えていく。
このときのポイントが4つある。
(A)ソリューションは可能な限り多くの視点から考える。
それが斬新でクリエイティブかつ有効なアイデアを生み出す。
視点の多さはあなたの「これまでの体験の量」および「仕入れてきた情報の量」による。アイデア生産力のある人はこのインプット量が膨大だ。加えてそれらの体験や情報は均一ではなく、様々な分野にまたがっている。そのため、一見全く関係ないと思えるような事柄同士を次々に結びつけることができ、結果としてクリエイティブなアイデアを生み出すことができる。
一方でアイデア生産力のない人は、似たような経験ばかりしており、視点が少なく、偏っている。空っぽの頭の中に釣糸を垂らしても何も釣れないのだ。
優れたアイデアを次々に生み出したければ、たくさんの本を読んで、映画を見て、旅行に行き、興味のあることには、とことん熱中し、様々な体験と情報を貯めておこう。
(B)アイデアをスムーズに生み出す訓練をする。
前述(A)の視点の数を引き出しとしてイメージしたとき、色んな引き出しからモノを取り出すクセがついていると、優れたアイデアが生まれやすい。いつも決まった引き出しばかり開けていては、凝り固まったそれなりのアイデアしか生まれない。すなわち、隅のほうにある引き出しでもいつでもスムーズ開け閉めできるよう、普段からあれこれと深く考えるクセをつけることが重要になる。とはいえ人間放っておいたら考えることをサボってしまう生き物だ。起きたことに反射的に反応するだけの生活をしても、別に問題はないからだ。思考が消耗するエネルギーというのは想像以上に大きく「常に考えることをサボらないようにしよう」と決意したところで、1ヶ月もすれば元に戻ってしまう。可能であれば「毎日15分ノートに向かってひたすら考えたことを書きなぐる」
など、考える時間を習慣的に確保するようにしたい。
(C)行き詰まったらまた情報をインプットする。
さきほどの(B)であれこれと引き出しを開けようとしても、そもそも何の引き出しがあったのかを思い出せない。考える材料はたくさんあるにも関わらず、どこから考えれば良いかわからない。そういうときは、さらにそのジャンルに関わるような情報をランダムにインプットしまくると良い。たとえば、ぼくは何かのアイデアに行き詰まったときには、普段ネットで見つけたお気に入りの画像や文章、スクリーンショットなどを放り込んだ「インスピレーションフォルダー」やお気に入りの写真集、情報ストック用Tumblrを眺めるようにしている。それが自分の中にある引き出しを開けるスイッチになる。良質な情報をインプットし、連鎖的に引き出しを開けていき、効果的なソリューションを探っていくのだ。
(D)行き詰まったら深める。
行き詰まったら、ウンウン唸って考え続けるより、まずは現状思いつくソリューションを深めてみる。すなわち、ひとまず次の3のステップに進んでみる。価値がないように見えるアイデアであっても、具体的に深く考えることで、優れたアイデアが生まれてくるかもしれないのだ。
3. アイデアの効果と現実性を見極める
アイデアが生まれたら、それを十分に検討する必要がある。
アイデア生産力のない人は、自分のアイデアを過大評価し、効果や現実性を見誤ったまま実行に移してしまう。
一方で優れたアイデアをコンスタントに考えつく人は、アイデアの質を自分で客観的に判断ができる。「このアイデアは実際にはどう機能するのか」「周囲はどういう反応を示すのか」を具体的にイメージができる。そのため質の悪いアイデアをむやみに実行することなく、また(1)(2)のステップに戻り優れたアイデアが出るまで検討することができる。これを繰り返すうちに、質の高いアイデアをスムーズに生み出す「アイデア生産力」は身についていく。
では、アイデアの質を客観的に判断する力はどうすれば養えるのか。
これは数をこなすことが必要になる。具体的には、大量に情報収集をし「どんなアイデアは世の中に受け入れられるのか」逆に「受け入れられないのか」ということを何度も何度も経験していく。
新しいプロダクトが出たら、まずは自分でそのプロダクトはヒットするか否か予想してみる。たとえば、ある会社が新しいゲームアプリをリリースしたとする。内容を見て、これは流行るかどうかを予想する。1ヶ月もすればその結果は分かる。「こんなマジメな内容のゲームが意外と受け入れられるんだなー」などと分かることがある。繰り返すうちにだんだんとその原因も分かるようになる。これはここが足りてないからヒットしないだろうと経験から読めてくる。プロダクトなら実際に自分の手で使ってみるとさらにその精度は上がる。
情報はどれだけでも溢れているのだから、これを日常的に繰り返すことはそう難しくない。自分の感じた違和感や楽しさなどの感情と、世間の反応とのズレも分かってくる。これは単純に楽しい。そして、その経験はアイデアを考えるときの引き出しのひとつにもなる。
空っぽの頭の中に釣糸を垂らしても何も釣れない。
結局のところ優れたアイデアというのは、経験豊富で、情報収集を欠かさず、好奇心旺盛で何でもかんでも知っていて、徹底的に考えることをサボらない人のもとに降ってくるのだ。