高級車市場でブランドを確立した米EVメーカーのテスラが「モデル3」で大衆車市場に参入する。同社が量産や、これまでとは異なる新しい顧客の要求に対応できるかどうかは不透明だ。しかし、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の狙いは自動車業界の創造的破壊を進め、EVへの転換を推進することにある。
米EV(電気自動車)メーカー、テスラ・モーターズが昨年販売を開始した「モデルX」の後部ドアは、タカの羽のように上に上がる「ファルコンウイング」となっており、他社の大型高級SUV(多目的スポーツ車)と一線を画す。
だが、同社のスタイリッシュなスポーツセダン「モデルS」を含め、テスラのクルマと他社のクルマとの最大の違いは車体の下にある。テスラのクルマはバッテリーで走るという点だ。
テスラは、自分の環境意識の高さを誇示したがるハイテク好きの富裕層にとって魅力的に映るEVを生産することで、自動車業界で急速に頭角を現してきた。
そのテスラが3月31日に、大衆市場の中の最上層をターゲットにしたEV「モデル3」を発売する。その販売は、これまでの高級車を売り込むより、はるかに難しいものになるだろう。
テスラはこれまでニッチ市場で、急成長してきた。ほかの自動車メーカーは、街の中で乗り回すタイプの小型車に、高価でかさばるバッテリーを詰め込んできたが、テスラは既に量産されている電池を他社より大きい容量の電池のパッケージにして大型高級車(最低価格7万ドル=約790万円)に搭載してきた。
この方がバッテリーのコストを容易に吸収できるし、1回の充電で400km以上と、そこそこの航続距離を実現できるうえ、素晴らしい加速性能を発揮することができる。
■創業10年で高級ブランド確立
2015年には、創業からわずか10年強で年間販売台数が5万台を超えた。同社は2020年までに同50万台という目標を掲げており、その大半がモデル3になるという。
モデル3の価格は従来モデルより低く、最も安いものは3万5000ドル(約400万円)だ。各国政府が環境車に提供する多額の補助金が適用されれば、さらに安くなる。だがモデル3が参入する大衆車市場は競争が激しく、利幅もこれまでの同社のEVに比べ薄い。
もっともこれまでのテスラの実績には目を見張るものがある。自動車業界にはこれまで、新規参入を図ったものの既存のメーカーに敗れ去った企業の残骸が累々と積み上がっている。
古くは1940年代の米タッカーに始まり、70年代の米デロリアン、最近では高級HV(ハイブリッド車)を売ろうとしたが経営破綻した米フィスカー・オートモーティブなどの企業がある。
これに対しテスラは、洗練されたデザインとしゃれた技術を駆使(車内装備の操作パネルをタッチスクリーンにしたり、自動運転機能を装備したりしている)し、大型高級車の分野では、独高級車メルセデス・ベンツの「Sクラス」に次ぐ販売台数を誇る。独ダイムラーはSクラスを何十年もかけて磨き上げてきた。