歳川隆雄「ニュースの深層」
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「パナマ文書」が安倍外交の強力な武器となる可能性

2016年04月09日(土) 歳川 隆雄
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【PHOTO】gettyimages

国際調査報道ジャーナリスト連合とは何者か

4月6日夜、首相官邸でウクライナのポロシェンコ大統領と会談した安倍首相。同大統領に対して、ウクライナ東部の紛争を巡る昨年2月の「ミンスク合意」の完全履行と国内改革の加速を求めると同時に、国別で最大規模となる約2000億円の経済支援継続を表明した。

安倍首相が4月29日からの欧州歴訪の最終日5月6日にロシア南部の保養地ソチでのプーチン大統領との会談前にポロシェンコ大統領訪日をセットしたのは、言うまでもなく、クリミア半島を武力併呑したロシアへの経済制裁強化を求める、オバマ米大統領への配慮以外何ものでもない。

ウクライナ問題を巡って欧米諸国とロシアの対立が先鋭化する中、対露批判の手を緩めない米国と、欧州諸国内の対露政策の「差」が表面化している。ドイツやイタリアなどなど経済・エネルギーの面でロシアと関係が深い国の経済界からは、同国への経済制裁解除の動きが出てきているのだ。

このことは、実は日本にも当てはまる。北方領土返還・日露平和条約締結を目指す安倍首相は、プーチン大統領の今年秋の公式訪問を含めて対露関係の改善・進展に強い意欲を抱いている。

しかし、オバマ大統領が昨年4月のワシントンでの日米首脳会談、さらに3月の日米首脳電話会談で拙速な対露関係進展に疑問を呈したことでも分かるように、安倍首相はいま対米、対露配慮に腐心せざるを得ない状況にいる。

それ故のポロシェンコ大統領訪日招請であった。ところが来日した5日、いま世界を震撼させている国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ。事務局ワシントン)が暴露した「パナマ・ペーパーズ」の中にポロシェンコ大統領の名前も入っていたことが判明した。

アイスランドのグンロイグソン首相を辞任に追い込んだ「租税回避地(タックスヘイブン)疑惑」には、プーチン大統領の親友、習近平・中国国家主席の義兄、キャメロン英首相、サルマン・サウジアラビア国王、アサド・シリア大統領、シャリフ・パキスタン首相、アルゼンチンのマクリ大統領、そして香港の俳優ジャッキー・チェン氏、サッカーのメッシ選手、さらには日本の警備大手セコムの創業者・飯田亮氏らの名前も登場する。

新聞報道では「パナマ文書」と表記されているが、筆者は、1971年に米国防総省が作成したベトナム戦争に関する極秘報告書を、執筆者の1人であったダニエル・エルズバーグ氏(当時、ランド研究所勤務)がニューヨーク・タイムズにリークして一大スキャンダルとなった「ペンタゴン・ペーパーズ事件」に倣って「パナマ・ペーパーズ」と表記する。

そもそもICIJとは、1997年、米CBSの報道番組「シックスティー・ミニッツ(60分)」のプロデューサーだったチャールズ・ルイス氏と米紙ニューヨーク・タイムズの記者だったビル・コバッチ氏の2人が中心となって立ち上げた非営利報道機関であり、現在、65カ国から約190人のジャーナリストが参加している。

そして各国メディアの英紙ガーディアン、英国営放送BBC、南ドイツ新聞、独誌スターン、香港紙サウス・チャイナ・モーニングポスト、仏紙ル・モンド、スペイン紙エル・ムンド、カナダ国営放送CBC、豪紙シドニー・モーニング・ヘラルド、朝日新聞、共同通信などと提携している。

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