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 地下鉄の東京メトロ半蔵門線で4日、ドアにベビーカーを挟んだまま電車が出発し、ベビーカーが壊れた。幸い子どもは乗っていなかったが、大事故につながりかねなかった。なぜ止まらなかったのか。

●非常ボタン、押されたが……

 4日午後3時ごろ、九段下駅(東京都千代田区)。中央林間発押上行き電車(10両)の6両目に、ベビーカーを押した男性が乗り込もうとしたところでドアが閉まった。電車はベビーカーの左前輪の上の軸を挟んだまま発車。ベビーカーはホーム端の柵にぶつかり、線路に転落した。子どもは同行の女性と先に乗り込んでいて無事だった。男性はいったん乗り込んだ後、ホーム上に置いておいたベビーカーを押して再度乗車しようとしていた。一行はドアが開く前に乗車位置に並んでいたが、他の乗客が先に乗り込んだため、最初に乗った時点で発車ブザーが鳴っていた。

 最後尾の10両目にいた車掌は、乗客の乗り降りを目視で確認したが、べビーカーが挟まれているのを見落とし、発車の合図を送った。約100メートル走ったところで車内の非常通報ブザー、さらに50メートル先でホーム上の非常停止ボタンが押されたが、車掌はいずれも社内マニュアルで定められた非常ブレーキをかける操作をしなかった。

 「次の神保町駅が400メートル先と近かったので、そこで確認しようと思った」。車掌はそう話したという。昨春入社し、今年3月に車掌の研修を終え、単独での乗務は19日目。営業運行中に非常ブレーキを操作した経験はなく、広報担当者は「電車を止めるのをためらってしまったようだ」と話す。

 大手鉄道会社の担当者は「初めて非常停止させる際は緊張するが、危険があれば直ちに止めるとたたき込まれているので、とっさに体が動くはず。非常停止しなかったのは信じられない」と話す。JR東日本では山手線など首都圏の計5路線で、ホーム上の非常ボタンが押されると電車が自動停止するシステムを導入しているが、東京メトロでは「車掌が確認した上で停止させたほうが安全」との考えから連動させていないという。

 電車はドアに異物が挟まっていれば自動検知し、発車できない仕組みだ。検知する異物の幅は各社異なり、東京メトロでは厚さ15ミリ以上、JR東は20~30ミリほどの物が挟まればドアが自動で検知するよう設定。だが、今回挟まった軸は15ミリ以下とみられるという。技術的にはさらに薄い物を検知する設定にもできるが、誤検知で頻繁にドアが開く懸念があるという。