ナイアンティックが手がける位置情報ゲーム、Ingress。アジア統括本部長の川島優志氏に最新事情と、AR(拡張現実)で目指す未来について聞いた。

ナイアンティックの川島優志氏

 ナイアンティック創業者のジョン・ハンケ氏は先月、米国でエージェント(Ingressのプレーヤー)を対象に行ったアンケートの結果を一部を明らかにした。ハイレベルプレーヤーに限定するとIngressの影響で痩せたと回答した人は60%。TV視聴など座って行うことが週に「1時間以上減った」と回答した人が85%、「3時間以上減」が33%、「6時間以上減」が9%だった。さらに19%の人はIngressをきっかけに別の国へ行き、9%が別の大陸に渡ったという。

 興味深いのは30%が「Ingressをすることで出会った誰かとデート」したことがあるという結果だ。もちろんIngressアプリにはマッチング機能はない。公式イベントや地域コミュニティーの集会に足を運ぶなどして、リアルの場で交流した相手と仲良くなったのだろう。川島氏によると「日本は比較的オクテで10%ぐらい」だそうだ。

 これらの数字はIngressで目指してきた、人を外に連れ出す仕組みづくりが成功しつつあることを物語っている。ナイアンティックは今後も取り組みを強化し、国内においては有志が行っていたエージェントに献血を呼びかける活動「REDFACTION(レッドファクション)」を支援する。1月に関東甲信越で行われたレッドファンクションは献血申込者472人、寄付207人で寄付総額が12万6754円だった。企画者が自主的に活動する方針に変わりはないが、献血に関心を持つエージェントが増えそうだ。

昨年6月に行われたレッドファンクションで献血ルームに設置された募金箱

 また東日本大震災の復興支援で、中断しているポータル(チェックポイント)の申請を岩手県、宮城県、福島県の沿岸部エリア限定で4月下旬から5月末まで再開する。多くの人に訪れてもらい東北の経済を活性化させるのが狙いだ。ウィラートラベル社は特典にIngressアイテムがつくプランや、高速バス料金が500円引きになるウェブクーポンなどで協力する。

 Ingressと並んで期待されているのがポケットモンスター(任天堂、ポケモン社)とコラボする新アプリ「Pokemon GO」だろう。年内リリース予定で、今は一部のユーザーを対象にフィールドテストを行って意見を集めている最中。詳細は明らかになっていないが、スマートフォンを持って歩き、デジタル地図上に現れたポケモンを捕まえ、他のプレーヤーとバトルするなどIngressと共通する部分は多いという。

Pokemon GO

 アジア統括マーケティングマネジャーの須賀健人氏は「ポケモンの魅力、財産であるキャラクターたちが現実の世界に現れるのがいかに楽しいかという認識を持てた」と自信をのぞかせる。川島氏も「IngressもPokemon GOも大人が遊ぶアプリだと考えているが、Pokemon GOは子供も一緒に遊べる工夫が必要になるだろう。(スマホ連携グッズの)『Pokemon GO Plus』を通して家族で楽しめるようにしたい」と語っている。

Pokemon GO Plus

 こうしたアプリを支えるテクノロジー、ARの市場規模は2020年に14兆円になると見込まれておりVR(仮想現実)の3兆円を大きく上回る(Digi-Capital調べ)。この2つは似た技術として語られることが多いが、ナイアンティックでは「VRは現実を別の何かと置き換えるもの、ARは現実をより豊かにするもの」と定義している。川島氏はVRの体験も素晴らしいと評価した上で、VR体験は座ったままでいる時間や、自分が置かれた社会的環境から離れる時間を長くしてしまう恐れがあると話し「テクノロジーが生む社会課題にはテクノロジーで対抗できる。その思いが私達をARに駆り立てている」と展望を語った。