新しい仲間を探すとなると、ある種のイモムシは決して尻込みしない。むしろ、お尻を使って積極的に誘う。
イモムシの「尻ドラム」の音声を聞く
カギバガ科のガの幼虫、マスクト・バーチ・キャタピラー(Drepana arcuata)がお尻の毛を葉にこすりつけて振動を起こすことは、以前から科学者の間で知られていた。
しかし、今週、ウルグアイのモンテビデオで開催された国際神経行動学会議(International Congress for Neuroethology、ICN)で新たな事実が発表された。カナダ、カールトン大学の生物学者ジェイン・ヤック氏によれば、コショウの粒ほどの大きさしかないこの虫は、お尻で葉の表面を叩く「尻ドラム(anal drumming)」と呼ばれる方法で他の幼虫を招き、糸を張ったシェルターに加わらせるのだという。
北米に生息するマスクト・バーチ・キャタピラーは、カバの木の葉に糸を張り、身の安全を確保するために繭のようなシェルターを作って、成長するまでその中で過ごす。だが、糸を吐いて隠れ家を維持するにはたくさんの幼虫が必要だ。そこで、仲間探しに精を出すことになる。
これはイモムシが社会的集団を作るのに振動を利用していることを示す初の証拠だとヤック氏はいう。
「このイモムシたちがいる葉に耳を澄ましても、何も聞こえません。ですが、わずかな振動も感知するレーザー振動計という機器を使うと、ゴロゴロ鳴るような不思議な音が聞こえます。ライオンの声さながらです!」
マスクト・バーチ・キャタピラーの成長には5つの段階がある。そのうち、糸で作ったシェルターの中で共同生活を送るのは第2段階までだ。第3段階になると、それぞれ1匹だけで生きていく。
ヤック氏ら研究者のこれまでの観察では、集団生活を終えた幼虫たちは、振動を使って自分の縄張りを知らせ、他の幼虫を追い払うことが分かっていた。
その際、お尻で葉を叩いたりこすったりするのと同時に、幼虫は口器でも葉を叩くか左右にこするかして振動を起こす。
ヤック氏が不思議に思ったのは、集団生活をする幼いイモムシたちも、会話をするかのように複雑な振動をお尻で作り出していることだった。しかも、この行動はよそ者の接近がないときも観察された。
「餌を食べているとき、イモムシたちは『ムシャムシャムシャ、お尻をゴシゴシ。ムシャムシャムシャ、お尻をゴシゴシ』といった調子なのです」とヤック氏。
「さらに、彼らがシェルターを作っているときも、少し働いては葉をこすって振動音を出していました」
この理由を確かめようと、ヤック氏は野生のマスクト・バーチ・キャタピラーの幼虫を捕獲。研究室でカバの小枝に載せ、仲間の研究者たちともに振動と行動を記録した。