2016年4月8日(金)

「同一労働同一賃金」で企業が恐れる「給与差」立証責任

人事の目で読み解く企業ニュース【44】

PRESIDENT Online スペシャル

著者
溝上 憲文 みぞうえ・のりふみ
ジャーナリスト

溝上 憲文1958年鹿児島県生まれ。ジャーナリスト。明治大学政治経済学部政治学科卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』(文春新書)で2013年度日本労働ペンクラブ賞受賞。主な著書に『隣りの成果主義』『超・学歴社会』『「いらない社員」はこう決まる』『「日本一の村」を超優良会社に変えた男』『マタニティハラスメント』『辞めたくても、辞められない!』『2016年 残業代がゼロになる』など。近著に『人事部はここを見ている!』(プレジデント社刊)がある。

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ジャーナリスト 溝上憲文=文
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同じ仕事の正社員と非正規の賃金差がなくなる?

安倍晋三首相が打ち出した「同一労働同一賃金」の実現が経済界と労働界に波紋を呼んでいる。

首相が最初に発言をしたのは、1月22日の施政方針演説だった。一億総活躍社会を実現するには非正規労働者の処遇を改善し、能力を十分に発揮することが重要であるとの観点から、白羽の矢が当たったのが同一労働同一賃金だった。

同一労働同一賃金とは、職務や仕事の内容が同じである労働者に対し、同じ賃金を支払うべきとする考え方だ。

だが、一口に同一労働同一賃金といっても、そもそも誰と誰を比べて同じにしなければいけないのかという議論がある。歴史的には差別防止の観点から性別、国籍、人種の違いによる賃金の差別的取扱いを禁止してきた。日本でも労働基準法3条と4条で同じような差別を禁止している。

また、同じ仕事や職務であっても異業種や企業規模(大企業と中小企業)による賃金の違いもあり、これも同一にするべきなのかという議論もある。

そもそも日本は欧米と違って職種別労働市場もなく、企業間の賃金格差も大きいので実現は容易ではない。

ただし、今回、注目すべきは安倍政権は「同一企業内の正社員と非正規社員(パート・契約・派遣社員)の賃金の違い」をターゲットにしていることだ。つまり、正規・非正規を問わず同じ企業に勤める職務が同じ労働者であれば同じ賃金にしていこうというものだ。

▼日本の常識を覆す大胆な改革

それでもこの考え方は従来の日本の常識を覆す大胆な改革だ。

なぜなら、同じ職場で同じ仕事をしている正社員とフルタイムの非正規社員がいると仮定し、非正規の時給が1000円、正社員の月給を時給換算した場合に2500円だったとすれば、パートも2500円にしなさいということになる。また正社員が100万円のボーナスをもらっていたら同じ額を支払うことになるからだ。

だが日本の実態はそうではない。

正社員は年齢や勤続年数で賃金が上がる年功序列型体系がベースにあるが、非正規にはそういう仕組みがない。それだけではなく正社員は終身雇用(無期雇用)というだけでボーナスや退職金、家族手当などの諸手当、福利厚生を含めた手厚い処遇を受けている。しかも同じ正社員でも高卒の一般事務職や工場で働く社員と大卒・院卒を対象に採用された総合職とでは賃金の上がり方も違う。

こうした点だけを見ても日本は「同一労働同一賃金」ではないと言える。

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