諦めているブス・諦めていないブス
ブスには二種類のブスがいる。と言いたいところだが、ブスともあろう者がそんなにコンパクトにまとまるわけがない。発見されているだけでも3億種は存在し、他にも未開の秘境に住むブス、未確認飛行ブスなど、まだ我々の知らないブスが多数存在するのだ。
その、星の数ほどあるブスのカテゴリの一つとして「諦めているブス・諦めていないブス」というのがある。
この諦めているブスというのは、決して、ブスであることを受け入れているというわけではない。全然受け入れられていないのだが、目の前にあるピザポテトを食うのを我慢するくらいなら、ブスのまま、もしくは死を選ぶブス、つまり美しくはなりたいが、そのために努力するぐらいならこのままでいいという、動かざること山の如きブスである。
そして後者は、ブスであることを受け入れられず、実際に行動を起こすブス。新しいダイエットや美容法に飛びつくスピードなら誰にも負けない、疾きこと風の如きブスである。
武田信玄もこんな例えに使われるぐらいなら、風林火山とか言わなきゃ良かったと思っているかもしれないが、当然ブスカテゴリの中には「武田信玄似のブス」もいるので、同ジャンルのよしみで見逃してほしい。
この諦めていないブスにとって、4月というのは、またとないビッグチャンスだ。もちろん花粉症シーズンということで、B(ブス)フェイスをマスクで隠せるからという意味ではない。4月は、デビューの月だからだ。
デビューとは、今までのイケてなかった自分をなかったことにして、新天地でリア充として生まれ変わることである。しかし、このデビューの成功率というのは如何ほどなのであろうか。むしろ、ブスが生まれた時に必ず持っているという、黒の書に新たな1ページが加わることの方が多いような気がする。
志が高ければ高いほどブス度も上がる
世の中には自分の容貌を、どうあがいてもブス、現代科学を超えたブスと判断し努力を放棄するブスもいるが、自分は何もしていないからブスなのであって、服装や化粧さえちゃんとすれば、そこそこにはなるYDB(やればできるブス)だと思っているブスも多数存在する。
確かに、身だしなみをきちんとすることで割と可愛くなったり、少なくともブスではなくなる女は多い。では、何故デビューブスが生まれるかというと、彼女たちは、最初から「そこそこ」など目指していないからだ。いきなり4月から美人になって、メチャモテガールになろうとしているからなのである。
彼女たちは、縮毛矯正をかけたり、メガネをコンタクトに変えたりするだけのザコとはわけが違う。もっと高みを目指しているのだ。しかし、皮肉なことに志が高ければ高いほどブス度も上がるいうシステムなのである。
何故そうなるかというと、あれだけローマと美は1日で成らねえと言っているのに、とにかく急に生まれ変わろうとするからだ。
本当に生まれ変わりたかったら、1回死んで、福山雅治と吹石一恵の子どもとして転生するなど、入念な準備が必要だ。しかし、さすがにそこまでいくと時間がかかりすぎる上に、カナブンに転生する可能性の方が高い。よって、仕方なく今持っている体を変えていくことになるのだが、それだって少なくとも1ヶ月はダイエットやスキンケアに励み、化粧の練習をし、服のセンスも磨かなければいけないだろう。
最近では、ネットに「女子の化粧前・化粧後」の写真がたくさんアップされており、「化粧でここまで変わるものなのか、化粧怖い」というイメージが定着し、どんなブスでも化粧で美人になれるものと思われがちだが、あれはプロ級のメイク技術を持っているから出来るものであって、もちろん、その技術は一朝一夕では身につかない。
まず、ブスの化粧はマスカラで眼球を突き刺すことから始まり、デビューをするはずが眼帯姿で中二に逆戻り、ともすれば「“綾波レイ”コスのすげえ奴がきた」と、別の意味での鮮烈デビューを果たしてしまうのである。仮に、化粧をちゃんとすれば可愛くなる、が事実であっても、化粧の技術やセンスがないことに気付いてないのだ。
選ばれしブスにしか見えない奇抜なアイテム
さらに、デビューブスの化粧は技術がない上に、大体やりすぎている。
最初からそこそこ見られる顔ではなく美人を目指しているため、アクション映画は火薬の量が多ければ多いほど名作、みたいな感覚で、化粧もやればやるほど良いと思いこみ、その結果、アクション映画でも法律上使えないような顔面爆発物が生まれてしまうのである。
服装だって、ファッション誌を丸パクリなどしない。なぜなら、メチャモテになるためにはそういう凡百の女たちと同じことをしていてはいけないからだ。
よって、服屋でも、今まで誰も手にしなかった、むしろ選ばれしブスにしか見えないんじゃないかというような、奇抜なアイテムばかりチョイスばかりしてしまうのだ。
そしてブスがそれを身にまとうと、あたりにドラクエでいうところの、呪われたアイテムを装備したときの音楽が流れ出し、人が近づかなくなるという仕様である。
しかし、もっともデビューブスがおかしがちな間違いは、見た目をよくすることばかり気を取られ、コミュニケーション能力の向上を無視しているという点だ。
デビューというのは、男女問わず「身だしなみをきちんとすることによって自信がつき、自分から人に声をかけられるようになった」というところまでいって、初めて成功なのである。
それを、見た目さえ良くすれば、周りが勝手に声をかけてくれるものと勘違いしているのだ。本当に黙っているだけで声をかけられるような美人になっているのなら良いが、実際は、E(エキセントリック)フェイスに呪われた装備である。
そんな奴に、無言で「仲間になりたそうにこっちを見ている」をされても大体の人間は目を逸らす、むしろ「なぜ、ラスボスがこんなところに」と思われるのが落ちである。