津島佑子の「不気味な予言」
原発事故はどのように語られてきたかを考えるのに参考となるのが1986年に起きたチェルノブイリ原発事故を描いた作品である。
スベトラーナ・アレクシエービッチの『チェルノブイリの祈り――未来の物語』(岩波現代文庫2011)は立入禁止区域、通称ゾーンに住んでいた人たちを訪ね歩き、話をきいたノンフィクション。アレクシエービッチの作品はすべてこの手法をとったノンフィクションだが、2015年ノーベル文学賞を受賞し、それによって小説以外の文学の可能性が開かれることとなった。
『チェルノブイリの祈り』と重なりあう作品として、メヒティルト・ボルマン『希望のかたわれ』(河出書房新社2015)がある。こちらはミステリー小説だが、登場人物の一人がゾーンの元住人で、現在も隠れ住んでいるという設定である。
2013年秋口までの作品については、『震災後文学論―あたらしい日本文学のために』(青土社2013)に紹介しているので、そちらを参考にしてほしい。すでに本書に紹介済みでありながら、2016年5度目の3月を迎える前に急逝した津島佑子の『ヤマネコ・ドーム』(講談社2013)を必読書としてあげておきたい。
津島祐子は震災による放射能被害の問題に真っ向から向き合った数少ない作家であった。表紙にアメリカの核実験で放射能汚染されたルニット島の汚染物を埋めた場所、ルニット・ドームの写真が使われているのが、ただの不気味な予言から、ここ数年で現実味を増したことに気づかされる。
ルニット・ドームには、除染して出た汚染物質を埋めてあるのだ。いま福島のあちこちに除染後の汚染物質をつめたフレコンバックが積み上げられている。あれは中間貯蔵施設に埋める予定なのである。ルニット・ドームは、近い未来の福島の姿である。そのことが早くに絶望とともに示されていたことを覚えておきたい。
津田塾大学教授。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了。博士(学術)。専門は、言語態分析、日本古典文学、日本文化研究、女性学。『恋する物語のホモセクシュアリティ 宮廷社会と権力』(青土社)及び『乳房はだれのものか 日本中世物語にみる性と権力』(新曜社)で第四回女性史学賞受賞。その他の著書に『女子大で『源氏物語』を読む-古典を自由に読む方法-』『女たちの平安宮廷 『栄花物語』によむ権力と性』『震災後文学論 あたらしい日本文学のために』など多数。
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