小林エリカ『光の子ども』1、2(リトル・モア2013、2016)、『マダム・キュリーと朝食を』(集英社2014)
小林エリカは、放射能の歴史にこだわりつづけている。小説の『マダム・キュリーと朝食を』と『光の子ども』1が対になる作品。後者はジャンルとしてはマンガだが、アート・ブックといったほうがよいような濃密な本。
『光の子ども』1では、東日本大震災による福島第一原子力発電所のメルトダウン事故を起こした年に生れた光が、タイムスリップしてキュリー夫妻がラジウムを発見する頃のパリに飛ぶ。続編では、第二次世界大戦に突入し、広島に原爆が落とされるまでの時間の放射能の歴史を追う。
多和田葉子『献灯使』(講談社2014)
多和田葉子は震災後、とくに原発災害に焦点をあてて精力的に作品を発表してきた作家である。本書には、震災後に書かれた作品がすべてまとめた、まさに必携の一冊。
2011年から2014年までの作品を一望できることで時と共にどのように作品が変化したのかが見渡せるのもよい。最初期の「不死の島」と表題作「献灯使」はどちらも日本が決定的な被曝国となった未来を描くものだが、アプローチが異なっていることがわかる。
「不死の島」が寓話のように対象との距離がある語り口であるのに対して、「献灯使」はより小説的で、登場人物に寄り添って読むタイプの語りが採用されている。この差異の背景には、震災直後の不吉な未来予想が、月日を重ねるうちにみるみるリアリティを持ってしまったということがあるかもしれない。
桐野夏生『バラカ』(集英社2016)は、東日本大震災で、原発4基がすべてメルトダウンの末爆発した状況下の小説である。東日本は避難区域となった。これは奇想天外な話ではない。原発の爆発は実際にあり得た。
この2月には、あのとき首都圏全域に避難勧告をだす想定で、首相談話を平田オリザが書いて用意していたという報道があったばかりだ。したがって、3.11とは最悪の事態を辛くも逃れただけであって、いまの状況ですんだのは単なる偶然だと考えるべきだ。だからこの物語は、未来予想としてではなく、あえて東日本大震災を辿り直して書かれている。
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