空前の「こうじ」ブームの裏で
メーカーはなぜ悲鳴を上げるのか

2013.03.01(Fri) 白田 茜
筆者プロフィール&コラム概要

 こうじの主な原料となるのが「加工用米」だ。加工用米は、私たちが口にする主食用のコメではなく、菓子や味噌などの原料となるコメのこと。国内産の加工用米は主食用のコメより割安かつ品質が安定しているので、米菓、味噌メーカーなどからの需要がある。

 しかし、この加工用米の価格が2007年からじわじわと上昇している。そして、2012年は前年比で約26%も値上がりした。加工用米をメーカーなどに販売する全国農業協同組合連合会(全農)が、2012年産の加工用米の販売価格を、玄米60キログラムあたりで前年産より2250円高い1万1000円に引き上げたためだ。

 加工用米の高騰には、いくつかの要因がある。

 1つは、東日本大震災の影響だ。津波被害を受けた地域や、放射線量が高い地域でコメの作付けが制限され収穫量が減った。2012年産から増産に転じているものの、震災以降コメの価格は高いままだ。実際、2012年9月の売買価格は対前年同期比で110%となっている。

 もう1つには、農業政策の影響があると考えられる。

 農林水産省は、食料自給率向上のため、主食用のコメ以外の需要と供給を高める政策を進めている。主食用のコメの消費量は減り続けているため、飼料や米粉パンなどの用途を増やすことでコメの消費量を拡大しようという狙いがある。

 そこで、農林水産省は、パンなどの原料になる「米粉用米」と家畜の餌になる「飼料用米」の生産に対して、加工用米より高い補助金を出している。米粉や飼料用米の生産に対しては面積10アールあたり8万円。加工用米の補助金は面積10アールあたり2万円だ。補助金の影響もあってか、米粉用米と飼料用米の生産量が急激に増えた。米粉用米は2008年度から12年度にかけて566トンから3万4521トンへ、飼料用米は8020トンから18万3431トンへ急増した。

 一方で、加工用米は2008年に14万9048トンだった生産量が、2012年には18万2158トンへ。増減を繰り返しながら全体としては緩やかに増加傾向にあるものの、2011年から加工用米の生産量が飼料用米に抜かれる現象が起きている。

用途別コメの生産量
(農林水産省「米に関するマンスリーレポート(2012年12月7日)」より著者作成)
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1978年佐賀県生まれ。佐賀県庁で食品のブランド化に関わる。その後、大学院で農業政策や食品安全に関するリスクコミュニケーションを学ぶ。食品コンサルタント会社を経て、現在は社会的関心が高い科学ニュースについて専門家のコメントを収集しジャーナリストに提供する活動をしている。関心のあるテーマは、農業、食品流通、食品安全、リスクコミュニケーション。


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