人は一度ついた”肩書き”から離れて生きられない。若い女5人と同棲している小説家の生活『100万円の女たち』
『俺はまだ本気出してないだけ』の作者が”本気”を出した異色のミステリー×ラブコメディー
ダメダメだけど憎めないおじさんを描いた『俺はまだ本気出してないだけ』の作者、青野春秋氏の最新刊。青野氏の作品の日常の中にある哀愁を描いているものが多いのですが、この作品はこれまでとは違うものだと感じました。
レビューのタイトルづけに悩みました。
なぜレビューのタイトルづけを悩んだかというと、この作品は謎の部分が多いから。
青野氏のこれまでの作品であればなんとなく楽しみ方もわかるのですが、この作品は今までとは違う。おかれた設定の理由が隠されており、徐々にそれが明らかになるストーリーのため、物語をどう捉えたらよいのかが1巻ではわかりません。実際、2巻目が発売されたら全く違う感想を持ちそうですが、この作品の楽しみ方はそれでいいんだろうなとおもいます。
5人の若い女と同棲している売れない小説家の主人公
謎の多いこの作品の設定は、小説家である主人公の父親は人殺し
なぜか、17歳,20歳,24歳,26歳,30歳の5人の若い女と同棲している。
そのうちひとりは高級コールガール倶楽部のオーナー
他のひとりは世界的大女優
そして、なぜか彼女たちは毎月100万払って、小説家に世話をしてもらっており、その彼女たちのことを主人公は何もしらない。
舞台や映画・ドラマのような設定で、まだまだ明かされていないことが多くあり、今後ストーリー進んでいくほどに謎は明かされていくのだと思います。謎が明かされていく展開が楽しみなのですが、1巻を読んでこの漫画で考えさせられたところがありました。
人は一度ついた”肩書き”から離れられない。現代では特に。
ここでいう“肩書き”はわかりやすくいえば職業のこと。少し違う言葉でいえば“ラベルづけ“、”タグづけ“でしょうか。
社会人になると、出会う人を“肩書き”つまり“職業“で認識することが増えます。というか、それ以外で認識することがほとんどないような気がします。もちろん、「この人はこんな性格で、好きなことがこれ、趣味はこれ」ということは知っているのですが、”肩書き“がその人を認識する上で上位にあるように感じます。
それほど職業などの“肩書き”は、その人を認識することに対する影響は大きい。つまり、“肩書き”によって得られる情報は多く、そして得られた情報で判断して不都合はないし、十分に機能する、ということなのだとおもいます。
この作品では、主人公のまわりに、素性がわからない女性、つまり“肩書き”がわからない女性が5人生活しています。何かの契約なのか、主人公は彼女たちの素性を自分から聞くことはできません。
ある日、主人公は同棲している女性に高級コールガール倶楽部のオーナーであると明かされ、仕事を見せられます。
そこでは人気女優が一晩1,000万円で派遣されている。
ここでは人気女優という“肩書き“で人が認識され、それが金を生んでます。
そんなことを目にしながらも、その主人公自身も同棲しているうちのひとりの女性がインターネットで調べたことによって「人殺しの子」という“肩書き“で見られることになります。
このように謎の多い特殊な設定によって、小説家とそのまわりの5人の女性たちの間では、徐々に明らかになる“肩書き“を軸にしてストーリーが進んでいきます。
「自分の肩書きを知らないままで、自分を見て欲しい」というのは誰しもが思うことですが、現代では幻想のように思えます。
その中で、この作品は「一度ついた“肩書き“から離れて生きていくことは難しい」ということを伝えつつも、「”肩書き”抜きで目の前のひとを見る」ことを意識させてくれますし、「自分の"肩書き"を知らないでいてくれる環境は得難いものである」ということを教えてくれます。
謎が多い設定から感じたこの作品の魅力をお伝えしましたが、2巻目以降が気になるストーリー展開で読み物としても面白いです。舞台化など向いているように思いました。
他にも、青野氏の作品を読んだことのない方は『俺はまだ本気を出してないだけ』『スラップスティック』がおすすめ。青野氏の作品は、30歳をこえて読むとグッとくるものがあります。バイブルです。
会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。
※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。