ハンセン病に“感謝”した誇り高き詩人

桜井哲夫

17歳でふるさと津軽の家族と別離、療養先の群馬草津のハンセン病療養施設で暮らす詩人、桜井哲夫さんの素顔に迫ったフォトドキュメンタリー。彩流社刊

 歌舞伎町スナイパーカメラマン・権徹さんの最新作『てっちゃん』(彩流社)は、ハンセン病回復者の詩人・桜井哲夫さんを追った写真集だ。新宿・歌舞伎町を17年撮り続けてきた権さんだが、その“原点”はここにあったと語る。

「実は、僕の雑誌デビュー作は歌舞伎町ではなく、ハンセン病回復者の記事でした。桜井さんはその中でもいちばん親密に付き合ってくれた人です。僕は桜井さんのことを、親愛の情をこめて“てっちゃん”と呼んでいます。初めて会ったのは’97年。恵泉女学園大学の森田進教授(当時)に誘われて群馬県草津町のハンセン病療養所・栗生楽泉園に行き、ハンセン病回復者の方々に会いました。最初は、そりゃあびっくりしましたよ。でも、ひとりで楽泉園に通うようになり、てっちゃんの6畳一間の部屋に泊めてもらうようになりました。そうしているうちに、その人間性に触れて、すごくカッコイイなと思うようになったんです」(権さん)

 桜井さんは、「らい(ハンセン病の差別的呼称)になったことを感謝している」と常々語っていたという。

桜井哲夫

権さんと訪れた釜山の海で、楽しそうに空を見上げる桜井さん

「てっちゃんは、深い人生の刻まれた自分の姿にとても誇りを持っていました。そして、この病気になったからこそ、僕や森田先生、学生たちと話ができるんだと感謝していると言うんです」

 ハンセン病は「らい菌」という極めて感染力の弱い菌による感染症で、治療法も確立している。ところが明治時代以降、「恐ろしい伝染病」との誤解のもと、最近まで約90年間、隔離政策がとられていた。患者たちは療養所に強制的に集められ、子孫を残すことも許されなかった。

「’13年5月現在、全国13の国立療養所で1979人が暮らしています。平均年齢は82.6歳、この1年で155人が亡くなっています。あと10年もすれば、日本から元ハンセン病患者はほとんどいなくなります。その前に、この言われなき差別を受けた歴史と、てっちゃんの誇り高い生き様を記録しておきたかったのです」(同)

重監房跡

療養所の敷地内に設置された監獄「重監房」跡。罪もなく獄死した人々に黙とう

 週刊SPA!12月24日発売号「韓国人スナイパーが撮り続けた[日本の闇]1996-2013」では、このハンセン病回復者をはじめ、東日本大震災、原発、野宿者、歌舞伎町の衝撃的写真など、権徹ストリート・ジャーナリズムの数々を紹介している。<取材・文/北村土龍>

【権徹】
ドキュメンタリー写真家。’67年韓国生まれ。’94年に来日。’99年、ハンセン病回復者の記事で雑誌デビュー。新宿・歌舞伎町を撮り続けて17年を迎える。『歌舞伎町』(小社刊)で第44回講談社出版文化賞写真賞を受賞

週刊SPA!12/31・1/7合併号(12/24発売)

表紙の人/岡田准一

電子雑誌版も発売中!
詳細・購入はこちらから
※バックナンバーもいつでも買って、すぐ読める!

てっちゃん

「てっちゃん」の愛称で親しまれた詩人・桜井哲夫は、人生を奪った「らい」をどう生きたのか――

誰でもできる!プラン変更なしでソフトバンクのスマホ利用料金がお得になる方法【PR】

誰でもできる!プラン変更なしでソフトバンクのスマホ利用料金がお得になる方法【PR】
 4月になり、就職・転職、転勤、結婚など新生活を迎える人が多いなか、心機一転、春から何か新しいことを始めたり、生活や家計を見直そうと思っている人もいる…

連載

ばくち打ち/森巣博
番外編その2:日本人のハイローラー(14)
山田ゴメス
“ゲス不倫”宮崎(元)衆院議員からあえて学ぶ「モテLINE文章術」
メンズファッションバイヤーMB
「休日スーツ」はモテ度がアップ!? どんな人でもおしゃれに見える着こなしポイント
オヤ充のススメ/木村和久
オヤジ好きキャバ嬢の攻略法。電マトークで反応を確認!?
フミ斎藤のプロレス講座/斎藤文彦
“レッスルマニア3”ホーガン政権ピーク――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第65回
おじさんメモリアル/鈴木涼美
「顔じゃなくて知性で女を選ぶ」男の無知性
大川弘一の「俺から目線」
こんなタイプがチャンスを逃す――連続投資小説「おかねのかみさま」
プロギャンブラー・のぶき「人生の賭け方」
桜は名所より近所で――桜前線を追い続けた男が語る「花見スポットBEST3」
英語力ゼロの46歳バツイチおじさんが挑む「世界一周 花嫁探しの旅
「運の流れを変えなければ」――46歳のバツイチおじさんはカジノに活路を見出そうとした
フモフモ編集長の今から始める2020年東京五輪“観戦穴場競技”探訪
“東京五輪”なのに伊豆(静岡県)開催の自転車競技を追っかけてみた件
原田まりる
会話に出てくる「私はコミュ障です」は本気にしてはいけない?
僕が旅に出る理由 in India/小橋賢児
満月の下、裸足でインド聖山を巡礼した――小橋賢児「小さい奇跡が重なり合い。大きな奇跡を産む」
18歳女支配人・このみんの経営学「私のミカタ」/園田好
男の言う『かわいい』は『ヤリたい』なんだよね

投稿受付中

バカはサイレンで泣く 投稿受付中
佐藤優の人生相談 投稿受付中