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ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

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仕事はリスクを愉しもう!そう『熊とワルツを』踊るようにね

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こんにちは、らくからちゃです。

少し旧聞にはなりますが、こんな記事を読みました。

気持ちはどうでもいい。

「思う」ってあなたの心理的状況を指す表現ですよ。「できる」か「できないか」を聞いているのに、なぜその返事が「お前の気持ち」なのか。

「できる?」って聞かれたら、「できる」か「できない」で答えろ。仕事ではあなたが「できる」のか「できない」のかが問題なので、あなたのもくろみ・願い・予想は返答に不向きである。

 うーん、確かにお給料を頂いてプロとしてやっているのに『思います』は駄目ですよね。でも、世の中のお仕事には『出来る』『出来ない』と断言出来るお仕事ばかりじゃないのも事実です。

こういう『どうなるか分からない要素』を、ビジネスの世界では『リスク』と呼びます。リスクは、基本的に自分の責任の外で発生します。言い換えれば、リスクの高い仕事とは、自分には何の落ち度もないのに、思った通りに進まない可能性の高い仕事のことです。

皆さん、そういった『リスクの高い仕事』をするのは好きですか?まあ、普通リスクの高い仕事はストレスが多いので、好き好んでやりたがるひとは少ないですよね。わたしも、なるべくリスクの少ない仕事の方がいいなあと思います。

でも、そんな考えを少し変えてくれたのがこの本。

熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理

熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理

 

 確か、入社して2年目くらいだったかな?会社の図書室に転がっていたのを『面白いタイトルだなあ』と思って手にとったのがきっかけだったと思います。

本書は、システム開発につきものの『リスク』についてその事例を徹底的に分析したものです。システム屋の中では『古典』としても挙げられる一冊ですので、読まれた方も多いかもしれません。

本書は、こんな書き出しから始まります。

リスクのないプロジェクトには手をつけるな

 昨日と同じことをすれば、必ず成功する作業は、気が楽です。ただ、そんなことばかり繰り返していると組織としても個人としても成長は有り得ず、衰退の一途をたどります。本書では、具体例としてメリル・リンチととフィデリティ、シュワブの比較を挙げています。

メリル・リンチは、長い間、いわゆるオンライン・トレードの動向を注視してきた。そして、それを無視することにした。高額な手数料と、顧客を捕まえて離さないブローカーを特徴とするフルサービス証券業の時代が戻ってきて、直接取引が一過性の流行に終わることを祈っていた。なんとはかない望みだったことか。いまやフルサービスの証券業は、フルサービスのガソリン・スタンドと同じく過去のものだ。

現在では、メリル・リンチも、手数料を引き下げてオンライン・トレードを提供している。しかし、時代に追いつくには10年かかった。メリル・リンチは後発の中でも最も遅かった。

先発組はフィデリティ、シュワブ、Eトレードである。Eトレードとその同類は、変化に乗じるために創設された新興企業である。つまり、オンライン・トレードが一過性の流行に終わればEトレードは潰れたはずだが、そのとき失うのは、この事業に賭けるためだけに調達した資本金のみである。いっぽう、フィデリティやシュワブはすでに安定した企業だったため、失うものが多い。そういう意味では、メリル・リンチと大きな違いはない。しかし、フィデリティとシュワブはリスクを取ることにした。

(中略)

メリル・リンチがこれらのリスクを認識していたことはいうまでもない。しかし、フィデリティとシュワブはこれらのリスクに立ち向かうことを決めたが、メリル・リンチはリスクから逃げる道を選んだ。その結果、フィデリティとシュワブは90年台に急成長をとげ、メリル・リンチは現状を維持するのがやっとだった。

 随分とスケールの大きな話ですが、同じような話は、身近なところでも数多くあるのではないでしょうか。とはいえ、ただ闇雲に難しいことに挑戦すれば良いわけでは有りません。ビジネスはギャンブルでは有りません。発生する可能性のある不測の事態について、事前に対策を行うこと。これを『リスク管理』と呼びますが、リスク管理には以下にあげられるような効果があります。

  1. リスク管理は積極的にリスクをとれるようにする
  2. リスク管理は不意打ちを防ぐ
  3. リスク管理は成功するプロジェクトを作る
  4. リスク管理は不確定要素を限りあるものにする
  5. リスク管理は最小限のコストによる保険である
  6. リスク管理は目に見えない責任転嫁を防ぐ
  7. リスク管理は一部が失敗したプロジェクトを救える
  8. リスク管理は人材の成長機会を高める
  9. リスク管理は管理者への不意打ちを防ぐ
  10. リスク管理は注意すべきところに注意を向ける

詳細は、本書を買ってご確認頂きたいところですが、タイトルだけでも『なるほど』と思うところがあるのではないでしょうか。

本書では、ステム開発プロジェクトにおけるリスク管理について役に立つノウハウが述べられています。専門的な内容についてはそちらに譲るとして、本稿では、実際に職場で仕事を行うにあたって役に立つリスク管理の方法について書いてみたいと思います。

とあるコンサルタントの憂鬱

普段わたしは、システム導入や導入後の諸々のトラブル対応、追加改修について、お客様の相談にのらせて頂くようなお仕事です。多くのお客様で、プロジェクトの導入や改善活動は、他の業務と平行して行われます。例としては、

  • 課題の整理
  • (弊社)対応案の検討
  • (顧客)必要な情報の収集
  • 課題が解決するかの検証

といったプロセスをぐるぐる回しながら行われます。その為、お客様の回答が帰ってくるまでの間、常に作業が行えるわけじゃないんですね。じゃあ、その間は何をしているのかというと、別のお客様の作業をしています。

開発の仕事とは違って、一ヶ月べったり特定のお客様の作業をするというよりも、必要に応じてその都度作業をする形となるんですね。実際に、わたしが行っている作業を整理するとこんな感じ。

会社名作業量(人日)役割内容
A社 10〜12 コンサル 新規システムの切り替えにあたっての導入支援。
メインは別チームで、わたしの役割は会計システムとの連携。
近々カットオーバーの予定で、現場は常にピリピリモード。
だいたい、週に1−2回客先を訪問し、打ち合わせを行っている。
B社 2〜5 マネージャ補佐 別部門から引き継いだシステムの改修作業。
そのうち一機能を担当。
要件を整理し、顧客とエンジニアとの窓口となることが役割。
顧客の方針が変わりやすくスケジュールも流動的。
C社 3〜4

マネージャ
/エンジニア

新規導入したモジュールの使い勝手に納得していない。
定期的に改修希望が発生する。
状況に応じ、開発要員を必要に応じて別途確保する必要がある。
D社 2〜3 コンサル 会計モジュールの導入を行い、切替後数ヶ月経過。
スケジュールの融通は利く。
対応が必要になった場合、わたしの代わりになる人は居ない
E社 1〜2 マネージャ 導入後の保守支援。
顧客の技術レベルは高く、よっぽどのことがなければ作業は発生しない。
また、支援が必要な場合は技術的難度が高いものが高い
わたしでは対応は出来ない
開発
部門
1〜2 その他 開発部門の問い合わせ対応支援。
状況に応じて、開発部門からの支援要請を断ることも可能
だが、可能な限り対応して今後のコネクションとして維持したい。
部内
業務
1〜2 その他 部内ミーティングの参加や、共有資産の管理など。
後輩に任せることも出来るものもあるが、実行したい改善案が何個かあり。

気がつけば7年目ですので、思った以上に色んな所に首をつっこんでますね(笑)。お客様を見ていても、いわゆる『ホワイトカラー』の職種であれば、ひとりが複数の仕事を平行して行わなければならないのは当たり前のことで、職種は違えどみんなこんな感じじゃないでしょうか。

改めて担当している各所状況を見ると、それぞれ顧客の特性が違っていて中々面白いですね。

A社は、システムの稼働を目前に控えていて、絶対に遅らせることは出来ません。B社は、お客さんの方針が変わりやすく、作業ボリュームも前後しやすい傾向にあります。C社は、専任の技術スタッフがおらず、開発依頼が生じた場合要員調整が必要になります。D社は、私以外に対応できる人がいない一方、逆にE社は、わたしでは対応は困難です。開発部門の支援活動は、状況に応じ断ることも出来ますが、今後の関係を考えてなるべく処理したいですし、部内の改善業務も急ぎではありませんが放置したくは有りません。

全てがベストシナリオになれば20人日程度ですが、ワーストシナリオになれば、1.5倍の30人日程度に作業が膨らみます。まさに、リスクの多い働き方です(笑)。更に、同時期に作業が集中すれば、わたしのところで仕事が渋滞を起こしたり、作業できるひとが居ない可能性もあります。そうすると、色んな人に迷惑をかける可能性のある状況です。

リスクとどう付き合うべきか

さて、こういったリスクへの対処法は、教科書的には以下の4つに整理されます。

回避

リスクそのものを無くす方法です。例えば、前もって『発生するかどうか分からない作業』を、どちらになるかはっきりさせてしまえばリスクではなくなります。この中では、C社の案件なんかそうかなあ。

前もって、今の不満点についてしっかりヒアリングし、作業を確定させてしまえば、『開発要員が必要かどうか分からない』といった類のリスクは回避できます。

リスクマネジメントにおいて、まず最初に試みてみるべき作業ですね。

軽減

とはいえ、全てそういった対応が出来るわけでは有りません。そこで次に試みるのが『発生した時のダメージを抑える』軽減という方法。この中では、D社の案件なんかは、自分以外に対応出来る人を作っておくか、せめてサポートしてくれるひとを確保しておけば、発生時のダメージを抑えることが出来ますね。

転嫁

また、どうしてもリスクが大きい場合、予め他の人に作業を頼んでおくという方法も考えられます。一番振れ幅の大きいB社の案件については、他の人にお願いし、より振れ幅の少ない作業と交換してもらう、なんてことも考えられます。

受容

そして最後に、それでも自分がやるしかない作業については、リスク込みで引き受ける必要があります。この中では、規模が大きく全体のスケジュールが決まっているA社の案件なんかがそうでしょうか。多少の増減は『前提』として、この案件に打ち込むために、他の案件のリスクを下げていく。そんな対応が必要な場合もあります。

とまあ、こんな風に教科書通りにことが運べばいいんですけどね。

一番大事なのはコミュニケーション

リスクを管理するには、いろんなアプローチがあります。ただ、全てにおいて最も重要なことは『いかにコミュニケーションを取るか』もうこれに尽きます。あなたに無茶な仕事を要求してくる上司や顧客も、あなたの置かれている状況について理解していないということは多々あります。

そんな時に役に立つのは『雑談』と『御用聞き』です。

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雑談・・・というと、仕事には関係ない話をダラダラとおしゃべりするイメージがあるかもしれません。気心の知れた相手であれば、それでもいいのですが、上司と雑談するのは中々難しいですよね。といっても何もプライベートの話じゃなくても良いんです。

  1. いま、◯◯さんのところに行かれてるんでしたっけ?
  2. 新人にいきなり☓☓の案件は難しいと思いますけど、大丈夫なんでしょうかね?
  3. いま△△の件をやられていると聞きましたがやっぱり□□とは違いますか?

こんな感じで、仕事に関する話をふります。そうすると、そういったちょっとした会話の中から『そういや☆☆の件って大丈夫?』というふうに、状況の共有が出来ることが多々あります。もちろん、その話だけを報告してもいいのですが、大事なのは可能な限り上司と接点を持つことです。

管理職は、部下の作業の『リスク』について少なからず興味を持っています。但し、自分から状況をヒアリングするほどの余裕は有りません。一方、担当者の抱えているリスクとは、本来『一担当者で解決できないこと』です。早めに共有することで、上司はリスクを認識し、その備えをすることが出来ます。

 またお客様に対して『御用聞き』をするのもリスクを回避するために大きな意味を持ちます。『御用聞き』とは、定期的に特別な用事がなくとも、連絡を取ることです。例えば、

  1. システム切り替えから1ヶ月ほど経ちましたが、トラブル有りませんか?
  2. もうすぐ決算の時期ですけれど、不安なことは有りませんか?
  3. しばらく出張で不在にしますが、何か前もってお伺いすることは有りませんか?

などなど。勿論、毎日電話したらうざがられますが、定期的に会話をしておくと、事前にトラブルに繋がる芽を見つけ、リスクを回避したり軽減したりすることが可能です。いずれにせよ、リスク管理において、あなたの身を守るためにもっとも重要な事は

『リスクの存在を共有すること』

だと思います。その為には、何がリスクになりうるのかを見つけること。その一番の糸口は周囲との会話の中にあることも多々あります。

無茶な仕事を頼まれた時にあなたはどうするべきか?

こんな感じで、上司から『無茶な仕事』を頼まれることはあります。

悪いんだけど、Aの仕事を今月中にやってもらえないかな?

 さて、この仕事が『無茶な仕事』である理由は、いまこの文章からは絶対に分かりませんよね。じゃあ、無茶な理由を列挙するとこんな感じ。

  1. Aはやったことがないので、本当に出来るのか不安だ
  2. 顧客が実施を迷っているBがある
  3. 自分の担当している作業で送らせることが出来ないCがある
  4. 突発かつ緊急で発生するDがある

まあざっとこんなもんです。上司は、こういった状況を知りつつ依頼してくる時もありますが、本当に知らない可能性も多々あります。ですので、こんな風に言われた時の回答は『できます』『できません』ではなく、こういった感じになります。

了解致しました。

まず、Bの件がどうなるかを確認させて下さい。Cの件も今月必達ですので、分担調整が可能か先輩に相談しています。また、Dの件が入ってしまうと、スケジュール遅延のリスクがあります。

本件初挑戦の仕事なので、過去に対応されていた方をご連絡頂きたいと思います。 

 こういった状況が管理できれば、上司としては『スケジュールを長めに取っておくか』『他のタスクの割り振りを見直すか』『他の人に依頼するか』を考えることが出来ます。リスクも含めた上で、最善の一手を考えなおすことが出来るんですね。

そしてもうひとつ大事なことは、『リスクが実現してしまった時の責任を回避する』ことです。何も言わなければ、全てあなたの責任として、土日も深夜も働いて仕上げなければならないことになる可能性があります。

でも、それを事前に共有しておけば(結果そうなったとしても)その責任は、あなたではなく指示をした上司のものです。

仕事において大切なことは、リスクときちんと向き合うこと

皆様、多種多様な職場で色んなお仕事をされていると思うので、話の分かる上司だけじゃないかもしれませんし、挙げてきた例は使えない場合があります。でも、大事なことは、『リスクを回避する方法はいろいろとある』ことです。

そういや以前、こんなことをツイートことがありました。

 例えば、『電車が遅れるかもしれない』というリスクがあります。勿論『早めに出発すること』は大切です。でも、どれくらい前に家を出たら良いんでしょう?極端なことを言えば、前の日から会社の前に寝袋用意して泊まりこんでおけば安心ですが、そんな働き方は続けられませんよね?

事前にできる対応としては、

  1. 乗り換えの場所などを確認して、多少の遅れには対応できるようにする
  2. 遅延した時の代替ルートを考えておく
  3. どうしても遅れそうなときの連絡先を確認しておく
  4. 寝坊しないように早く寝る

なんだか、書いていけば幾らでも上がりそうですね(笑)。

仕事をしていると、様々なリスクに直面することがあります。リスクは多くの人にとってストレスの源ですし、出来れば避けたいものです(わたしもそうです)。

でもそれと同時に、仕事をする際の『腕の見せ所』の1つでもあります。特に、『あの人となら働きやすいね』って言われる先輩は、リスク管理が抜群に上手いことが多いんですよね。

リスク管理とは『できない仕事をできるようにするための技術』でもあります。上達の近道は、先輩たちのテクニックを盗んでいくことですが、そういったテクニックを使っていないことに気が付けないと、得るものも得られません。そして、学んだことを繰り返し使っていくことで、はじめて身につくような気がします。

これから、新入生が沢山職場にやってくる事でしょう。『この作業はこういった意図でやっているんだよ』ということをしっかり伝えていき、リスク管理能力の高い人材を育てていくことも、大事なリスク管理のひとつのような気が致します。

ではでは、今日はこの辺で。