印南敦史 - コミュニケーション,スタディ,仕事術,書評 06:30 AM
上手く話すのに必要なのは、テクニックじゃない
「話し方」に関する書籍は数多く出版されていますが、その大半はテクニックやスキルに焦点を当てたもの。しかし『話し方で、男は決まる』(櫻井 弘著、フォレスト出版)の著者は、ちょっと違った考え方を持っているようです。
もちろん、話すテクニックや声、話す内容も、スキルがあるに越したことはありません。(中略)ただ、こうしたスキルやテクニックをいくら磨いても、「あるもの」がなければ、せっかく身に付けたスキルの効果は半減してしまいます。その「あるもの」とは、相手に対する「意識」です。「想像力」と言い換えてもいいかもしれません。(「はじめに」より)
「相手は自分になにを求めているのだろう?」「この話の目的はなんだろう?」など、相手の思いや考えを想像し、それを意識してコミュニケーションをとる(=相手の感情に気を配る)必要があるということ。相手の感情に意識を向けられれば、おのずと「もののいい方」「言葉の選び方」はもちろん、「表情」「しぐさ」「間の取り方」「ネタの拾い方」「話題の広げ方」なども変わってくるといいます。
ではそのために、どんなことを心がければいいのでしょうか? その答えを探すために、第2章「会話は、『意識』が9割」を見てみたいと思います。
相手の不安・負担を軽くする
人が行動しようというとき、躊躇する原因となる代表的な感情が「不安感」や「負担感」。初めてトライすること、苦手だと思っている分野にチャレンジする場合などには、「私にできるのだろうか?」「もし失敗したらどうしよう?」というような感情に襲われてしまいがちだということ。
そこで、人を動かす「説得」の仕方を考えるにあたっては、まず最初に意識しなくてはならないことがあると著者はいいます。それは、「相手の不安を解消する」こと。そしてそのための有効な方法のひとつが、「相手の負担感を軽減する」ことなのだそうです。
たとえば右も左も分からないような新人に仕事を頼む際、「ここに10の仕事があるから、全部をやってほしい」と告げても難しいのは当然のこと。なぜなら新人にとって、それはあまりに負担が大きすぎるからです。しかし、ある程度仕事の進め方や方法を教えてから、まず「10ある仕事のうち、2に取り組んでほしい」と指示されたとすれば、相手もイエスと答えることができるはず。
つまり、「すべてではなくていいから」「まずはレベル1から」「もしもわからなかったら、いつでも質問していいから」と、相手が困ったときの考え方や対応の仕方までを伝えておいたうえで、精神的、肉体的な負担感を軽くしてあげる。それが、相手に動いてもらうための近道になるということです。
だからこそ大切にしたいのは、「相手にとって、いちばん不安感、負担感を軽減することはなんだろう?」と、徹底的に相手の視点に立って考えること。そしてその際には、変なプライドや恥ずかしさを捨てる勇気が必要だと著者はいいます。
いうまでもなく、プライドや恥は相手のためではなく、自分を守るためのものにほかならないから。いいかえれば、相手不在の自己中心的な考え方だということです。(44ページより)
話がかみ合わないとき
ご存知のとおり、日本人のコミュニケーションの取り方の特徴は「察し型」であり、その代表的な例が「いわずもがな」という価値観です。「いちいちいわなくてもわかるはず」「大人なんだからわかるべき」「常識としてこんなことはわかるものだ」という決めつけによる、一方的な考え方が知らず知らずのうちに根づいているということです。
そしてこうした傾向を持つ私たち日本人は、自分の考えや必要な情報が相手に正確に伝わらなかった場合、「あれだけ説明したのに...」「(相手の)理解度が足りない」というような「相手批判モード」に入ってしまいがち。
加えて人には、とかく「自分は悪くない」と弁解をしがちな傾向もあります。いってみればそれは「責任転嫁のための自己弁護」。「予算が足りないから」「時間がないから」「上司にいわれたから」など、自分以外の他人や外部環境が原因でうまくいかなかったことを強調してしまうわけです。
それどころか、「ですから~」「だから~」と、相手のいいぶんをまったく聞き入れることなく、一方的な態度で接してしまう人もいます。「だから、私が悪いのではなく」と、責任転嫁からはじまる状態。著者はこれを「からあげ状態」と呼んでいるのだそうです。
そんな状態を回避するために必要なのは、意識を「相手」に向けていくこと。「相手認識」「相手理解」「相手尊重」が重要だというのです。この点を確認するため、第1章にページを戻してみます。
相手を「認識」する プロセス1.
外出する予定がある自分は午後の天気が気になるけれど、パートナーは本を読んでいる。そんなとき、「きょうの午後はいい天気かな?」と話しかけるべきか? たとえばこのように、相手の状態を認識するためには、まず相手を見て、観察することが大前提になるということ。いわば「認める」とは、見て、目と心に留めること。(22ページより)
相手を「理解」する プロセス2.
相手のことを「理解」したからといって、「理解」できているとは限らないもの。人間同士、特に男女の違いは、コミュニケーションの差を広げてしまいがちだといいます。そこで誤解が生じたときには、相手の立場に立って「理解」することが必須。そして相手を理解するためには、相手の状態をしっかりと「認識」しておくことが重要だという考え方。(22ページより)
相手を「尊重」する プロセス3.
相手を「認識」して「理解」し、受け入れることができたとしたら、そののちの着地点にあたるのが「尊重」だそうです。「敬語を使う」「マナーや礼儀にかなった態度や表情に気をつける」「相手に恥をかかせない努力と工夫をする」など手段はさまざまですが、相手と状況とを判断して、尊重の姿勢を表すべきだということ。(25ページより)
自分自身に向いていた意識を、これら3つを軸として相手に向けると、豊かなコミュニケーションが実現できると著者は記しています。(52ページより)
「わかるはずだ」という思い込みを捨てる
私たち日本人同士のコミュニケーションにおける特徴的な問題点のひとつが、「相手は自分と同じ」だと考えてしまいやすいところ。「自分と相手はまったく違う存在」というところからコミュニケーションをスタートさせる欧米人とは、まったく対照的であるわけです。
しかし「自分は相手と同じ」というところから人とのコミュニケーションをはじめようとすると、無意識のうちに「自分の常識」=「相手の常識」、「自分の価値観」=「相手の価値観」、「自分の生活習慣」=「相手の生活習慣」というように捉えてしまいがち。
根本的に「同じ日本人だから」という前提のもと無意識に人と話したり、人の話を聞いたりしているわけです。しかしそんな思い込みには、コミュニケーションに悪影響をおよぼす可能性も。
こうした日本人特有の特徴は、「違いを受け入れにくい」という状態でもあるはず。しかし実際には、地域の特徴から生活習慣までが関連しているわけですから、「みんな違う」わけです。だからこそ、「わかるはず」ではなく、「そう簡単にわかるわけがない」というところからはじめるべき。
そして粘り強く、上手にコミュニケーションをとる意識を習慣化すべきだと著者はいいます。いちばん大切なのはスキルではなく、その意識なのだと。(64ページより)
感情的になったら「ひと呼吸」おく
人間は「感情」の生きもの。いわば人間的な側面が垣間見えるのは、「喜怒哀楽」という感情表現をしているときであるといえるはず。しかし感情的になればなるほど相手に伝わりにくくなりますし、感情的になっている相手に感情的に返したとしたら、火に油を注ぐ状態になってしまうだけです。
そこで著者は、感情的になったときに効果的な方法をここで紹介しています。それは「ひと呼吸おく」こと。「人間の怒りは、6秒我慢すれば消沈する」といわれます。つまり、この6秒に「間」を取り、どのように「待つ」ことができるかが大切。それがうまくいけば、相手の感情に巻き込まれることなく、自分のペースでコミュニケーションをとり、目的を達成することができるといいます。なぜなら「間」とは、自分自身の気持ちを整えるための時間だから。
そして、そのときの重要なポイントは「鼻呼吸」なのだそうです。鼻呼吸をするためには、口を閉じることが必要。口を閉じれば、言葉を発しないですむ。つまり、「間」がとれるということ。そしてその間に、相手の様子や状況を観察することが可能。相手の感情と自分自身の感情を和らげ、感情的にならずに済む状況をつくれるわけです。
著者によれば、「間をとる」とは「待つこと」。「待つ」という心の余裕があれば、感情的になっている相手を観察し、認識し、理解して受け入れることが可能になります。そして最終的には相手を尊重しながら、自分の目的も達成できる可能性が生まれるわけです。(75ページより)
会話が相手とのコミュニケーションである以上、たしかにスキルよりも必要なのは「意識」なのかもしれません。本書はそんな、忘れかけていた基本を思い出させてもくれます。
(印南敦史)
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