(英エコノミスト誌 2016年4月2日号)

中国安邦保険、米スターウッド買収提案を撤回

中国北東部の遼寧省大連にある、スターウッドホテル&リゾートチェーンの「ザ・キャッスル・ホテル」(2014年7月7日撮影)。(c)AFP/JOHANNES EISELE〔AFPBB News

中国の外国投資ブームの元手は借金だ。

 「我々は今、ジェットコースターに乗っている」

 ウェスティンやシェラトンといったブランドを傘下に持つ米国のホテルグループ、スターウッドのトム・マンガス最高経営責任者(CEO)はこの3月末に、従業員に向けてこう書いた。

 同じ米国のホテル運営会社マリオットと、中国の保険会社・安邦保険集団の率いるグループとによる買収合戦に言及したコメントだった。

 安邦保険側は先に買収価格を140億ドルに引き上げた(訳注:この記事が出た後、安邦保険は買収提案を取り下げ、買収交渉から撤退した)。マンガス氏がこのとき、世界経済を席巻している中国主導のM&A(企業の合併・買収)の大波について語っていたとしてもおかしくなかった。

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 外国での経験がほとんどない一方で、多額の債務を背負った中国企業が、世界各地で資産の最大の買い手に浮上している。今年に入って中国企業が発表したクロスボーダー(国境を越える)M&A取引の額は1000億ドル近くに達し、前年実績の610億ドルを早くも上回っている(図参照)。

 確かに、取引の「発表」と「契約成立」は別物だ。ほかの買い手に競り負けたり、規制当局から許可が下りなかったりすることにより、この金額はぐっと減る可能性がある。

 とはいえ、傾向ははっきりしている。クロスボーダーM&A(発表ベース)に占める中国のシェアはここ数年ずっと10分の1を下回っていたが、今年は3分の1に近いのだ。

 世界経済にとって、この投資ブームはいくつかの点で歓迎すべき展開だ。世界全体のM&A取引は今年の第1四半期、前年同期比で25%減る見通しだ。食欲旺盛な中国がいなければ、もっと大幅な減少になっていただろう。

 中国が狙いを定める企業の業種はさまざまだ。化粧品会社もあれば建設機械会社もあり、フィルムメーカーもあれば肥料メーカーもある。コモディティー(商品)やエネルギーへのこだわりは峠を越えたようだ。

 また、最近のM&A案件は以前ほど政治的な面で物議を醸すことがない。コンサルティング会社のロジウム・グループによれば、米国の安全保障に脅威をもたらすM&Aかどうかを審査する対米外国投資委員会(CFIUS)がチェックに乗り出す件数は増えているものの、その増加率は中国の投資の増加ペースほどではない。

 それよりも、別の懸念が高まっている。