衆院小選挙区の一票の格差是正に向け、自民党案と民進党案の二つが来週にも国会に提出される。大島理森衆院議長のもとで調整が続いていたが、一本化はできなかった。

 自民、民進の両案の違いを端的に言えば、抜本改革を2020年以降に先送りするか、すぐにやるかの違いである。

 この国会で決着をつけることになるが、数で勝る自民党の先送り案が成立する可能性が高い。それでいいのか。立法府の責任が問われる審議となる。

 自民、民進の両案はともに、選挙区間の格差を2倍以内に抑えるため、(1)10年に一度の大規模国勢調査をもとに「アダムズ方式」という新たな計算式で都道府県間の定数配分を見直す(2)大規模調査の中間年の簡易国勢調査では、都道府県内の選挙区画の見直しによって調整する、との内容だ。いずれも衆院議長が検討を委ねた有識者調査会の答申に沿っている。

 両案が異なるのは、答申には示されていない実施時期だ。民進案は2010年の大規模調査に基づきアダムズ方式で小選挙区の定数を「7増13減」したうえで、15年の簡易調査をもとに都道府県内の区割りを見直す。

 自民案は、15年調査をもとに議員1人あたりの人口が少ない選挙区の定数を減らす「0増6減」だ。最高裁に撤廃を求められた1人別枠方式からアダムズ方式に全面的に切り替えるのは、20年調査以降としている。

 なぜ、すでに結果が出ている調査をもとに抜本改革をせず、20年まで待たねばならないのか。自民党から説得力のある説明はない。要は、300人近い議員がいる中、定数減の影響を受ける現職をできるだけ少なくしたいからに過ぎない。

 最高裁は、過去3回の衆院選での投票価値の不平等をいずれも「違憲状態」と判断している。立法府の存立にかかわる異常な事態である。この国会で結論を出すべきなのは当然だが、その場しのぎの先送り案でよしとする理由にはならない。

 自民党内には、この国会で格差是正にめどが立てば、安倍首相が夏の衆参同日選に踏み切る環境が整うとの見方がある。

 ただ、どの方式になろうとも、新たな定数と区割りで衆院選ができるようになるのは来年以降だ。それを承知での早期解散論は、あまりに憲法を軽くみている。

 選挙制度は議員のためでなく、有権者のためにある。その原点を忘れた制度改革論はありえない。すべての議員に、党利党略を超えた審議を求めたい。