【特別対談】 朝ドラ『まれ』、能登で芽生えた結婚願望――女優・土屋太鳳×NHKチーフプロデューサー・高橋練

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高橋「現時点(7月25日)で、クランクアップまで残り1ヵ月。最終週の撮影に間もなく入るところです」
土屋「あと1ヵ月って思うと、ちょっと信じられないですね…。どうしよう。最近、1日の感じ方が少しずつ変わってきたんです。日々、『ああ、これで終わっていくんだな』という実感があるので」
高橋「ここまで来ると毎週、『このセットは今日で終了』『この人は撮影終了』というのが出てくるからね。今、土屋さんが持っているのも、最終週の台本の準備稿ですね。(余白に細かい字でビッシリ書かれたメモを見て)この書き込みは何?」
土屋「今日の対談で、頭がゴチャゴチャになってちゃんと話せないかもしれないので、自分の思いを纏めてきました」
高橋「取材に向けてここまで準備を…。凄いね」
土屋「第1週からずっと、スタッフさんとお話ししたときに思ったことや、今週の目標を台本のメモ欄に書いてきたんです。後から台本を見ると、『あの時、自分はこんなことを考えていたんだな』と思いますね」

今年3月に放送がスタートしたNHK朝の連続テレビ小説『まれ』。石川県の能登地方と横浜を舞台に、パティシエを目指す主人公・希の成長を描いた本作は、9月26日に最終回を迎える。朝ドラは3度目の出演となるヒロイン・土屋太鳳(20)。一方、高橋練チーフプロデューサーは、『ちりとてちん』『ちゅらさん』等の数々のドラマ制作に関わってきた。

高橋「ここまでやってみて、自分の中で成長したと感じることはありますか?」
土屋「成長という訳ではないですが、ハードなスケジュールの中で、コンディションの整え方とか肌荒れの防ぎ方とか、そういうものが身につきました。朝、白湯を飲んで焼きバナナを食べるとか」
高橋「焼きバナナ?」
土屋「焼くと消化がよくなって体にいいと、アドバイスを受けました。半分に切ったバナナをアルミホイルの中に入れて、フライパンで蒸すんです」
高橋「ハードな日程の中、パティシエの役ということで、お菓子作りの特訓もしなければならなかったから大変だったでしょう」
土屋「スケジュールがギリギリで、どうしても練習する時間がなくて苦労しました。希が4年間修業してきたことを、2時間の練習で演じなければならないということもあった。だから、頭の中でずっと“エア練習”していました。固める前のチョコレートを均等に混ぜるテンパリングという作業があるんですが、混ぜる時に『チャン、カン、カン』と音がする。このリズムを、ずっと頭の中でイメージトレーニングしていました」

高橋「元々、お菓子作りは好きだったの?」
土屋「そうですね。ブラウニーとかクッキーとか、簡単なものは作ったことがあったんですけど、ケーキは難しいイメージがあって、やってみたことがなかったんです。メレンゲを立てたこともなかった。でも今回、ケーキ作りの中でメレンゲの練習をしたおかげで、納豆を混ぜるのが上手くなりました(笑)。手首だけを使うんじゃなくて、肘から動かすんです」
高橋「この半年で、手つきが本当に上達したよね。土屋さんは、全身を使って表現する才能があると思います」
土屋「小さい頃からずっとダンスをやっていましたし、今は日本女子体育大学で舞踊学を専攻しています。そういう経験が生きているのかもしれません。身体の筋肉や腕って全部繋がっているので、『ケーキ作りも、全身の筋肉を使ったほうがいいのかな』と思って」
高橋「製菓指導で、石川県出身のパティシエ・辻口博啓さんからもお墨付きを頂いて」
土屋「辻口さんも、『ダンスと同じで全身運動なんだよ。混ぜる時も膝を使って、体全体を使って混ぜて』って教えて下さいました。それから、全身で表現することの楽しさを改めて感じたことがありました。私、走るスピードを抑えることが凄く苦手なんです。だけど、カメラってちょっと遅く走ったほうが撮り易い」
高橋「よく、『80%くらいで走って』って言うもんね」
土屋「でも、私はグワーッて全速力で走っちゃう。それで、カメラマンさんにいつも『うわ、速え~』って言われるんですけど、それでも監督さんや演出の方、カメラマンさんが『好きなようにやっていいよ』って言って下さっているんです」
高橋「今回はスタッフの間でも、『100%の土屋さんを撮る』というのをテーマにしているので」




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土屋「本当に、スタッフさんの愛情に包まれている現場なんです。セットもその1つ。希が能登で新しいお店をオープンさせるんですが、凄く細かいところまで拘ったお店なんです。最初に撮影する日に、お店をデザインした方と一緒に掃除をしながら話をしたんですけど、『ここはね、こういう思いで作ったんだ』『このお店は、スタッフ全員からのプレゼントだよ』って。感動しました」
高橋「土屋さん自身が、『頑張って、このドラマを支えていこう』っていうのが凄く伝わってくるから、我々スタッフも『皆で盛り上げよう』という雰囲気になるんです。でも実は、今回の朝ドラに土屋さんをキャスティングできるとは思っていなかった。土屋さんは、“花子とアン”(2014年、吉高由里子主演)でヒロインの妹という重要な役を務めていましたから、翌年また直ぐヒロインというのは、普通はあり得ない」
土屋「私も『難しいだろうな』とは思っていましたが、朝ドラのヒロインはやっぱり夢だったので、オーディションを受けたんです」
高橋「それでも、オーディションを進めていくと、残さざるを得ないんです。素晴らしくて。最終試験のカメラテストで、一番最後に土屋さんが現れた時に、『やっぱり、この人だな』って思いました。それは、同席していた脚本の篠﨑絵里子さんも同じだったそうです。それくらい、皆の心を攫っていったんですよ」
土屋「有り難うございます。今回はヒロインを演じるだけではなく、オープニング曲の作詞という貴重な経験もさせていただきました」
高橋「これは、僕らとしても珍しい試みでしたね。オープニング曲には手作り感を出したかった。『能登の人が作って、皆で合唱しているような曲にしたい』と思っていたんです。それで、作詞家選びの会議を開いて真剣に話し合ったんですが、思いつかなくて。有名な方の名前も出たりして、議論が一回りした時、『意外と、土屋さんに書いてもらうのが一番いいんじゃないか』と」
土屋「丁度、最初の能登のロケが終わった頃でしたね。ロケ期間中、1ヵ月くらい能登で生活しましたが、明るい太陽の日差しや土地の香り、穏やかな風、自然豊かな景色…全てに感動したんです。そういう思いをブログに書いていたんですが、高橋さんや皆さんが読んで下さっていたみたいで」
高橋「ブログの言葉が凄く良かったので、『撮影で大変だよな』と思ったけど、『土屋さんなら大丈夫だろう』と見切り発車でお願いしてしまいました(笑)」
土屋「言われた時はびっくりしましたが、凄く嬉しかったです。『太鳳ちゃんの言葉で、能登で過ごした1ヵ月で感じたことを詞に詰めてほしい』と言って下さったことは、とても有り難いことなので」
高橋「その後、2番の歌詞を視聴者の方々から募集しました。採用作は、希がパティシエ修業をしていた横浜から能登に戻ったのに合わせて、放送されました」

土屋「能登に戻った希は一度、パティシェの夢を諦めて、輪島塗職人の夫・圭太(山崎賢人)を支える道を選びます。そこで子供も生まれて」
高橋「その子供が双子。更に、やっぱり夢を捨てられずに自分のお店を開くんです。朝ドラのヒロインはそういう大変な設定を背負っているのですが(笑)、ある意味、仕事と家庭や子育ての両立というのは、一般女性の日常でもあるんですよね」
土屋「如何に子供を育てて、周りの人を支えていくか。そういう普通の女性の感覚を表現したいと思ってきました」
高橋「でも今、土屋さんに演じてもらっているのは30代になった希。実年齢より10歳以上も年上の役を演じるのは、大変だと思います」
土屋「どんどん大人になっていく希をどうやって演じればいいのか、悩みましたね。10代の頃の希は、お菓子のイメージを膨らませる内に踊りだしたり、喜ぶ時も『キャーッ』って感じで、感情を曝け出していた。でも、大人になって今では子供も生まれた。『そういう感情や個性を抑えていくことが、大人になることなのかな?』と思って、自分の母に聞いたこともあったんですけど、母は『それは違うよ』って」
高橋「お母さんにはよく相談するの?」
土屋「辛い時、不安な時に相談します。余裕が無くなっていると、どんどん心の整理がつかなくなっていくので。母は、いつも大事な時に大事な言葉を言ってくれます。『ご飯をよく噛みなさい』とか(笑)。落ち込む時って、どんどん落ちていっちゃうじゃないですか。そういう時に、『それは甘えだから。悩む暇があるから悩めるのよ』って言われたり」
高橋「いいお母さんだね。でも、現場で見ていて、土屋さんのお母さんぶりも素晴らしいです。子役の双子が兎に角、土屋さんと山崎くんに懐いている」
土屋「有り難いです。山崎くんがすごく子供好きで、彼のあやし方を見て『こうやったらいいんだ』と学ぶことが多いですね。後は、山崎くんが“お兄さん”からちょっとずつ“お父さん”に近づいていく。母親としての希を演じるのは、そういう楽しいこと、幸せなことも一杯あります」

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高橋「土屋さんも元々、子供好きだったの?」
土屋「好きですね。でも、今回はちょっと感覚が違いました。自分の子供だと思ったら、どう対応していいかわからなくなったんです。2人ともタイプが全然違うので、どういう風に接すれば母親として見てくれるのか、凄く悩みました。でも、女の子は褒めると良いみたいですね(笑)」
高橋「早くも操縦術を身につけて(笑)。でも、朝ドラのヒロインが大変なのは、毎週毎週、必ず試練が待っているというところです。周りの人に色んなことを言われて、色んな思いを抱えていくというのが、今回の希の役。それを演じるのは、凄く大変だろうなと」
土屋「そうですね。希として、色んな気持ちが湧き上がってきます。希が横浜でパティシエ修業をしていた“横浜編”では、先輩パティシエの陶子さん(柊子)に怒られた時、『ああもう、悔しい! でも頑張ります!』って前向きな気持ちになりました。その12年後、一度はパティシエの道を諦めた希は、やっぱりコンクールに出場することを決心する。その時に、また陶子さんに怒られるんです」
高橋「子供が生まれたりしてお菓子作りから遠のいていたから、『今まで何してたんだ』と」
土屋「その時に沸き起こってきたのが、以前のような気持ちではなくて、『私の何がわかるの?』って悔しさだったんです。『私は子育てもして、能登でお店を開く為に借金まで背負ってやってきて…』っていう悔しい思いがブワーッとこみ上げてきて…。『これまでの希とは違うんだな』って実感しました。それをリハーサルの時に言ったら、本番前に西村武五郎監督が『その気持ちを大切にしてくれ』って」
高橋「まさに、“役を生きる”だね。土屋さんは、最初から一貫して『役を生きたい』と言っていた。希自身が悩んだり、お母さんになったりと、色んな経験を経て成長していくのに合わせて、『土屋さんも凄く成長してくれているな』と現場で日々実感しています。正直、土屋さんがこんなに成長するとは思っていなかった。人間としてもそうだけど、俳優として、愛情に満ちた表情というか、柔らかい表情が凄く良くなったんです。恥ずかしくて、今まで本人には言えませんでしたが(笑)」
土屋「嬉しいです。そこは、自分でも課題だと思っていました。私、どうしても笑顔が子供っぽいというか、愛情を貰っている側の笑顔になってしまうんです。自分が愛情を発する側の笑顔って、難しい。参考にしているのは母親役の常盤貴子さんで、父親役の大泉洋さんと抱き合った時の嬉しそうな笑顔や子供に対する笑顔は、凄く頭に残っています。それから、私は笑うと目が吊り上がっちゃうから、垂れ目になるように笑い方の練習をしています」
高橋「それは練習で何とかなるものなの?」
土屋「練習して、目尻が下がるように念じてます(笑)。共演している田中裕子さんも、笑うと目尻が下がるんですよね」

高橋「そういう見えない努力があったんだね。俳優としてだけではなく、現場の座長としても、とても成長してくれました」
土屋「座長って、凄く難しいです。私は、朝ドラは“おひさま”(2011年、井上真央主演)・“花子とアン”にも出演させて頂いたので、お2人の座長ぶりを目指しています。現場にお菓子の箱を置いてみたり、差し入れして下さる方に感謝を伝える為に、自分で『何とかさんから差し入れ頂きました。有り難うございます』って直筆で書いたり、そういう部分を真似しています。でも、周りに支えてもらうことが多くて」
高橋「勿論、周りが一生懸命支えているのもあるけど、今は土屋さんが立派な座長だよ。始めは、大泉さんがムードメーカーでした。でも、物語の中で色んな事情があって、彼は現在失踪中なんです(笑)。だから、失踪した父に代わって娘が現場を支えてくれている感じです」
土屋「大泉さんや常盤さんは、私が不安な時に『ご飯に行こう』とか『一緒に服を見に行こう』とか、凄く気遣って下さいました。それから、“能登編”と“横浜編”を同時進行で撮影する一番大変な時に、祖母役の草笛光子さんが“まれ”って書いてあるポーチを持ってきて下さったんです。そこにはアミノ酸が入っていて、『体調を整える時は、寝る前にこれを白湯に入れて飲んで』って。後もう1つ、喉飴がゼリー状になっているものも戴きました。『ずっと喋っていると喉が枯れてくるから、これを舐めて頑張りなさい』と。そうやって、健康が一番だということを伝えて下さった。周囲の方々に沢山愛情を頂いた分、『次は自分がしっかりお返ししたい』と思ってやってきました。それでも、どうしたら上手くコミョニケーションが取れるのか悩むこともあるんです。そんな時に、隣のスタジオで大河ドラマの撮影をしていらっしゃる井上真央さんに相談したら、『演技だけで悩めないのが主役なの。それが使命だから、自分からコミュニケーションを取っていくことを大事にして』って言って下さって。『自分が立ち止まっては駄目で、歩み寄っていくことも大事だ』ということに気付きました」

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高橋「中々、こういうことを言える20歳はいない。土屋さんは、どんな女優になりたいの?」
土屋「『人の痛みや繊細な部分を、ちゃんと伝えていけるような女優さんになりたいな』って思います。今回、本当に色んな人に支えて頂いて、その愛情を自分が次に巡らせていく番だと思うので。今のお仕事は難しいし、続けられるのか不安に思うことのほうが多いけど、私にできることは、今はお芝居しかない」
高橋「これから家族を持つことになると思うけど、将来の家族の理想像ってある?」
土屋「若し相手ができて、『結婚して』って言われたら、前向きに挑戦したいと思います」
高橋「挑戦ですか(笑)」
土屋「前向きに挑戦して、子供ができたら沢山の人に育ててもらう。私も、そういう風に育ててもらってきました。私は両親と姉弟の5人家族ですが、祖父母も亡くなっていて、親戚も殆どいない。そんな中で、両親が色んなキャンプに連れて行ってくれたり、アウトドア活動をしたり」
高橋「色んな家族が集まるところに連れて行ってくれたんだ」
土屋「そうなんです。子供に愛情を伝えることって大事だと思うんです。夫婦が子供に愛情を注ぐのは当たり前ですけど、それ以上に、沢山の人に育ててもらうことが凄く大事だなって」
高橋「希の家族みたいだね」
土屋「希の家族は、村の人から愛情を貰っていて、凄く理想的。お母さんが1人で悩んでいたら、旦那さんが助けてくれる。夫婦で悩んでいたら、親戚や地域の人が助けてくれる。そんな子育てができたらいいなと思います」


キャプチャ  2015年10月号掲載


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テーマ : まれ NHK朝ドラ
ジャンル : テレビ・ラジオ

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