2016-04-07
「全能の神がいるなら、なぜ悪や無知、罪を自ら作り出すのだ?」との問いは、やっぱり重要だよね
新井白石と「思想的名勝負」をしたシドッチの遺骨見つかる。白石のその後も含め、思いを馳せる。【記録する者たち】 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160406/p1
を書いた縁で、ネット上にあった新井白石のシドッチ尋問記「西洋紀聞」の現代語訳を読むことができた。
そして、自分にとってはなじみ深い議論に、ここでも巡り合うことができた。
少し、これをまとめて論じたい。
“西洋紀聞現代語訳 Seiyoukibun.pdf” http://htn.to/Q1xkyq
「天戒を破った罪が大きいので自ら贖うことができず、デウスがこれをあはれんで、3 千年後にイエスになって生れて、罪を贖えた」という説なんか、まるで嬰児のたわ言である。
一方で刑罰をつかさどるものが、一方であわれむべき情を発して、罪を許そうと努めている。マサンを食うなという天戒自体、そもそもデウス自身が課したものではないか。自分が課した罪をゆるすのに、なにほどのことがあろうか。さっさと許せばいい。いわんやその罪といったら、マサンという果物を食ったという些細なことだ。
まちがった食事の罪なぞ、何故食った当人が自ら贖うことができず、3 千年後に再びデウスが代って罪をうけるのか、そんな必要はないではないか。
デウスが世界中の人を溺れさせ、教にしたがうものだけに海中の路が開け、またその乗船した船が、大水に漂ひ来りし所の蠣殻の類、現在もあるという説なども納得できない。
デウスはそもそもみづから天地人物を生ずる能力と養う能力があり、大公の父で無上の君というではないか。それならデウス自身が皆を善人につくって、全員をその教えに従わせればいいではないか。それができないで、世界中の人を洪水で絶滅させるとは何事か。デウスといえども、人をして皆このような善人にはできず、皆この教えを信じさせられないというなら、デウスを天地創造の主とは到底言えないではないか。
たまたまひどく愚で、教があることを知らないものがいたところで、そのものに何の罪があり咎めることがあろうか。それなのに、世界の人をことごとく絶滅させておいて、世界を生み世界を養う大父大君と自称するのはおかしいではないか。
さて、このブログでは何度も書いている。
なぜ書いているかというと、かならずこのテーマにぶちあたるからだ。
戦国時代の転向キリシタンによる聖書批判がぶっちゃけ。「なんであまぼし(禁断の実)食べると天国追放なの?わけわかんね」http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140912/p4
「日本人、ザビエルに突っ込む」話に関する参考資料など - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130209/p3
街でキリスト教の布教者が煩かったら、こう議論を吹っかけろ(「日本思想論争史」より)http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080311#p4
その政策に賛否はあろうが、日本史上に輝く大学者であり、対面したシドッチから「500年に1人の人」と言われたともいう新井白石…だけでなく、日本思想史では重要な位置を占める鈴木正三、不干斎ハビアンも、ほぼ同じことを言っているのだから。
ハビアンは言う
「切って継ぎ番匠」ということわざがある。せっかく長さが十分ある材木を、わざわざ切って継ぎ合わせたがる大工のことだ。
また、禅では「好事無きにしかず」と言う。たとえ好事でも、何もないことにはかなわない、ということだ。
「デウスと言う唯一なる神の戒律が、よりによってマサンとかいう甘干(あまぼし。干し柿のこと)のようなものを食べてはならない、などとは。老人をたぶらかし、子どもをあやすような話である。天国か地獄か、という一大事の因縁が甘干しとは、あまりにも役者不足である、古蜂屋入道は『あまぼし談議』と名づけたというがもっともだ。そもそも、なぜデウスは、アダムとエヴァを助けなかったのか。しかも、だましたのは、自分で作ったルシヘルである。あまぼしを食べたから、全人類は地獄いきとは…なぜデウスは、アダムが破戒するのを知らなかったのか。とても全知全能とはいえない。とにかく論理破綻しているなあ」
鈴木正三はいう
「彼は『ルシヘル』を創造しながら、その堕落を予見しえなかったデウスの無能力さについて『知らずんば三世了達の智と云へるは虚談なり。又知りながら作りたらば、慳貪(けんどん)の第一なり」と批判し、さらに人間の祖とされる「阿壇(アダン)」と「慧和(エバ)」」の失楽園の説に関して…(略)…神の戒めは「誠に笑具の第一」で…るしへるの場合と同様に、全能のデウスがアダムとイブの堕罪を予知できぬのもおかしく「知りたらば慈悲ノ上より科に落ちぬ了見を、アダン・エバに教えらるべき義」
「(デウスは)天地の主にして国土万物を作り出し給うならば、何として、其のデウス、今まで無量の国を捨ておきて、出世し給わざるや」(デウスが天地の主で万物の創造主なら、なんで教えを伝えない国をほっておいて、そういう国には現れないままだったの?)
「でうす天地の主ならば、我作り出したる国々を脇仏にとられ、天地開闢より以来、法を弘めさせ、衆生済度させ給うこと、大きなる油断なり」(デウスさん、アンタがこのへん一帯シメてるつーのがフカシじゃないんなら、何でこのへんをザコの仏陀どもに仕切らせてるんスか?マジ、信じられねーんすけど)
以前も書いた話だけれども、自分はこれらそうそうたる知識人と同じ結論に、自分で思想を巡らせて達していた(笑)。
とはいえわたしが彼らのような天才だってことでも何でもなく、「唯一絶対の想像主」という一神教の概念を提示されたら、賢も愚も、最終的にはそういう問いに達するんですよね。
http://kousyou.cc/archives/4462
彼らは悪魔がいること、そして悪魔が悪い者であり、人類の敵であると信じていましたので、もしも神が善であるならば、こんなに悪い者どもを造るはずがないから、私たちが言うようなことはありえないと考えました。私たちは神は善いものを造られたのですが、彼らが勝手に悪くなったので、神は彼らをこらしめ、終わりのない罰を科すのであると答えました。
それに対して彼らは、神がそれほど残酷な罰を科すならば、情深い者ではないと言いました。さらに彼らは、〔私たちが言うように〕神が人類を造ったということが真実であるのならば、それほど悪い悪魔が人間を悪に誘うことを知っていながら、どうして悪魔の存在を許しておくのかと言いました。神が人類を創造したのは、神に奉仕するためですから、〔悪魔の存在を許すのは矛盾であると言うのです〕。
またもしも、神が善であるとすれば、人間をこんなに弱く、また罪に陥りやすく創造しないで、少しも悪がない〔状態に〕創造したに違いないと〔言いました〕。そして神は、これほどひどい地獄を造り、〔私たちのいうところに従えば〕地獄に行く者は、永遠にそこにいなければならないのだから、慈悲の心を持つ者ではなく、したがって万物の起源である〔神を〕善であると認めることはできないと言いました
「日本人、ザビエルに突っ込む」話に関する参考資料など - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130209/p3
・・・ボニファチウスという人物がゲルマン人のラーヂボートという酋長にキリスト教の話をし、大いに酋長は感心し、改宗するときに
「おれは洗礼を受けると天国と言う非常に結構なところに行けるらしい。けれども、おれの親はどうなるのだろう。」
と質問すると、
「洗礼によって洗わなければ天国には行けません。地獄に行っているでしょう。」と答えると。酋長は怒り、
「おれが洗礼を受ければ結構な天国に行けるとお前が言うけれども、親が行けないんじゃ、俺はそんなところに行かなくてもいい。おれはおまえが言う地獄であろうとなんであろうと、先祖代々の親のところへ行ければいいんだ。」
といってボニファチウスを追放したと言います。
そして…ほぼひと月前だが、「はてな匿名ダイアリー」でもこの問題が問われ、はてブもたくさんつく話題の記事となった。
http://anond.hatelabo.jp/20160304162255
神が人間を作ったなら、犯罪者が悪いんじゃなくて、犯罪者を作った神が悪いんじゃないの?
なんで人のせいにしてんの?
このはてブはやや残念でした。
http://b.hatena.ne.jp/entry/anond.hatelabo.jp/20160304162255
たしかに一神教神学で、最初に行き着く「ベーシック・1」の議論だけれど、新井白石までが語る、「1にして全」の問いなのです。
もちろん、ブクマ者の一部のいうように、これに対しては一神教側も答えを用意している。高度な神学者ではないが、クリスチャン作家として著名な三浦綾子氏の答えは分かりやすいだろう。
「神様が全知全能なら、なぜ人間に悪をさせるの?」という問いにキリスト教はこう答えている(三浦綾子)http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20101224/p7
それにしても、なぜ神は、人間を神にそむかぬ者につくらなかったのか。わたしたちは幾度でもこう思う。だが轟勇一著「真100の質問」には、適切な比喩で次のように書かれている。
『ある有力者が、ある女性を力ずくで引きとどめ、「お前を愛しているのだ。わたしのもとにいたら何でも好きなようにさせる。だが離れることは決して許さない」といったらどうか。それは自分の力を頼み、見勝手な自己愛を貫く態度にすぎない。強制や無理強いに愛はない。真の愛は相手の自由と自発性を尊重した人格的な交わりであると、その著者は書いている』
だが、これは…いわゆるwikipedia:全能の逆説 にひっかかる、と。
一神教ヘイトで知られる田中芳樹氏も、「全能の神はいうことをきかない女をつくれるか」と登場人物に問わせた。
ザ・シンプソンズのある回で、Homer が en:Ned Flanders にこう質問している。「イエスはブリートを自分で食べられない程熱くチンすることができるだろうか。」 この表現は前述のものと異なり物理学方面からの苦情がこないことに注目して欲しい。ブリートの定義には慣性や相対性などといった近代的な概念は関係してこないからである。
ネット上の話題「チャック・ノリス・ファクト」の中に「チャック・ノリスは自分でも持ち上げられない程重い石をつくることができる。そしてそれを持ち上げてしまうのだ。クソったれである証明に。」とある。
スティーヴン・ホーキングは「時間史概説」 en:A Brief History of Time において、自然法則に関連した創造主の役割を論じたより一般的な議論の中で、全能の逆説を紹介している。後の著作『ブラックホールとベビーユニバース』 Black Holes and Baby Universes の中で冗談めかして、これらの宗教的憶測をもりこんだ御陰で — 最後の行の「その時我らは神の御意を知るであろう。」 "for then we would know the mind of God" を含んで — 恐らく問題の本の売れ行きが二倍くらいになったと語っている。
SFテレビドラマ「新スタートレック」に、Qという名前で知られる全能者が登場する。Qに関係した幾つかの回の中で、主にユーモラスな筆致で逆説的結果が追求される。
SFテレビドラマ「バビロン5」で、二人の登場人物がこの逆説について語っている:(台詞の引用につき訳出せず)
en:George Carlin はナイトクラブに出演する際よく「重い石」の疑問に言及する。近所の悪ガキどもが教会で質問するらしい。[1]
en:Something Awful もこの疑問を投げかけた。「神様は、値段が高すぎて自分にも買えないゲーム機を創れるの?」 編集者の答えはこうだった。「お創りになれる。そのゲーム機というのはXbox 360だよ。」
田中芳樹は「銀河英雄伝説」の中で登場人物の一人に「全能の神は自分の言うことを聞かない女を作れるか」という表現でこの逆説に言及させている。
キリスト教は、こんな論議があるのは知ってるけど、イスラム教ではこの議論はどうなんだろう?
かなり似通った神学や世界観を共有しているキリスト教とイスラム教だけど、信者の「善行」の扱いや、決定論ではいろいろと違いを聞く。
この問題が議論されたことがないはずはないので、ちょっと質問してみるか…
お金をつかって、質問した。
gryphon
http://q.hatena.ne.jp/1459999560
イスラム教の神学では「全能の神は、なぜ悪や無知、罪を自ら作るの?」「神の教えを『知らなかった』時代や地域の人が地獄に行くのは可哀想では」などの問いに、どう答えていますか?
同じテーマでの神学論争がキリスト教に対して行われ、例えば戦国時代や江戸時代にも日本の知識人が宣教師らに問い、あちらも神学に沿って答えている記録が多々残っています。
同じ一神教、創造主の存在を信じ「アダムとイブは悪魔に誘惑され楽園を追放された」という神話も共通するイスラムでも、この質問への答えを用意していないはずはないと思うのですが、どう考えているのでしょうか?
自身の考えというより、歴史的にある宗派ではこう考えてきた、という資料や事実を教えて頂ければ幸いです。
このブログ記事 http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160407/p2と 連動しています。
ああ、最後にこのエピソードを追加
外人MMAファイター”あるある”、『神に感謝します』とは何か■MMA Unleashed http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar996095
かつてチェール・ソネンは次のように語っていた。
「神について語りたがる選手がいる。“神に感謝します”などと言う。いいか、オレも信心深い男で、子どもの頃からずっと、毎週日曜日には教会に行っているが、もし神が、土曜の夜に行われる、合法すれすれの拳闘大会のことをそんなに気にしているのなら、オレはがっかりして信仰心全体を考え直さないといけなくなる」。
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