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「難民」送還 試される欧州人道主義

 欧州連合(EU)が、トルコからギリシャに不法入国した難民や移民のトルコへの強制送還を始めた。寛容な受け入れ政策を取ってきた欧州にとって大きな転換点となる。

     欧州には昨年、内戦下のシリアなどから100万人を超える難民や移民が流入した。特にトルコからわずか20キロ沖のギリシャ・レスボス島へ渡る海路は重要なルートだった。

     欧州が難民対策を迫られたのは、密航船の相次ぐ遭難で多くの難民の命が失われたからだ。しかし、受け入れに伴う社会負担増や治安悪化への不安をあおる反移民勢力が各地で勢いづき、パリやブリュッセルのテロも市民の不安を募らせた。こうした現実を踏まえれば、EUがトルコとの合意に基づく「緊急措置」に踏み切ったことは理解できる。

     とはいえ、個別の事情を考慮せず一律に強制送還するのは人道面から問題が多いとして、国際機関や人権団体からの批判も強い。

     密航者をすべて送還するという当初の取り決めは国際法違反の疑いを指摘され、「ギリシャで難民申請すれば個別審査する」と改められた。第1陣でトルコに送り返されたパキスタン国籍などの約200人は、難民申請をしなかったことから「違法な移民」と認定されたという。

     通訳や担当官が大幅に不足する中できちんと審査手続きが行われるのかという指摘もある。早急に体制を整えて懸念を解消してほしい。

     シリア難民については、トルコに送還したのと同じ人数をトルコの難民キャンプからEUが受け入れる。EU側はまず約40人をドイツとフィンランドで引き受けることを決めたが、分担の仕組み作りの協議をさらに重ねる必要がある。

     EUが難民や移民をトルコに押しとどめる結果になったことの問題もある。EUは見返りにトルコへの資金援助の拡大、ビザ免除の前倒し実施、EU加盟交渉の加速化を約束した。だが、強権的な統治を進めるトルコのエルドアン政権が難民に配慮ある対応ができるのかという疑念やテロが頻発するトルコで難民の安全が守られるのかという不安もある。トルコでも難民の受け入れに反対するデモが起きている。

     ギリシャ経由の「バルカンルート」が閉鎖されるために、いったん沈静化していた「地中海ルート」の難民が増える可能性もある。北アフリカから地中海を通ってイタリアなどへ密航する、より危険な方法だ。

     戦乱や貧困に苦しむ中東・アフリカから豊かな欧州を目指す人の流れをコントロールするのは簡単ではない。難民危機をどう解決に導くか。戦後欧州が理念に掲げてきた人道主義が試されている。

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