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【言わねばならないこと】

(70)改憲、今の課題なのか 作家・中沢けいさん

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 ヘイトスピーチに反対する活動をしていると、現政権の特異性に気付く。安倍晋三首相も「ヘイトスピーチは極めて残念」と発言するが、ヘイトスピーチを繰り返す排外主義者、歴史修正主義者たちは現政権を支持している。慰安婦に関する旧日本軍の関与を認めた河野談話を見直そうという安倍首相の考えは、彼らの主張とそっくりで驚く。

 安倍首相には「今、ここ」という視点が欠落している。日本の歴史の中でもまれに見る繁栄を基礎から支えた憲法を「みっともない憲法」と断じた。戦後がどういう社会だったかという認識がすっぽりと抜けている。平和があって、分厚い中間層が生まれ、安倍さんのような支配層も支えた。自分が生きてきた時代は、そんなにひどい時代だったのだろうか。

 今、政治家に急いで取り組んでほしい政策は、原発の事故処理を含むエネルギー政策、少子高齢化社会への対応、財政再建だ。これらはつながっていて、産業の構造転換が必要になってくる。ところが、安倍政権は特定秘密保護法を成立させ、憲法解釈を変えて集団的自衛権を使えるようにし、今度は「憲法を変える」と言っている。焦眉の急という課題ではない。

 解釈改憲なんていうずさんなやり方で日本の土台を揺るがすようなことをされたら、私たちは黙っていられない。そうやって怒っているうちに、私たちが本当に取り組んでほしい政策から目をそらされているような気がする。

 日本は急速に年老いていく国。介護人材をどう確保するか、国の膨大な借金をどうするのか。重い課題だ。遠い国に若者を出して、他国の戦争に協力なんてできるのか。今、ここにある現実を見てほしい。今、ここにある課題の解決を優先してほしい。

 なかざわ・けい 1959年生まれ。作家、法政大教授。ヘイトスピーチに反対する発信を精力的に行う。近著は対談集「アンチヘイト・ダイアローグ」。

 

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