世界的に著名な人物――国家元首から一流スポーツ選手、エンターテイナーまで――が何十億ドルもの資金をオフショア(注:自国外を指す。ここでは租税回避地の意)へ移すのにパナマのある法律事務所が手を貸した際、この事務所は欧州の各銀行と密接に協力した。
問題の法律事務所モサック・フォンセカから流出した膨大な文書によれば、HSBC、クーツ、ロスチャイルド、UBS、クレディ・スイスなどは、モサック・フォンセカが顧客のために何千社ものペーパーカンパニーを立ち上げるのを手伝った。
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が内容を報じたこれらの文書(「パナマ文書」)は、銀行の活動範囲の詳細を明らかにするだけでなく、脱税を取り締まる欧米規制当局の取り組みに銀行が対処した方法も浮き彫りにしている。
暴露を受け、英国の政治家はすでに、もしそれが裕福な顧客の脱税を可能にする場合には、不透明な地域のオフショア企業を売る銀行に責任を負わせるべきだと要求している。
「もしこの種のことが脱税しやすくしているのであれば、絶対に取り締まらなければならない」。英保守党のマーク・ガーニエ議員はこう述べた。
■ペーパーカンパニー1814社の設立に関与
フォーリー&ラードナーに所属するワシントンの訴訟専門弁護士、クリストファー・スウィフト氏は、モサック・フォンセカと取引した何百社もの企業は、規制当局からの問い合わせに備える必要があると警告する。
「これは規模にしてもタイプにしても、野心的な米国検察官のキャリアを上げる事案だ」。スウィフト氏はこう言い、後になってマネーロンダリング(資金洗浄)や脱税、制裁逃れに関与したことが発覚した顧客について所要の「デューディリジェンス(査定)」を実施しなかった銀行は、訴追のリスクに直面していると指摘する。
これらの銀行は2005年に、パナマのモサック・フォンセカや遠く離れた支社とともに1814社のペーパーカンパニー設立に手を貸した。2年前の543社から大幅に増えた格好だ。銀行によって設立される企業の数は、その後数年にわたって高止まりした。
これは恐らく部分的には、欧州諸国に住む顧客の口座に源泉課税することを銀行に義務付けた05年の欧州貯蓄課税指令への対応だった。規則は企業を対象としなかったため、銀行は税申告の目的で資産を個人からオフショア企業に移管した。
まもなく、脱税者に対する監視網が強化され始めた。米国の元バンカー、ブラッドリー・バーケンフェルド氏は07年に、UBSでの脱税疑惑を米国当局に告発した。UBSは、米国人顧客による脱税をめぐって、11年に米司法省の犯罪捜査の対象になった銀行十数行の一つに数えられる。
ICIJによると、UBSその他の銀行への捜査で09年以降、銀行によるオフショア企業の利用は鈍ったが、なくなることはなかった。例えば、一部の銀行は企業をオフショアの仲介業者に売り払った。だが、銀行はそれでもオフショア企業を経由して顧客に銀行サービスを提供し続けた。