印南敦史 - コミュニケーション,スタディ,仕事術,書評,語学 06:30 AM
中学英語だけで交渉可能?孫正義の「伝わる」ビジネス英語
『なぜあの人は中学英語で世界のトップを説得できるのか』(三木雄信著、祥伝社)というタイトルにある「あの人」とは、ソフトバンク社長・孫正義氏のこと。著者はかつてソフトバンク社長室長として孫社長の側近にいた人物で、海外出張にも同行し、英語でスピーチする姿も何度となく見てきたというのです。
孫社長の英語が聞き取りやすかったのは、発音が日本人なまりのわかりやすいもの、つまり流暢ではなかったからです。(中略)さらに、英文をよく見てみると、きわめてシンプルなものばかり。複雑な関係代名詞や高度な仮定法はほとんど出てきませんし、そもそも、使っている英単語がやさしいものだけなのです。(「Preface」より)
なのになぜ、世界のトップと交渉できるのでしょうか? 本書では、そんなストレートな疑問に答えているわけです。第2章「孫正義に学ぶビジネス英語を最速で身につける『10の技術』のなかから、いくつかのポイントを抜き出してみましょう。
発音を捨て、アクセントとリズムを追求する
孫正義氏の英語は、完全なジャパニーズ・イングリッシュ。明らかに、大人になってから英語を学んだ人間の発音だとわかるのだそうです。しかし、世界のトップを説得するにはそれでまったく問題ないのと著者はいい切ります。
日本人は多くの場合、完璧な発音で話そうとするあまり黙り込みがちになってしまうもの。ところが大事なのはむしろ、「下手でも声を出すこと」だというのです。そこで著者がおすすめしているのが、ネイティブ並みのきれいな発音をあきらめること。そしてそのかわりに重視したいのが、アクセントとリズムなのだそうです。
たとえば「Program」という単語は、日本語では「プ・ロ・グ・ラ・ム」という5拍になります。しかし英語での発音は、「Pro・gram」という2拍。アクセントも日本語では「プ・ロ・グ・ラ・ム」と平坦な発音になり、あえていえば「ム」にアクセントがあるくらい。でも英語だと「Pro・gram」の前半の「o」にアクセントがきており、そこが大きな違いだということ。そしてこのアクセントとリズムには、密接な関係があるというのです。
2拍で発音しようとすると、自然と前半の「o」にアクセントがきます。でも口に出してみると、2拍で後半にアクセントを持っていくことは不可能に近いことがわかります。それは、呼吸がついていかないから。英語にはこのように、独特のアクセントとリズムがあるわけです。そして著者は、孫正義氏の英語が通じる理由もそこにあるというのです。つまり発音がよくなくても、アクセントとリズムが合っていれば、英語らしく聞こえるということ。(22ページより)
必要な単語だけ確認する
英語学習といえば、英単語をおぼえることは必要不可欠。当然のようにそう考えがちです。しかし著者は、忙しいビジネスパーソンが英単語を無理に増やす必要はないと考えているのだそうです。どうしても必要な単語は、必要なときに使えればよいと割り切り、確認だけすればいいのだとか。そしてこのことのついては、興味深い話が明らかにされています。
孫正義氏の英語のプレゼンを著者が分析したところ、氏が使う英単語は1480単語程度しかなかったというのです。ちなみにこれは、中学生レベルの単語数。つまりこれだけでも十分に、ネイティブ・スピーカーを説得することができるということ。
たとえば「アメリカの通信業界が大手2社に独占されている」という主張をするときには、「duopoly」(複占)という単語が使われていたそうです。これはそのプレゼンで何度も使われているキーワードですが、孫正義氏のボキャブラリーには入っていないのだとか。キーワードとして、このときに追加した単語にすぎないというのです。
しかも孫氏には、「duopoly」という単語をおぼえたという認識はないに等しいと著者はいいます。なぜなら、1社独占を意味する「monopoly」という単語は、おそらく知っていたから。いうまでもなくこれは、土地を買い占めるゲーム「モノポリー」のこと。つまり「monopoly」の「mono」が「ひとつ」を意味するということと、「duo」が「2つ」を意味することさえ知っていれば、「複占」を意味する「duopoly」は簡単にボキャブラリーに追加できるわけです。
ここからも推測できるとおり、孫正義氏は基本的な1480語に加え、カギとなる単語をそのつど追加して英語のプレゼンをしているわけです。プレゼンのなかに伝えたいメッセージがまずあり、そこから単語を追加しているということ。やみくもに単語をおぼえているわけではないのです。
著者が、忙しいビジネスパーソンが単語学習のために時間を割くのは合理的ではないと主張するのは、つまりこのような理油があるから。それよりも、持てる単語力を駆使し、「簡単なセンテンスでいかに伝えるか」の技術を磨くべきだといいます。そして必要なキーワードだけを必要なときに追加し、使えるようにすればいいということ。(26ページより)
大事なことは繰り返す
孫正義氏は、日本語であっても、重要なメッセージは何度も繰り返すそうです。まして英語であれば当然のことながら、ニュアンスを正確に伝えようとさまざまないい方で繰り返すのだとか。
たとえばいい例が、アメリカの通信事業者の業界団体の集まりである「CCA」のイベントでの以下のスピーチ。ここでのキーとなるメッセージは、「ソフトバンクが先進的な技術をアメリカの通信事業者に提供する」ということで、氏はそれをさまざまないい方で繰り返しているというのです。
We bring a new technology to the United States of America.
訳:我々は、新しいテクノロジーをアメリカ合衆国に持ち込みます。
(31ページより)
We would like to say we would offer a new weapon, a new technology.
訳:我々は、新しい武器、新しいテクノロジーを提供すると申し上げます。
(31ページより)
We need technology, we need a weapon,(中略)that is what I would like to offer to you.
訳:我々は、技術が必要です。新しい武器が必要です。それこそが私が提供したいものなのです。
(32ページより)
We would offer you handsets and tablet devices.
訳:我々は、みなさんに端末とタブレット機器を提供します。
(32ページより)
We would like to offer you full support for getting access to those handsets and tablet devices.
訳:我々は、それらの端末と機器にアクセスするためのフルサポートを提供したいと思います。
(32ページより)
このようにほぼ同じ内容のメッセージが、わずか数分のうちに何度も連続して出てくるというのです。特にキーワードである「offer」「technology」、そして「technology」をより具体化した「handsets and tablet devices」が強調されていることがわかります。
しかも文法的には「We would」「We would like to」が使われているだけで、非常に簡単な表現。しかし簡単であったとしても、そのあとの動詞を入れ替えることによって、さまざまないい方を繰り返すことが可能になるため、より強烈にメッセージを伝えることができるわけです。(31ページより)
仕事への情熱が英語を上達させる
いうまでもなく孫正義氏の話す英語は、情報通信ビジネスやファイナンス関連に特化したもの。日本語でも英語でも、話すことのほとんどがこのふたつで、1日中ビジネスのことを考えているのだそうです。つまりそのようにビジネスに特化している結果、特別に英語の勉強をすることもなく、英語で話ができているということ。
情報通信ビジネスやファイナンス関連の英単語は、日本でも外来語として使われていることが多いもの。そこで、もともと知っている基本的な単語と表現さえきちんと押さえていれば、新しい単語も無理なく自分のものとして取り込むことができるわけです。
たとえば情報通信産業では、機器の設定を「コンフィギュレーション」というのだとか(長いので「コンフィグ」と省略されることも)。これは「configuration」という英単語で、「配置」「構成」という意味。こうした単語は情報通信の分野においては、外来語として一般的に使われているというのです。これは、「仕事を極めると、英語で話せる」というひとつの事例であると著者はいいます。(44ページより)
これらの一部分を確認しただけでも、孫正義氏ならではの有効な英語活用法が容易に理解できるはず。そしてその多くは、すべてのビジネスパーソンに応用できるものでもあります。
(印南敦史)
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