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マル激で、渡辺靖教授をお招きし、アメリカ大統領選挙を議論しました。宮台発言抜粋。

投稿者:miyadai
投稿日時:2016-04-06 - 15:19:44
カテゴリー:お仕事で書いた文章 - トラックバック(0)
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アメリカのトランプ現象にみる似非保守化と、日本の第2次安倍内閣に見る似非保守化と、どこが似ていて、どこが違うのか、という主題です。
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宮台◇ トランプ候補の帰趨がどうなろうが、彼のブームに象徴される方向が今後増しこそすれ緩和する可能性は乏しいでしょう。排外主義的ポピュリズムの流れです。ただし問題はアメリカに限りません。例えばスウェーデン。同国はEU加盟国で最も難民受け容れ割合が多いけれど、多くがダーティワークや3Kワークを担います。社会的差別の実態が可視化し、福祉大国が“他人のふんどし”で成り立つ白人国家である事実が明白になりました。結果、社民主義リベラルの正統性が疑わしくなり、抽象的に言えばリベラルという枠組が特殊な条件に支えられてきた事実が誰の目にも明らかになったとも言える。J・ロールズに従えばリベラルとは「君が僕でも耐えられるか?」という入替可能性の想定ですが、入替可能性を想定する枠がいつも先取りされ、そこに難民は入れないのです。ことほどさように、アメリカで起こっている現象を一過性ないしアメリカ特殊のものと考えことはできません。各国民は、インターネット的な底抜けの欲望表出に駆られ、トランプのような候補者にますます走るでしょう。


宮台◇ しかしながら、今申し上げた通り、排外主義とリベラルは基本的に両立します。というより、コインの表と裏なのです。リベラルとは、限られた範囲での平等主義であるため、何かを排除しなければ成り立たない構造があるからです。


宮台◇ 以前この番組でも、アメリカ大統領選挙では、新しい物語を持ち込める候補が勝つという事実を話し合いました。昨今では新しい物語が、エスタブリッシュメント(既存体制)やワシントンという言葉に象徴される利権・談合・妥協の匂いと、両立しなくなったのでしょう。そう考えると、トランプはイデオロギーというより、反ワシントンという気分を担う存在だということになります。民主党がクリントンを最終候補として選んだら、本選の帰趨としてトランプ側に風が吹く可能性もないとは言い切れません。


宮台◇ つまり、共和党はもともと理念があったのです。しかし、神保さんがおっしゃったように、反ワシントン・反エスタブリッシュメントという志向は、理念ではなく、気分への感染なのです。単なる感染だと言いたいのではなく、むしろ単なる理念ではないと言いたいのです。理念ではないからこそ安心できないということです。


宮台◇ それにしても、渡辺さんがおっしゃるインサイダー対アウトサイダーという構図は、良し悪しは別にして画期的です。両方ともある種のワイルドカードで「何でもあり」だからです。そんな不安定な対立軸で、今後のアメリカ大統領選挙が戦われていくということなのであれば、我々の眼前には想像を絶する事態が展開しつつあることになります。


宮台◇ M・サンデルによれば、共和党の理念はアレクシ・ド・トルヴィルのタウンシップで、その内容は渡辺先生が先に紹介された通りです。このタウンシップの内実を支える共同性が、産業化と都市化で寸断されると、タウンシップでは調達不可能になった包摂を実現すべく、国家が介入的に再配分に臨むようになる。それがリベラリズム──民主党的なもの──です。これはタウンシップの本義に反するのでやがて反発が生じます。でも自己統治にかつての面影がなくなってので、共和党は、単なる市場原理主義と、銃や国民皆保険などシンボルを巡るイデオロギーによるガス抜きの、2本立てに堕します。
 他方、民主党も、グローバル化つまり資本移動自由化を背景として、従来疑われなかったはずの政策が正統性を脅かされます。例えば、伝統的な再配分についても、「貧しいと言っても貧困国よりずっとマシなのに、なぜ一国内であんなヤツらに再配分するんだ」となります。ネーションつまり国民共同体を自明視する感受性が消え、かつての再配分政策はもう実現できなくなったのです。
 グローバル化による経済構造の変化が、一方で、共和党的なものを支えていた共同体自治を有名無実化させ、市場原理主義とガス抜き的シンボル政治へと頽落させます。他方で、民主党的なものを支えていた国民共同体の自明性を台無しにさせ、正統性が疑わしいラディカルな再配分がやはりガス抜きのシンボル政治として主張されます。こうして、かつてあった共和党・対・民主党の対立軸が、回復不可能なくらいガタガタになった、という経緯です。


宮台◇ [日米や各国に]共通するのは、単なる<経済保守>や<政治保守>に何ができるのかです。途上国の貧困率を下げるグローバル化=資本移動自由化は不可避・不可欠です。でも、グローバル化を市場原理主義的に擁護するだけでは、中間層分解によってソーシャル・キャピタルが失われます。しかし保守のルーツはソーシャル・キャピタル保全の<社会保守>だった筈です。
 E・バークに沿えば、<社会保守>の失敗ゆえに、市場原理主義的な<経済保守>や、イデオロギ闘争的な<政治保守>や、宗教原理主義的な<宗教保守>が跋扈します。しかし安倍政権は<経済保守>として失敗すれば、政権を失って<政治保守>として自己貫徹できなくなります。とはいえ、フォーディズムやポストフォーディズムの如き労使協調路線がグローバル化で頓挫している以上、<経済保守>としての持続的成功もあり得ません。埋め合わせに<政治保守>のアクセルを踏みたいところだけど、不確定性の増大で財界が離れるのでできません。
 ことほどさように安倍には大したことはできない道理です。畢竟<社会保守>への回帰しかない筈ですが、ソーシャル・キャピタルの枯渇で<感情の劣化>が進んだ結果、<社会保守>は、沖縄のような場所を例外とすれば、保守すべき社会的なもののイメージすら描けません。安倍がどうこうというより、社会が詰んでいます。


宮台◇ [アメリカと日本の似非保守化が似ている]とはいえ、安倍自民党は前回衆院選で絶対得票率25%以下。今も4割前後の内閣支持率ですが、積極的支持層が非常に薄く、世論調査では毎度「他に適当な人がいないから(支持する)」。その意味ではトランプを支えるような感染的熱情は皆無で、かなり違うように思います。トランプ支持者も25%に過ぎませんが、渡辺さんがおっしゃる「インサイダーへの嫌悪感」は、実際に感染をもたらしている重要な気分です。日本は、民主党政権の失敗で「野党が政権を取ることへの嫌悪」の気分があります。だから民進党の岡田代表のように「政権を取る」などとホザくのはKYです。「立憲政治を蔑ろにする自民党の暴走を止めるには…」と土俵を設定すべきです。日本ではまだ機能する筈です。