核軍縮の動きが停滞している今、核保有国の米英仏を含めた主要7カ国(G7)の外交トップが核被害の原点である広島を訪れる意義は大きい。核兵器廃絶に向けた機運を、いま一度高める契機にしていきたい。

 広島での会合に合わせ、G7の外相が11日、平和記念公園をそろって訪ね、原爆死没者の名簿が納められている慰霊碑に献花することが決まった。

 平和記念資料館(原爆資料館)も見学する予定だ。できれば被爆者と対話し、被爆の実相をより深く心に刻んでほしい。

 参加者のうちケリー米国務長官は、オバマ政権の筆頭閣僚だ。原爆を投下した米国の現職政治家としては、08年に広島を訪れたペロシ下院議長(当時)に次ぐ過去最高クラスになる。

 原爆によって広島、長崎で20万を超す人々の命が奪われた。だが米国では「日本の降伏を早め、結果的に多くの人命を救った」として、原爆投下は正当だったと考える世論が根強い。

 日米の歴史認識に隔たりがあるなか、日本側が要望したケリー氏の被爆地訪問にオバマ政権が応じたのは重い政治判断だ。来年1月の任期切れを控え、オバマ大統領が09年のプラハでの演説で掲げた「核兵器のない世界」実現に向け、なお意欲的であると受けとめたい。

 オバマ政権は10年以降ほぼ毎年、広島、長崎の平和式典に駐日大使を参列させ、昨年は国務次官を派遣した。日本国内では、5月のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)で訪日するオバマ氏自身が、被爆地に足を延ばすのではとの期待が高まる。

 米国は秋の大統領選に向けた民主、共和両党の候補者選びが山場を迎えている。共和党の指名争いで首位を走るトランプ氏は、オバマ氏の外交姿勢を批判のやり玉に挙げてきた。

 選挙への影響を考え、ケリー氏が日本への「謝罪」ととられるような言動を控える可能性は高い。だが、慰霊碑の前に立とうとする決意は率直に評価したい。オバマ氏も訪問をぜひ前向きに検討してほしい。

 70年を経た今も、広島、長崎には原爆で家族を奪われ、後遺症に苦しむ人が多い。被爆地がそれでもケリー氏らの訪問に期待するのはなぜか。それは「苦しみをもう誰にも味わわせたくない」という強い思いだ。

 核保有国の人々には考えてもらいたい。どうすれば被爆地が願う「核兵器のない世界」は近づくか。G7外相の広島訪問を、単なる儀礼に終わらせず、現実の国際政治を動かす一歩にしてほしい。