住生活・情報カンパニー
岡本秀彰
住生活・情報カンパニー
建設・物流部門
建設第二部
建設第三課長
杉山森悟
住生活・情報カンパニー
建設・物流部門
建設第二部
建設第三課
投資額280億円。床面積は東京ドームの4倍。2014年春、世界最大規模の物流施設「Amazon 小田原フルフィルメントセンター(FC)」が完成した。この事業の立役者である岡本は、確信を得て新たなプロジェクトを発足。巨大企業の専用センターだけでなく、複数の企業が利用可能な“マルチテナント型物流施設”市場に参入することを決意したのだ。投資額は、前回のプロジェクトをはるかにしのぐ1,000億円。2015年春には千葉県で第一号を、2016年夏には大阪府で第二号をスタートさせる。伊藤忠は物流の新時代を築けるか。新たな商売を生みだした二人の商人に迫る。
始まりはAmazonとの協働。
物流施設の可能性を感じた。
Amazon 小田原フルフィルメントセンターの竣工は、伊藤忠の関係者全員を沸かせる。しかし、その片隅で冷静に“次の一手”を見つめる男がいた。「Amazon様との取引が上手くいったことで、物流センターに対する大きな可能性を感じていたんです。まだまだ商社にできることがあるのではないかという想いが芽生えました」と語るのはプロジェクトの統轄を務める岡本秀彰。「E コマースの革新によって物流へのニーズは大きく様変わりしました。ワンクリックするだけで、その日のうちに商品が届く。そんな市場で戦っていくには、従来のように1週間も2週間も輸送に時間を費やすわけにはいかない。物流企業の多くが、大きな課題に直面しているのは明らかでした」。大手ならまだしも、専用センターを単独で開発できる会社はごくわずかだ。日本の物流が革新を迫られるなか、複数の企業が共同利用できる“マルチテナント型物流施設”を手掛ける意義は大きい。岡本はすぐにプロジェクトチームを立ち上げ、各社へのニーズ調査を開始する。主要メンバーに抜擢されたのは、当時入社2年目だった杉山森悟。「岡本さんに声を掛けられたとき、これはタフな仕事になるなと思いました。伊藤忠にとってマルチテナント型物流施設は初の試み。一筋縄ではいかないと覚悟を決めていました」。日本の物流新時代を築く。二人の旅路が始まった瞬間だった。
投資を決断させたのは、
500社におよぶ現場の声。
これまで伊藤忠は“一社専用物流施設”市場で実績を積んできたが、ターゲットは少数の企業に絞られていた。そうした中、新たな物流企業にコンタクトを取りたくても、チームとしての取引はゼロの状態だった。「私が最初に目をつけたのは、商社の強みとも言える事業規模の広さでした。繊維カンパニーや食料カンパニーなどは物流企業との取引も多いため、各担当者にお客様を紹介してもらえるように協力を仰いだんです」と当時を振り返る杉山。しかし、それでも調査に必要な数には遠く及ばない。自分で検索しては電話をかけ、足を運び、物流施設に対する課題、ニーズを拾い集めていった。その数、なんと500社以上。次第に「配送スピード強化の必要性は分かっているが、今の倉庫では作業スペースが狭く、仕分けや出荷を担当するスタッフを増やすことができない」といったニーズが浮き彫りになっていく。杉山は“生の声”をもとに調査資料を作成。岡本はチームの魂を引き継ぎ、社内承認のためのプレゼンに臨んだ。投資総額は1,000億円。当然、この時点ではテナントが埋まるかどうかも未知数。伊藤忠にとっても大きな賭けだったが、最終的な返事は「GO」。決め手はデータではなく、自分たちの足で稼いだ“生の声”だったと岡本は言う。時代の要請が、二人を突き動かし、会社を動かしたのだ。「これだけの声があれば絶対にうまくいく。ただ、その一点だけを貫き通しました」。
建設価格の高騰が、二人の道を阻む。
最先端かつリーズナブル。二人が目指した理想の施設が、ようやくスタートを切ろうとしていた。しかし、開発を請け負うゼネコンからの連絡に、岡本と杉山は凍りつくことになる。「オリンピック需要が高まっていることもあり、予算が数十億円規模で跳ね上がってしまったんです」と語る杉山に、岡本が続く。「正直、プロジェクトの頓挫も覚悟しました。土地はすでに購入していましたし、“塩漬け”になる可能性があった」。しかし、これで諦めるような商人たちではない。杉山は知恵を絞り、ゼネコンとの議論を何度も重ねた。岡本も「ビジネスパートナーとの間に交渉決裂なんて存在しない。あっちもプロの商売人。膝と膝を突き合わせて、道を切り拓け」と檄を飛ばした。交渉の焦点となったのは“機能性の維持”。杉山の熱意はやがてゼネコンにも伝播し、先方からも具体的な解決策が提案されるようになる。この間、6ヵ月。ようやく光明が見え始める。「地盤を改良してから建設する」「強度を維持しながら柱を減らす」などの工夫が功を奏し、数十億規模のコストダウンに成功したのだ。「ゼネコンの担当者様とは『絶対いいものをつくりましょう』と話していますし、パートナーとの信頼関係がなければ危機を脱することはできなかったと思います」。暗礁に乗り上げたはずのプロジェクトが、もう一度大海原へ出航しようとしていた。
日本の物流を、世界の物流へ。
“次の一手”はもう始まっている。
2016 年の夏には、岡本と杉山が仕掛けた「大阪府堺市のマルチテナント型物流施設」が竣工する。作業スペースは通常の約 2 倍。パートナーとの信頼関係も追い風となり、市場の中でも競争力のある施設も実現することができた。しかしそれでも、二人の商人が安堵の表情を見せることはない。「お客様からは『これまで検討した中ではダントツで安い。ぜひ前向きに考えたい』といった嬉しい評価もいただいているのですが、実際に入居してもらえるかどうかはまだまだ分かりません。営業という観点で言えば“着工からの 1 年が勝負”と言われていますし、今からが本番だと心を新たにしています」と言う杉山の言葉に、岡本も頷く。「ありがたいことに、第一号となる千葉県の物流施設はテナントがすべて埋まった状態でスタートすることが決定しています。この流れを大阪府の案件でもしっかりと引き継いでいきたい」。さらに、二人の商人は落ち着く間もなく“次の一手”を見据えていると言う。「日本の物流は世界一。期日通りに物が届くというのは普通なようでいて、普通では決して実現できないことなんです。まずはこのプロジェクトを着実に成功させ、近い将来は海外市場を席巻するようなビジネスに育てたいと考えています」。すでに二人は中国・東南アジアにも足を運び、マーケット調査を開始していると言う。日本の物流を、世界の物流へ。商人の挑戦が止まることはない。