『バラージの青い石』あらすじ
★放映日時 : 昭和41(1966)8月28日
【中近東に巨大な隕石が落下し、
それ以来、不思議な事件が次々と起こった。
科学特捜隊パリ本部から、連絡員のジムがやってきた。
その話によれば、パリ本部もトルコ・インド両支部も、
調査隊を派遣したがいずれも行方不明となったという。
ついにパリ本部は、日本支部の出動を要請してきたのである-】
謎の隕石が落下した地点は、
中東の砂漠の中にある都市・バラージの近くらしい。
隊長のムラマツは各隊員に同行することを命じるが、
アキコは本部に残ることになった。
彼女の変わりにジムが調査隊に加わった。
ジェットビートルは順調に飛行していたが、
目的地までおよそ100キロの地点で、奇妙な光の壁に行く手を遮られる。
ムラマツは光の壁を飛び越えろといい、
成功したかに思えたが、磁力線によってエンジンを破損してしまった。
ジェットビートルは砂漠地帯に墜落し、一同は気を失ってしまう。
アキコからの通信の声でハヤタが目覚め、
次々と皆も気づくが、イデは頭に怪我をしていた。
ハヤタはアキコに返信しようとするが、
墜落のショックで回路が無線機が故障してしまったようだ。
ムラマツは「俺たちも行方不明の仲間入りだな」と呟く。
しかしジムは、バラージの街は近くだから、外に出て歩こうと提案した。
ムラマツはイデに無線機の修理を頼むと、
全員でバラージの街を目指すのだった。
だが、彼らがジェットビートルを出た直後、イデが大きな怪物を目撃する。
驚いてムラマツに報告するイデだが、
怪物は砂漠の砂の中に隠れてしまっていた。
「何も見えないじゃないか」とアラシは言ったが、
ハヤタが穴の中に埋まっているジェットビートルを見つける。
アラシが調べようとすると砂の中から怪物が現れ、
2本の角から光の壁を発するのだった。
ムラマツはスパイダーガンで攻撃するものの、
武器が光の磁力線で吸い寄せられてしまったので撤退した。
やがてバラージの街に到着した一同は、
「ノアの神」と呼ばれるウルトラマンの像を目にするのだが-。
ハヤタ : 黒部進
ムラマツ : 小林昭二
アキコ : 桜井浩子
イデ : 二瓶正也
アラシ : 石井伊吉
チャータム : 弓恵子
登場怪獣 : アントラー(磁力怪獣)
脚本 : 金城哲夫/南川竜
(敬称略)
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感想
実はこの話、私がウルトラシリーズに引き込まれるキッカケとなった、
記念すべき作品なんですよ。
1~6話までは、日常の暮らしの中に現れた怪獣を退治するものでしたが、
今回は、いきなり中東が舞台です。
しかも、「ノアの方舟」伝説と絡めたりして、
全体的にミステリアスで素敵な仕上がりになっています。
女性視聴者にも馴染みやすい感じですね。
アントラーは磁力を発する怪獣で、
五千年前からバラージ付近で暴れていたようです。
隕石が落下したことで眠りから覚め、
より凶暴化してしまったのかも知れません。
では、印象的な台詞とともに物語を振り返ってみましょう。
【バラージは古い言い伝えの中に出てくる街です。
この街はかつて大いに栄えた街だったのですが、
いまでは地図にも名前が載っていないゴーストタウンになってしまいました。
学者の中には、実在の街ではないという人がいるくらいです】
でも、科特隊の面々が出発する前は、しっかり地図を見ていましたよね・・・
なんて突っ込みをする間もなく、一気に異世界モードになります。
ジム【(彼方を指差しながら)しかし、見たまえ。あの山はアララト山だ】
アラシ【アララト山?ああ、ノアの方舟が流れ着いたといわれている所だ】
ジム【うん、そうだ】
(中略)
ハヤタ【あなたは?】
チャータム【私の名前は、チャータム】
イデ【おい、日本語だぜ】
アラシ【日本へ来たことがあるんですか?】
チャータム【私はこの街から出たことはありません。日本人に会ったこともありません】
ムラマツ【じゃあ、どうして日本語を・・・】
チャータム【私には、あなた方の頭の中を読み取る力があるのです】
ジム【ああ、エスパー!】
チャータム【この能力は、私の一族だけに伝わっているものです。
遠い昔、人々はみんながこの力を持っておりました。
その頃の街は、シルクロードの交易地として栄えに栄えておりました。
ところが、ある日からこの街へ急に人が来なくなりました。
この街を出て行った人も、二度とは帰ってきません。
アントラーのしわざなのです。
人はだんだん少なくなり、いつの間にか、
老人ばかりが住む街になってしまったのです】
ハヤタ【アントラー?】
チャータム【恐ろしい怪物です】
ムラマツ【じゃあ、あの怪物はそんな昔から・・・】
(チャータムが頷く)
ムラマツ【しかし、あの怪物はどうしてこの街を襲わないのです?】
チャータム【ノアの神の守りです】
ムラマツ【ノアの神・・・?ジム、もしかしたら、ノアの方舟の・・・】
ジム【うむ、私もそれを考えていた】
チャータム【・・・どうぞ】
(チャータム、ノアの神のもとに一同を案内する)
イデ【ウルトラマンだ!どうして、ここに・・・?】
チャータム【ノアの神です。この青い石が、アントラーからこの町を守っているのです】
イデ【あの石が・・・?なぜだろう?】
アラシ【うむ、一種の魔よけかも知れん】
ムラマツ【ノアは、宇宙人だったのか・・・】
アラシ【五千年の昔、ウルトラマンの先祖は地球に現れ、
その時もやはり、人類の平和のために戦っていたのか・・・】
ムラマツ【うむ、われわれ人類にとって、
ウルトラマンは平和のための大切な神なのかも知れん】
実は後年のシリーズで「ノア」と呼ばれるウルトラマンが登場するんですが、
この話がもとになったんでしょうね。
チートと言われるほど強いウルトラ戦士らしいですが、
「神」と呼ばれる存在ならば、それもアリなんでしょうね。
この物語で衝撃的だったのはその結末です。
勧善懲悪のヒーローものでは、必ず主人公が敵を倒すんですが、
今回はそのセオリーを破った展開です。
ウルトラマンはアントラーに苦戦して、カラータイマーの残り時間が30秒になってしまい、
科特隊もバラージの街も危機的な状況になりました。
すると、チャータムが「ノアの神のお告げを聞いた」と言って、
あの青い石をムラマツキャップに渡すんですよ。
彼女はアントラーに投げろというのです。
ムラマツキャップは、プロ野球のピッチャーもビックリのコントロールの良さで、
アントラーを退治することに成功しました。
ハヤタは変身したものの、街のおばあちゃんを助けただけで、
敵を倒したのは、人間であるムラマツキャップだったんですね。
これはシナリオを担当した金城先生のメッセージではないでしょうか。
ウルトラマンは人類の平和のために戦いますが、
地球は本来、人間が自分の手で守るべきものなんですよ。
また、アントラーの脅威がなくなったバラージも、
蜃気楼の街として滅びる運命にあるとチャータムは言いました。
『永遠ならざる平和』はあっても、
『恒久的な平和』はないということなのかも知れません。
子どもの頃、初めてこの話を観た時は、ミステリアスな雰囲気に魅了されましたが、
改めて鑑賞して物語の奥深さに感動しました。
名作は何十年経っても色あせないものですね。