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風を泳ぐ魚
「位置について」
あたいはその声と同時に両手の指を地面につけ前脚の膝を立て後脚の膝を地面につける。
地面が近くなったせいか鼻孔に土の香りが入ってくる。
「用意」
(今日こそは勝つ)
その一言を心に刻み腰を上げると100メートル先にあるゴールを睨み付ける。
「どん!」
その声と同時に利き脚で地面を蹴ると同時に両手は地面を跳ね上げる
(イメージ通り、このまま一気・・・・)
「おっっそいーー♪」
声と同時に一瞬速く小柄な人影が前に進み出る。
(しまった!)
その人影に続く様に脚に力を込め加速していく。
100メートルが無限の様に感じられ十数秒が何時間にもかんじられる。
(ちくしょう!もっと速く!走れ!アタイ!)
心の焦りと裏腹に少ししか見えなかった人影の背中が僅かずつ目前に広がりはっきりとその背中が目前に見えた瞬間。
涼風は自分が負けたという事を実感した。
「涼風おっっそい島風の勝ち♪」
そう言って薄いブロンドの髪を揺らしながらピョンピョンと涼風の周りを跳ねるのは彼女と同時期に陸上部に入った島風だった。
「島風さんやめなさい、あなたは少し走り込みして来なさい」
「はーい、涼風また何時でもかけっこしよ。島風速いけどね」
それだけ言うと島風はアタイに横を抜けてトラックの方に駆けていく。
「涼風さん、島風さんには負けたけどもあなたのタイムも・・・・・・」
「少し休憩して来ます」
先生の言葉を遮る様にそう言ってアタイは校舎横にある水道まで軽く走る。
「ちくしょう、タイムが良いだけじゃ意味ないんだよ」
水道までくると不意に口から絞り出す様に一言吐き出すと水道の蛇口の下に頭と置くとそのまま蛇口をひねる。
《ジャー》
冷たい水が自分の頭にかかりいままで熱くなっていた心が次第に落ち着きを取り戻していく。
《キュツ》
蛇口を締め水が止まると涼風は頭を上げた。
「涼風ちゃん、そのままじゃ風邪ひいちゃうよ?これでしっかり拭いて?」
不意に聞こえた声に顔を上げると蒼みがかった腰まである髪が髪を揺らしながら笑顔でタオルを持つ涼風の姉である五月雨が笑顔で立っていた。
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