福光俊介の「週刊サイクルワールド」<153>時代の到来を告げたサガンの圧勝劇 ツール・デ・フランドルの勝敗の分かれ目
“キング・オブ・クラシック”と呼ばれ、ワンデーレースの頂点に君臨するツール・デ・フランドル。4月3日に行われた第100回記念大会は、世界王者の証・マイヨアルカンシエルを着るペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)が勝利を収めた。レース後半に見せた圧倒的な強さは、世代交代を印象付けるものだった。その背景には、勝者と敗者の間で「展開の読み」に大きな差があった。いま一度“サガン圧勝劇”を振り返り、上位選手のレース内容に迫る。
最大のライバルを置き去りに
優勝争いに直結する動きが発生したのは、急坂セクションのパテルベルグ、コッペンベルグを通過した直後の222km地点。フィニッシュまで33kmを残して、サガンがメーン集団から飛び出した。
きっかけとなったのは、ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、チーム スカイ)のペースアップだった。サガンが真っ先に追随し、マッチスプリントにもつれ込んだ前週(3月27日)のE3ハーレルベーケと同様のシチュエーションに持ち込んだ。この状況を振り返ったサガンは、「メーン集団内にチーム スカイ勢が4~5人いたので、そのうちの誰かが動けば、チェックに行くつもりだった」と話す。人数をそろえていたチーム スカイは、クフィアトコフスキーが抜け出したことにより、アシスト陣が追走を図る必要がなくなった。同時に、サガンにとってはライバルたちにプレッシャーを与えられる状況を作り出すことができた。
その後、セップ・ヴァンマルク(ベルギー、チーム ロットNL・ユンボ)がサガンらのグループに単独で合流を果たしたが、最大のライバルと目されたファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック・セガフレード)は集団待機を選択。終盤は自らが追走を試みたが、サガンに追いつくには至らなかった。
サガンはカンチェッラーラの動きにも言及し、「判断ミスがあったのではないか。私たちのグループに入っていないことを知って驚いた」としている。結果的に、フィニッシュでの両者のタイム差は25秒。サガンが集団を飛び出した際に、カンチェッラーラが追っていれば、もう少し違ったレース展開になっていたことだろう。
「最初から最後まで常に全力だった」と、フィニッシュ直後には疲れた様子を見せたサガンだが、最終セクションとなった2回目のパテルベルグで先頭に立ち、フィニッシュまでの残り13kmを圧巻の独走。ラスト5kmはもう一段階ギアを入れ直して、後続を完全に振り切った。ペースが落ちるどころか、むしろペースアップを成功させたあたり、フィジカル面の充実も著しい。
その要因の1つに挙げられるのが、2月中旬にスペイン・シエラネバダ山脈で行った高地キャンプである。そこでしっかりとトレーニングを積んだことが、北のクラシックでの快走につながったとのもっぱらの見方だ。
マイヨアルカンシエルがフランドルで勝利するのは、2006年のトム・ボーネン(ベルギー、現・エティックス クイックステップ)以来。今季序盤は勝利に見放されることが続いたサガンだが、クラシックシーズンに入って連勝を果たした要因としては、レース展開に対する的確な読みと、コンディション作りの成功が挙げられるだろう。
誇りと失望のはざま
終盤に意地を見せ、ともにサガンを追ったヴァンマルクをフィニッシュ手前で振り切ったカンチェッラーラ。大会史上初の4勝目を目指したが、あと一歩及ばなかった。そんな“旧”王者は、“新”王者となったサガンの走りを素直に称えた。一方で、今シーズン限りでの引退を前に、最後となるフランドルを勝利で終えられず、強い失望感を味わっているようだ。
悔いたのは、サガンがメーン集団から抜け出すシーン。ここで集団に残ることを決め、しばしスティーン・デヴォルデル(ベルギー)のアシストを受けながら来たる勝負の瞬間に備えたが、それが実ることはなかった。残り距離を考えた際に、サガンが失速する可能性があると判断。追いついてからの勝負と踏んだが、逆に残り5kmを切ってタイム差を広げられてしまった。
慎重さがアダとなってしまった感があるが、加えて「最後のフランドル」との思いがプレッシャーとなってカンチェッラーラを襲った。前夜はなかなか眠れず、当日朝も早く目が覚めてしまったほどだった。
「ツール・デ・フランドルは常に心の中にあるレースであり、今回もできる限りのことをしたつもりだ」とレース後に語ったカンチェッラーラだが、見えない重圧や、予想を上回るサガンの好走もあり、「キャリア最後のフランドル勝利」はフィニッシュでのタイム差以上に遠いものとなってしまった。
第114回パリ~ルーベ展望
ツール・デ・フランドルが「クラシックの王様」ならば、パリ~ルーベは「クラシックの女王」。今年で114回目を迎える大会は、4月10日に行われる。北のクラシックを締めくくるレースであり、ワンデーレースの最高峰に位置づけられる「モニュメント」の1つでもある。
パリ近郊のコンピエーニュを出発する一行は、98.5km地点から27カ所にも及ぶパヴェ(石畳)セクションへと立ち向かう。コースそのものは平坦基調だが、全行程257.5kmのうちパヴェは総延長52.8kmを占める。
それぞれのセクションは5段階の難易度で示され、最高の5つ星は18番アランベール(162km地点、距離2.4km)、10番モンス・アン・ペヴェル(209km地点、距離3km)、4番カルフール・ド・ラルブル(240.5km地点、距離2.1km)の3カ所。
アランベールを目指す段階では、まだメーン集団が大規模であることから、各チームがゴールスプリントさながらの位置取りを繰り広げる。もっとも、このセクションで集団の人数が一気に絞られる傾向にあり、少しでも遅れたりトラブルに見舞われたりすると、勝負する資格そのものを失ってしまう。例年、優勝候補がパンクやメカトラブルで足止めされる事態が発生している。
また、モンス・アン・ペヴェルでは有力選手による一気のペースアップ、カルフール・ド・ラルブルでは優勝争いに直結するアタックが見られるなど、難易度の高いパヴェほどレースが大きく動く可能性を秘めている。
優勝争いの中心は、今年の北のクラシックで主役を演じるサガン、カンチェッラーラ、ヴァンマルクの3人。ベルギーで行われてきた石畳系クラシックでは、急坂区間を利用した動きも多かったが、パリ~ルーベは平坦路で争われることから、パヴェでのテクニックやパワー、ときに独走力も求められる。そうした観点から見ても、この3選手の実力・コンディションが際立っていることは間違いない。
強力メンバーをそろえるエティックス・クイックステップは、過去最多の4度の優勝を誇るトム・ボーネン(ベルギー)をはじめ、2014年覇者のニキ・テルプストラ(オランダ)、ズデニェック・シュティバル(チェコ)、スティーン・ヴァンデンベルフ(ベルギー)らスペシャリストが控える。今年が初の北のクラシック本格参戦のトニー・マルティン(ドイツ)がアシストとして機能。ここまでのレースでは、チーム全体がいまひとつ噛み合っていない印象だが、何とか主導権を握って勝利を手繰り寄せたいところ。
同様にタレントをそろえるチーム スカイは、イアン・スタナードとルーク・ロウ(ともにイギリス)の2枚看板。
前回はルーベのベロドロームで6選手によるスプリント決戦となったが、似たような展開になればアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)、アルノー・デマール(フランス、エフデジ)といったスプリンターにもチャンスが訪れる。クリストフは昨年のこの時期ほど勢いはないものの、上位でまとめる力は十分にある。デマールはツール・デ・フランドルで落車リタイアとなり、体へのダメージが心配されるが、夢であるパリ~ルーベ優勝に向けて予定通り参戦する意向だ。
なお、レースで最初に通過するパヴェセクション、27番トロワヴィル(98.5km地点、距離2.2km、難易度3)は現在、泥に覆われており、安全確保のためコースから外れる可能性があるとしている。また前回、コース途中の踏み切りで遮断機が降り、メーン集団が列車の通過を待つケースが起きたが、それを回避するため列車の通過時間を調整する方向で協議を進めていることも明らかになっている。
そしてヘント~ウェヴェルヘムで起きた、関係車両に衝突され事故死したアントワーヌ・ドゥモワティエ(ベルギー、ワンティ・グループゴベール)のような悲劇を繰り返さないよう、大会関係車両からVIPカーを除外することも確認されている。
今週の爆走ライダー-イマノル・エルビティ(スペイン、モビスター チーム)
1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。
スペイン人選手の多くが山岳で強さを発揮する一方で、北のクラシックは彼らにとって鬼門だ。かつてラボバンク、チーム スカイなどで走ったフアンアントニオ・フレチャが石畳系クラシックでは上位の常連だったが、彼は例外中の例外。ほとんどの選手がパヴェに悪戦苦闘し、完走すらままならない。
そんな中で、チーム内で毎年「北のクラシック班」に入っているエルビティが思わぬ形で見せ場を作った。ツール・デ・フランドルでは70km地点から逃げグループに入ると、序盤からの先行メンバーの中では唯一の“逃げ残り”に成功。上位争いのスプリントにも加わり、7位に食い込んだ。
フィニッシュ直後の第一声は「本当に疲れた…」。急坂区間で先頭を走る場面もあり、多くの声援を味方につけられたことがうれしかったという。「最後の最後までトップ10を狙えるところで走れるとは考えていなかったし、本当によい結果を残せるとは思いもよらなかった」と喜ぶ。同時に、優勝したサガンや3位になったヴァンマルクが後方から合流した際に、「できる限り一緒に逃げ続けよう」と試みたことが好成績につながったと分析する。
モチベーションは上々だ。3月下旬のボルタ・ア・カタルーニャでは、アシストとしてナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア)の総合優勝に大きく貢献。その勢いのまま北のクラシックを走り、次はアルデンヌクラシックへと向かう。主なミッションはアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)を支えることだ。
エースやチームを数多く勝利に導いてきた彼にとって、フランドルで見せた走りはさらに評価を高めることだろう。経験や実績は十分。もっともっと光が当たってもいい選手であることは確かだ。
自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。