(2016年3月30日放送)
夏の参議院選挙から選挙権を得られる年齢が18歳に引き下げられますが、その対象は日本国籍を持つ人に限られます。
愛知県には外国籍の子どもが全国で最も多くいますが、こうした外国籍の高校生たちは日本の18歳選挙権をどのように見ているのでしょうか。また学校現場はどう対応しているのでしょうか、名古屋放送局・堀木伸一記者が取材しました。(3月30日放送)
生徒会選挙で
豊田市の衣台高校で、新年度の生徒会役員を決める選挙が行われました。
立候補した生徒の「今までは会長を支える立場でしたが、次は自分が周りを気遣っていきたいと思い立候補しました」といった演説に熱心に聞き入っていたのは、17歳の木場勇希さん。
日本で生まれ育った日系ブラジル人3世です。
母国では有権者
木場さんはブラジル国籍のため、日本では国政選挙や地方選挙の投票権は得られませんが、ブラジルでは16歳になると大統領選挙に投票できるため、母国ではすでに有権者です。
ブラジルの学校の多くは生徒会がなく、木場さんは「自分で選挙ができて生徒会をする生徒達を選べていいと思いました」と日本の学校の慣習を新鮮に感じたと言います。
木場さんは三重県で生まれましたが、小学生から中学生の7年間は、両親の母国ブラジルで暮らしました。
しかし、生まれ育った日本で暮らしたいと、おととし家族とともに豊田市に移りました。
日本の大学への進学を目指して勉強に励んでいます。
感じる不満
母国で有権者になり、政治や選挙の役割を真剣に考えるようになったという木場さんですが、最近、ある不満を感じていると言います。
日本の同級生たちと政治の話をしたいのですが、多くの生徒が無関心で、会話が弾まないためです。
「日本の高校生はあまり政治のことを話さない。友達や家族ともっと政治のことを話したらいいと思う」と木場さんは話します。
政治について日常的に
木場さんの家族は集まると日常的に政治について語り合います。
父親とは最近の話題になっているブラジルの政治家の汚職を話題にしました。
「政治や税金とか国がどうやって行動しているか知りたくて、興味も出てくる」「お父さんに色々聞いています」と木場さんは言います。
父親に見せてもらったのは、ブラジルの有権者の証明証です。
すでに申請できる年齢になった木場さんは、自分も早く取得したいと思っています。
父親は「あと2年経ったら大統領選挙があるので今度その選挙にも参加してください」と投票を促しました。
もっと政治に関心を
9月で18歳になる木場さんは「18歳になるので選挙ができる。だからもっと若いころから政治のことを学ぶことが大事だと思います。若者が投票しないと、若い人の考え方や国の未来が伝わらないし、いつも政治が変わらなくていつも同じになっていくと思います」と、貴重な1票を持つことになる日本の高校生たちに、もっと政治や選挙に関心を持ってもらいたいと考えています。
特徴をいかした教育
外国籍の生徒が多いという特徴をいかした教育に取り組んでいるのが豊橋市の豊橋西高校です。
この学校では外国籍の生徒が30人ほどいて、有権者になる年齢はバラバラですが、国籍にかかわらず、選挙についての授業は一緒に行っています。
選挙の授業に
この日は、社会科の教員が集まって新年度の授業の打ち合わせを行いました。
このなかで「現実にブラジルの大統領選の仕組みがあって16歳から選挙権があるんだと。そういう指摘をして、そのときだけもう選挙権を持っているブラジル人の生徒に来てもらう」とか「生徒どうしでやらせると教員が言う以上に印象に残る気がします」といった意見が出て、選挙の授業に、すでに有権者になっている外国籍の生徒に協力してもらうことで意見がまとまりました。
担当の天野智仁教諭は「自分たちのことは自分で考えようという意識は全員がもっていてほしい。国籍にかかわらず、そうなってもらいたい」とその狙いを話します
判断する力を
今回の選挙権年齢の引き下げについて、総務省と文部科学省は、選挙権の有無や国籍の違いにかかわらず、政治や選挙に関する知識や物事を判断する力を生徒たちが身に付けられるよう指導することが重要だとしています。
また外国人の移民問題に詳しい名城大学・法学部の近藤敦教授は「今後、色んな問題について外国人の人たちも一緒に議論するなかで、自分たちの社会をどう作っていくのかということが教育の中で取り入れられるのがいい」と政治や社会の問題を、国籍にかかわらず、共に考えることが重要だと言います。
国籍の違う若者が1票の大切さを共有することで、若い世代による政治への意識の高まりが期待されています。