環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と、関連する11本の法律を一括改正する法案の審議が、衆院で始まった。

 世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥った後、二国間や多国間の自由貿易・経済連携協定が自由化の推進役となっている。中でもTPPには世界経済を引っ張るアジア太平洋の12カ国が参加し、国内総生産(GDP)で世界の4割を占める。低成長が続く日本にとって、その効果への期待は小さくない。

 TPPが扱うのは関税の撤廃・引き下げや投資の自由化などのほか、知的財産や環境・労働分野に及び、「21世紀型」と呼ばれる。さまざまな産業や国民生活への影響が予想され、不安や疑問、反対論も根強い。

 審議を通じてそうした声に向き合うことが、国民の代表としての国会の責任だろう。各党は「消費者の利益」を基準に、是非と対策を考える姿勢で審議を尽くしてほしい。

 気がかりなのは、今の国会でTPPを承認しようという与党と政府の前のめりな姿勢だ。

 参加12カ国は2月にTPPに署名したが、発効には各国が議会承認を含めて必要な手続きを終えねばならない。TPPの規定では、2大国である米国と日本の手続き完了が不可欠だ。

 大統領選の最中にある米国では、民主、共和両党とも有力候補はこぞってTPPに否定的。議会承認は11月の大統領選後、との見方がもっぱらである。

 安倍政権はTPPをアベノミクスの柱の一つと位置づける。「日本が率先して発効への機運を高める」と意気込むが、拙速な審議は許されない。夏の参院選や、取りざたされる衆参同日選をにらみ、懸案を片付けておこうとの思惑なら本末転倒だ。

 民進党は、農林水産分野の関税撤廃・引き下げ問題を中心に追及する構えだ。

 衆参の農林水産委員会は3年前、コメなど重要5項目に十分に配慮するよう決議している。TPPの協定案が5項目を「聖域」として守っているかを突くだけでなく、幅広い視点からの議論を心がけてほしい。

 徹底した審議には十分な情報が必要だ。交渉で主役を演じた甘利明・前TPP担当相とフロマン・米通商代表部代表の会談資料について、政府はようやく開示に応じることを決めたが、黒塗りだという。できるだけ情報公開に努めるべきだ。

 甘利氏が金銭授受疑惑について説明責任を果たすことも、改めて求めたい。体調がすぐれず難しいなら、なおさらTPPの承認を急ぐべきではない。