21作目『DOUBLE』
2007年1月24日発売 オリコン最高4位 売上約5.6万枚
『DOUBLE』。オリジナルアルバムとしてはCHAGE and ASKA名義では最新のアルバムです。強調しておきますが最後ではないです。2007年1月24日に発売されていますので、今(2014年12月)からすると約8年前ということになります。
オリジナルアルバムとしては2001年の『NOT AT ALL』以来、約5年ぶりのアルバムでした。そうなんです。2000年代にチャゲアスはオリジナルアルバムを2枚しか発表していないのです。
その理由はひとつではないでしょう。「ソロ活動の比重が上がったこと」と言いたいところですが、2000年代にASKAさんは『SCENEⅢ』のみの発表です。Chageさんは『DOUBLE』以前にはアルバムの発表はなし。活動休止後の2008年に『アイシテル』、2009年に『Many Happy Returns』を出しましたが、活動休止前は写真や映画など音楽以外の創作活動の比重が高かったのです。じゃあ10年間、いったい何をしていたのか?
答えは「ライヴばっかりしていた」んですね。
2001年から「NOT AT ALL」ツアー84本。2002年から「THE LIVE」ツアー66本。2004年の「two-five」ツアー71本。2007年の「DOUBLE」ツアー51本と「Alive in Live」10本。まるで80年代前半の頃のようなコンサート本数です。
80年代のツアースケジュールを調べてみました。1981年の「熱風」ツアーが59本。1982年の「御意見無用」ツアーが64本。1983~1984年の「21世紀への招待」ツアーがPart1とPart2を合計すると94本。1985年の「SHAKIN’ NIGHT」ツアーが64本。
1986年にレコード会社を移籍し「モーニングムーン」がヒットしました。テレビの音楽番組への出演も数多くあった80年代後半も年間40本以上のライブを行っています。
この時期のコンサートツアーは90年代の大都市中心のアリーナツアーとは異なり全国の地方都市の2000人規模の会館を隈なく回っていました。その頃と同じように全国津々浦々を回るツアーが2000年代にも組まれたのです。
その他にも韓国でのコンサート、札幌でのカウントダウン、お台場での熱風コンサート、夏フェスへの出演などもありました。振り返ってみるとASKAさんのソロコンサートも含めてステージに上がってばっかりなんです。この2000年代は。
アルバムが出ないこと×ライブ活動にあけくれていたこと=?
この方程式を解く鍵のひとつは「喉の不調」ではないかと思うのです。ファンの間でもあまり表立っては語られることはありませんでしたが、90年代後半からASKAさんの喉の不調を感じる場面が増えていました。インターネット上など裏では大騒ぎでしたが…。「電光石火」ツアーが近年のツアーでは唯一映像ソフト化されていない理由もそれが理由じゃないかと勘ぐる向きもありました。確かに「熱風コンサート」「札幌カウントダウン」など映像記録として残っているものを見聞きしてもASKAさんの声の不調は明らかです。
セルフカバーの『STAMP』では「WALK」や「YAH YAH YAH」のような喉を酷使する楽曲でキーを下げていました。個人的にはこのキー変更の理由は喉の不調だけとは思わないのですが、邪推されたのは事実でしょう。
『DOUBLE』が発売された時の会報でASKAさんが「喉が復活した」と話していました。「歌いぬいて復活させるんだ」という思いでやってきた、と。2000年代前半の怒涛のロングツアーの背景にはそんなこともあったのです。
正直な感想を言えば私は「休んだらいいのに…」と思っていました。スタッフからも休養を提案されたといいます。しかし、ASKAさんは「休まないことで喉を元の状態に戻す」という選択肢をとりました。もちろん主治医の先生がつき、治療もされていたんだろうとは思いますが、それで本当に回復していくんだから驚きです。死の淵から復活するとパワーアップするサイヤ人のように(わかります? このたとえ…)。
『DOUBLE』が制作されたのはASKAさんの喉が回復したからこそ、とも言えるのかもしれません。
さて、『DOUBLE』に収められた楽曲はそれぞれ粒ぞろいの名曲ばかりです。ライブを盛り上げるようなド派手な楽曲はありません。『NOT AT ALL』もそうでしたが、チャゲアス初心者にとっては少々地味に聞こえたかもしれません。しかし、これだけのキャリアを重ねてもまだ「攻めている」印象があるアルバムです。松山千春さんがよく自作を「購買意欲をかきたてる曲ではないわな」とおっしゃいますが、この時期のチャゲアスもそんな感じ。メロディーもアレンジも歌詞も練りに練られており聞けば聞くほど発見があります。一度聞けばわかるような単純さはないのです。
CHAGE曲の充実振りが凄いです。作詞のパートナーとして松井五郎さんと石塚貴洋さんを迎えています。心象風景を描く繊細な詞の世界が広がります。
「ここに残された昨日は まだ見えない明日の目印」
「気忙しさと前向きさの違いを知りながら 人は駅に向かう 歩く早さを落とせない」
こんなせつないフレーズがあのChageさんの声で歌われるのです。優しすぎますよ。
Chageさんの作曲のパートナーはTom Watts=村田努さんです。アルバムのディレクターでもあります。この2人のコラボレーションは『NOT AT ALL』の頃から続いています。村田さんが曲作りに関わるようになってからChage曲が研ぎ澄まされ、隙がなくなった印象を受けます。どんなパートナーシップなのかは謎なんですが。Chageさんの作曲部屋で村田さんと一緒に音楽制作をしている映像を見たことがあります。おそらくChageさんが作った音源に村田努さんがアイデアを足していく、というスタイルなのかな~、と思っているんですが。
「Wasting Time」は仮歌の段階で「ウェスティーンタ~イム」っぽいフレーズで歌っておりそこから歌詞を作っていったそうです。印象的なイントロのギターリフは最初からあったものではなく練りに練って後から作られたもの。ギタリストならば思いついたギターリフをもとにメロディーを作ることが多いのでしょうが、メロディーを先に作り後からギターリフを足すのがヴォーカリストであるChageさんらしいなとこのエピソードを聞いて思いました。
「ボクラのカケラ」はチャゲアスのダークサイドを担うChageさんらしくない(笑)POPな楽曲。一昔前ならばこういう曲調はASKAさんの担当だったのですが。チャゲアスの王道をChageさんがやらねばならぬあたりがチャゲアスの活動の行き詰まりを表しているとも言えるかも。当時はそんなことまったく考えもしなかったのでこんな意見は完全な後出しジャンケンですけどね。メジャー7thのコードの響きとサビの意表をついたDからCへの転調が印象的。
「Here&There」は先行シングル。すでにシングルの記事で暑苦しく語っておりますので、そちらをご参照ください。とにかく名曲。ASKAさんとの掛け合いヴォーカルにするあたりがチャゲアスの曲を作るにあたってChageさんが選んだ手法だったと言えます。
「光の羅針盤」は2004年にシングルで発売されたもののリアレンジ。バンジョーやマンドリンなどマニアックな楽器も演奏されていながらライブ的なバンドサウンドです。歌の構成も変わり、歌い回しも変えられているためずいぶんと印象は変わりました。ただし、個人的にはシングルVersionが好き、というか大好き。
「crossroad」も2004年のシングルのリアレンジ。分厚いコーラスはASKAさんの声を何重にも重ねたもの。ヘッドホンで聞くとASKAさんがいっぱいいるのがわかります。ライナーノーツによれば11時間かけてコーラスを重ねたと語られています。Chage的バラードここに極まれりとでもいうべき作品。この時期のChageさんの好調ぶりがよくわかります。ある意味ASKAさんよりも「わかりやすい」作品を発表するようになったのです。しかも、コード進行などは相変わらずマニアックなままで。
ASKAさんは作品は練りに練られたASKAワールド。すばらしい楽曲ばかりですが同時に産みの苦しさのようなものも感じます。1980年代の多作振りが嘘のような寡作のアーティストになってしまった2000年代のASKAさんですが、歌うテーマ選びとその表現方法の熟考に想像を絶する労力をかけていたのだと思います。
「パパラッチはどっち」は新しいチャゲアスだと思いました。正直なところ、まだ新しい部分があったか、と当時は驚いたくらいです。アレンジがへんてこで大好きです。ドラムとベースが普通じゃないんです(誉め言葉ですよ)。特に2番のベースの動きを聞いてみてください。これまでのチャゲアスにはなかった音像であり、ビートルズのベストの通称「青盤」の1曲目の「Strawberry Fields Forever」と同じような効果があると感じます。サイケデリックな雰囲気が満載で現実世界から空想世界に一気に引き込まれるのです。歌詞は隣人との不思議な恋というか妄想を描きます。パパラッチというよりもストーカーかも(笑) 韻を踏んで遊びながら、意外性のあるストーリーを紡いでいます。
「地球生まれの宇宙人」はもとは『SCENEⅢ』に収録するはずだったんではないでしょうか。『SCENEⅢ』制作時にアルバムの締め切りに間に合わなかった曲があったとおっしゃっていましたが、これがその曲ではないかと推測しています。2番の「自分のために自分を使うのがどうしてこんなに下手なんだろう」というフレーズが今聞くと痛いです。本音だったんでしょうね。
「36度線」は2004年のシングルとは異なるアルバムVersion。1995年のレコーディング素材を復活させています。つまり1995年に録音した音源に2007年の演奏が重ねられているのです。おそらく基本リズムは昔のままでしょう。新たに追加録音されたアコースティックギターが曲を新たなものに再生させています。
「僕はMusic」はシングルと同じテイクです。才能満開の名曲。シングルはエンディングがフェイドアウト処理でしたが演奏の最後まで聞くことができます。この曲についてはすでにシングルの記事で語っております。そちらをぜひご参照ください。
「Man and Woman」。初期の名曲「男と女」から25年以上が経ち、英語と日本語の違いはあるものの同じタイトルの楽曲です。これがラストシングルになってもらっては困りますが、名曲であることはみなさんご存じの通りです。ASKAさんの詞のテーマになることが多い「輪廻転生」が歌われています。ASKAさんはこの詞で歌っていることを実感しているはずです。宗教的と誤解されてもおかしくはない世界観なんですが、大きなラブソングに昇華させていますね。この歌についてもシングルの記事で語っていますのでよろしければどうぞ。
ASKAさんは自分の人生観を詞に託していますが押し付けがましさがありません。そこがすばらしいと思っています。主張ははっきりしていますが必ず聞く人に考えるスペースを空けているんです。私はASKAさんの歌詞の世界に共感する面があると同時に、精神はわかるのですが理屈ではわからない面があります。何もすべてASKAさんの考えに同調する必要はないと思っています。異性としての憧れがない分冷静に聞きすぎているところもあるかもしれません。
とにもかくにもこの『DOUBLE』を聞くとどうしても複雑な思いにかられるのは「ふたり」のファンである証。これがラストアルバムになってもらっては困るわけです。私はチャゲアスのアルバムで2番目に好きな作品がこの『DOUBLE』なんです。(ちなみに1番は『NOT AT ALL』)まだまだ私の中では終わっていませんでした。ナベさんが(現時点での)最後のファンクラブ会報で「チャゲアスに未来を感じなかった」というようなことを書いていらっしゃいましたが、いやいや、まだまだ。大きなヒットにはなりませんでしたが、聞けば聞くほど発見のあるとんでもない名盤です。作りこまれた隙のない10曲が並んでいます。
次のアルバム。待ってます。
10年くらいは余裕で待ちますので。ゆっくりいきましょ。
2007年1月24日発売 オリコン最高4位 売上約5.6万枚
『DOUBLE』。オリジナルアルバムとしてはCHAGE and ASKA名義では最新のアルバムです。強調しておきますが最後ではないです。2007年1月24日に発売されていますので、今(2014年12月)からすると約8年前ということになります。
オリジナルアルバムとしては2001年の『NOT AT ALL』以来、約5年ぶりのアルバムでした。そうなんです。2000年代にチャゲアスはオリジナルアルバムを2枚しか発表していないのです。
その理由はひとつではないでしょう。「ソロ活動の比重が上がったこと」と言いたいところですが、2000年代にASKAさんは『SCENEⅢ』のみの発表です。Chageさんは『DOUBLE』以前にはアルバムの発表はなし。活動休止後の2008年に『アイシテル』、2009年に『Many Happy Returns』を出しましたが、活動休止前は写真や映画など音楽以外の創作活動の比重が高かったのです。じゃあ10年間、いったい何をしていたのか?
答えは「ライヴばっかりしていた」んですね。
2001年から「NOT AT ALL」ツアー84本。2002年から「THE LIVE」ツアー66本。2004年の「two-five」ツアー71本。2007年の「DOUBLE」ツアー51本と「Alive in Live」10本。まるで80年代前半の頃のようなコンサート本数です。
80年代のツアースケジュールを調べてみました。1981年の「熱風」ツアーが59本。1982年の「御意見無用」ツアーが64本。1983~1984年の「21世紀への招待」ツアーがPart1とPart2を合計すると94本。1985年の「SHAKIN’ NIGHT」ツアーが64本。
1986年にレコード会社を移籍し「モーニングムーン」がヒットしました。テレビの音楽番組への出演も数多くあった80年代後半も年間40本以上のライブを行っています。
この時期のコンサートツアーは90年代の大都市中心のアリーナツアーとは異なり全国の地方都市の2000人規模の会館を隈なく回っていました。その頃と同じように全国津々浦々を回るツアーが2000年代にも組まれたのです。
その他にも韓国でのコンサート、札幌でのカウントダウン、お台場での熱風コンサート、夏フェスへの出演などもありました。振り返ってみるとASKAさんのソロコンサートも含めてステージに上がってばっかりなんです。この2000年代は。
アルバムが出ないこと×ライブ活動にあけくれていたこと=?
この方程式を解く鍵のひとつは「喉の不調」ではないかと思うのです。ファンの間でもあまり表立っては語られることはありませんでしたが、90年代後半からASKAさんの喉の不調を感じる場面が増えていました。インターネット上など裏では大騒ぎでしたが…。「電光石火」ツアーが近年のツアーでは唯一映像ソフト化されていない理由もそれが理由じゃないかと勘ぐる向きもありました。確かに「熱風コンサート」「札幌カウントダウン」など映像記録として残っているものを見聞きしてもASKAさんの声の不調は明らかです。
セルフカバーの『STAMP』では「WALK」や「YAH YAH YAH」のような喉を酷使する楽曲でキーを下げていました。個人的にはこのキー変更の理由は喉の不調だけとは思わないのですが、邪推されたのは事実でしょう。
『DOUBLE』が発売された時の会報でASKAさんが「喉が復活した」と話していました。「歌いぬいて復活させるんだ」という思いでやってきた、と。2000年代前半の怒涛のロングツアーの背景にはそんなこともあったのです。
正直な感想を言えば私は「休んだらいいのに…」と思っていました。スタッフからも休養を提案されたといいます。しかし、ASKAさんは「休まないことで喉を元の状態に戻す」という選択肢をとりました。もちろん主治医の先生がつき、治療もされていたんだろうとは思いますが、それで本当に回復していくんだから驚きです。死の淵から復活するとパワーアップするサイヤ人のように(わかります? このたとえ…)。
『DOUBLE』が制作されたのはASKAさんの喉が回復したからこそ、とも言えるのかもしれません。
さて、『DOUBLE』に収められた楽曲はそれぞれ粒ぞろいの名曲ばかりです。ライブを盛り上げるようなド派手な楽曲はありません。『NOT AT ALL』もそうでしたが、チャゲアス初心者にとっては少々地味に聞こえたかもしれません。しかし、これだけのキャリアを重ねてもまだ「攻めている」印象があるアルバムです。松山千春さんがよく自作を「購買意欲をかきたてる曲ではないわな」とおっしゃいますが、この時期のチャゲアスもそんな感じ。メロディーもアレンジも歌詞も練りに練られており聞けば聞くほど発見があります。一度聞けばわかるような単純さはないのです。
CHAGE曲の充実振りが凄いです。作詞のパートナーとして松井五郎さんと石塚貴洋さんを迎えています。心象風景を描く繊細な詞の世界が広がります。
「ここに残された昨日は まだ見えない明日の目印」
「気忙しさと前向きさの違いを知りながら 人は駅に向かう 歩く早さを落とせない」
こんなせつないフレーズがあのChageさんの声で歌われるのです。優しすぎますよ。
Chageさんの作曲のパートナーはTom Watts=村田努さんです。アルバムのディレクターでもあります。この2人のコラボレーションは『NOT AT ALL』の頃から続いています。村田さんが曲作りに関わるようになってからChage曲が研ぎ澄まされ、隙がなくなった印象を受けます。どんなパートナーシップなのかは謎なんですが。Chageさんの作曲部屋で村田さんと一緒に音楽制作をしている映像を見たことがあります。おそらくChageさんが作った音源に村田努さんがアイデアを足していく、というスタイルなのかな~、と思っているんですが。
「Wasting Time」は仮歌の段階で「ウェスティーンタ~イム」っぽいフレーズで歌っておりそこから歌詞を作っていったそうです。印象的なイントロのギターリフは最初からあったものではなく練りに練って後から作られたもの。ギタリストならば思いついたギターリフをもとにメロディーを作ることが多いのでしょうが、メロディーを先に作り後からギターリフを足すのがヴォーカリストであるChageさんらしいなとこのエピソードを聞いて思いました。
「ボクラのカケラ」はチャゲアスのダークサイドを担うChageさんらしくない(笑)POPな楽曲。一昔前ならばこういう曲調はASKAさんの担当だったのですが。チャゲアスの王道をChageさんがやらねばならぬあたりがチャゲアスの活動の行き詰まりを表しているとも言えるかも。当時はそんなことまったく考えもしなかったのでこんな意見は完全な後出しジャンケンですけどね。メジャー7thのコードの響きとサビの意表をついたDからCへの転調が印象的。
「Here&There」は先行シングル。すでにシングルの記事で暑苦しく語っておりますので、そちらをご参照ください。とにかく名曲。ASKAさんとの掛け合いヴォーカルにするあたりがチャゲアスの曲を作るにあたってChageさんが選んだ手法だったと言えます。
「光の羅針盤」は2004年にシングルで発売されたもののリアレンジ。バンジョーやマンドリンなどマニアックな楽器も演奏されていながらライブ的なバンドサウンドです。歌の構成も変わり、歌い回しも変えられているためずいぶんと印象は変わりました。ただし、個人的にはシングルVersionが好き、というか大好き。
「crossroad」も2004年のシングルのリアレンジ。分厚いコーラスはASKAさんの声を何重にも重ねたもの。ヘッドホンで聞くとASKAさんがいっぱいいるのがわかります。ライナーノーツによれば11時間かけてコーラスを重ねたと語られています。Chage的バラードここに極まれりとでもいうべき作品。この時期のChageさんの好調ぶりがよくわかります。ある意味ASKAさんよりも「わかりやすい」作品を発表するようになったのです。しかも、コード進行などは相変わらずマニアックなままで。
ASKAさんは作品は練りに練られたASKAワールド。すばらしい楽曲ばかりですが同時に産みの苦しさのようなものも感じます。1980年代の多作振りが嘘のような寡作のアーティストになってしまった2000年代のASKAさんですが、歌うテーマ選びとその表現方法の熟考に想像を絶する労力をかけていたのだと思います。
「パパラッチはどっち」は新しいチャゲアスだと思いました。正直なところ、まだ新しい部分があったか、と当時は驚いたくらいです。アレンジがへんてこで大好きです。ドラムとベースが普通じゃないんです(誉め言葉ですよ)。特に2番のベースの動きを聞いてみてください。これまでのチャゲアスにはなかった音像であり、ビートルズのベストの通称「青盤」の1曲目の「Strawberry Fields Forever」と同じような効果があると感じます。サイケデリックな雰囲気が満載で現実世界から空想世界に一気に引き込まれるのです。歌詞は隣人との不思議な恋というか妄想を描きます。パパラッチというよりもストーカーかも(笑) 韻を踏んで遊びながら、意外性のあるストーリーを紡いでいます。
「地球生まれの宇宙人」はもとは『SCENEⅢ』に収録するはずだったんではないでしょうか。『SCENEⅢ』制作時にアルバムの締め切りに間に合わなかった曲があったとおっしゃっていましたが、これがその曲ではないかと推測しています。2番の「自分のために自分を使うのがどうしてこんなに下手なんだろう」というフレーズが今聞くと痛いです。本音だったんでしょうね。
「36度線」は2004年のシングルとは異なるアルバムVersion。1995年のレコーディング素材を復活させています。つまり1995年に録音した音源に2007年の演奏が重ねられているのです。おそらく基本リズムは昔のままでしょう。新たに追加録音されたアコースティックギターが曲を新たなものに再生させています。
「僕はMusic」はシングルと同じテイクです。才能満開の名曲。シングルはエンディングがフェイドアウト処理でしたが演奏の最後まで聞くことができます。この曲についてはすでにシングルの記事で語っております。そちらをぜひご参照ください。
「Man and Woman」。初期の名曲「男と女」から25年以上が経ち、英語と日本語の違いはあるものの同じタイトルの楽曲です。これがラストシングルになってもらっては困りますが、名曲であることはみなさんご存じの通りです。ASKAさんの詞のテーマになることが多い「輪廻転生」が歌われています。ASKAさんはこの詞で歌っていることを実感しているはずです。宗教的と誤解されてもおかしくはない世界観なんですが、大きなラブソングに昇華させていますね。この歌についてもシングルの記事で語っていますのでよろしければどうぞ。
ASKAさんは自分の人生観を詞に託していますが押し付けがましさがありません。そこがすばらしいと思っています。主張ははっきりしていますが必ず聞く人に考えるスペースを空けているんです。私はASKAさんの歌詞の世界に共感する面があると同時に、精神はわかるのですが理屈ではわからない面があります。何もすべてASKAさんの考えに同調する必要はないと思っています。異性としての憧れがない分冷静に聞きすぎているところもあるかもしれません。
とにもかくにもこの『DOUBLE』を聞くとどうしても複雑な思いにかられるのは「ふたり」のファンである証。これがラストアルバムになってもらっては困るわけです。私はチャゲアスのアルバムで2番目に好きな作品がこの『DOUBLE』なんです。(ちなみに1番は『NOT AT ALL』)まだまだ私の中では終わっていませんでした。ナベさんが(現時点での)最後のファンクラブ会報で「チャゲアスに未来を感じなかった」というようなことを書いていらっしゃいましたが、いやいや、まだまだ。大きなヒットにはなりませんでしたが、聞けば聞くほど発見のあるとんでもない名盤です。作りこまれた隙のない10曲が並んでいます。
次のアルバム。待ってます。
10年くらいは余裕で待ちますので。ゆっくりいきましょ。
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