本編とあらすじ
【地球から銀河系に進出した人類は、
西暦2801年、銀河連邦を樹立し、この年を宇宙暦元年とした。
清新と進取の気風に溢れた人類の黄金時代のはじまりである。
宇宙暦296年。
連邦軍の若き英雄であったルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは、
政界に転じその強力なる指導力をもって、
連邦議会に確固たる地位を築くにいたった。
そして、同310年。
首相と国家元首を兼任したルドルフは、
銀河帝国の成立を宣言し、自ら初代皇帝の地位に就くとともに、
宇宙暦を廃止し帝国暦元年とした。
ルドルフの支配は苛烈を極め、
批判者や反対者を弾圧粛清する恐怖政治へと移行していった。
帝国暦164年。
若き指導者アーレ・ハイネセン率いる共和主義者の一団が、
この帝国領を脱出。
宇宙の危険宙域を超えたサジタリアス湾に到り、
新たに自由惑星同盟を建国し、宇宙暦を復活させた。
宇宙暦640年。
帝国暦331年。
以来150年にもわたる長く不毛な戦いの歴史を繰り広げてきた。
とくに帝国領と同盟領を結ぶ唯一の航路であるイゼルローン回廊に、
帝国軍が築き上げたイゼルローン要塞をめぐって多くの血が流されてきた。
いま、そのイゼルローン要塞を、
ヤン・ウェンリー指揮下の同盟軍が奪取した-】
帝国軍の将校はイゼルローン陥落に動揺するが、
オーベルシュタインはいつでも取り戻せると言った。
ただ、それを誰にやらせるかが問題だという。
その頃、オーディンではミュッケンベルガーをはじめとする、
帝国軍の三長官が敗戦について憤っていた。
国務尚書のリヒテンラーデは、皇帝・フリードリヒ4世に事態を報告した。
外敵からの侵入を防ぐイゼルローンの陥落を知ったラインハルトは、
同盟軍は反乱軍だと言い切った。
そして、帝国軍の将校たちが現実を見ずに、
体面ばかりにこだわったから悪い結果になったというのだった。
ラインハルトは戦いに備えるため、配下たちに艦隊の整備を命じた。
だが、彼らは歴戦の勇者ばかりで、智謀が冴える将校ではなかった。
キルヒアイスは全面的な協力を申し出るが、
ラインハルトは彼を参謀にするには、善人すぎると思っていた。
また、艦隊を任せたいと考えていたのだ。
帝国軍の三長官のひとりは、イゼルローンでの敗戦について
司令官を2人置いたことが失敗だったと考えるが、
それは結果論に過ぎなかった。
彼らは生き残ったオーベルシュタインに責任を取らせようとするが、
地位に恋々としていては批判されるので、辞表を書くことにした。
そんななか。
オーベルシュタインはラインハルトのもとを訪ねて、
銀河帝国への憎しみを語りながら、自身の才を売り込む。
ラインハルトの野望を見抜いていたからだった。
三長官の辞意に対して、国務尚書のリヒテンラーデは、
ラインハルトに地位が渡ることを危惧するが、それは杞憂に終わる。
かくして、オーベルシュタインはラインハルトの参謀となるが、
キルヒアイスは彼に危険なものを感じ取っていた。
そして、リヒテンラーデは
ラインハルトが帝国を簒奪するのではないかと皇帝に告げるが、
フリードリヒ4世は「良いではないか」とつぶやくのだった-。
台詞
オーベルシュタイン【実は閣下、私は現在、
いささか苦しい立場に立たされています。ご存知かと思いますが・・・】
ラインハルト【イゼルローンからの逃亡者。糾弾されて当然だろうな。
ゼークト提督は壮烈な玉砕を遂げたというのに】
オーベルシュタイン【凡百な指揮官にとって、私は卑劣な逃亡者に過ぎますまい。
しかし閣下、私には私の言い分があります。
閣下にそれを聞いていただきたいのです】
ラインハルト【筋違いだな。卿がそれを主張すべきは私にではなく、
軍法会議においてであろう。
卿は指揮官を補佐し、その誤りを訂正するという任務を全うせず、
しかも一身の安全を図った。その事実を前にしては、どのような言い訳も無力だ】
オーベルシュタイン【違うでしょう。
イゼルローン駐留艦隊旗艦のただひとりの生存者である私は、
生き残ったという、まさにそのことによって処断されようとしているのです】
(オーベルシュタイン、左目の義眼をはずす)
ラインハルト【・・・?】
オーベルシュタイン【この通り、私の両目は義眼です。
弱者に生きる資格なしとしたあのルドルフ大帝の治世であれば、
とうに抹殺されていたでしょう。
おわかりですか?私は憎んでいるのです。
ルドルフ大帝と彼の子孫と、彼の生み出したすべてのものを・・・】
ラインハルト【大胆な発言だな】
オーベルシュタイン【銀河帝国、いや、ゴールデンバウム王朝は滅びるべきです。
可能であれば、私自身の手で滅ぼしてやりたい。
ですが、私にはその力量がありません。
私にできることは、新たな覇者の登場に協力すること・・・ただそれだけです。
帝国元帥・ローエングラム伯ラインハルト閣下】
ラインハルト【卿は自分が何を言っているのか、わかっているのか?】
オーベルシュタイン【無論です。何度でも言いましょう。
ゴールデンバウム王朝は滅びるべきなのです。
そして、そののち新しい帝国を創る方は、閣下をおいて他にいません】
ラインハルト【キルヒアイス!】
(隣の部屋からキルヒアイスが出てくる)
ラインハルト【オーベルシュタイン大佐を逮捕しろ。
帝国に対して反逆の言質があった。帝国軍人として看過できぬ!】
オーベルシュタイン【所詮あなたもこの程度の人か・・・
結構。キルヒアイス中将ひとりを腹心と頼んで、あなたの狭い道をお行きなさい】
(オーベルシュタイン、キルヒアイスに向き直る)
オーベルシュタイン【キルヒアイス中将、私を撃てるか?
私はこの通り丸腰だ。それでも撃てるか?】
(キルヒアイスは銃を撃つことをためらう)
オーベルシュタイン【撃てんだろう。貴官はそういう男だ。
尊敬に値するが、それだけでは閣下の覇業の助けにはならん。
光には必ず影が従う。
しかし、お若いローエングラム伯には、まだご理解いただけぬか】
ラインハルト【言いたいことを言う男だな】
オーベルシュタイン【恐縮です】
ラインハルト【ゼークト提督からも、さぞ嫌われたことだろう】
オーベルシュタイン【あの提督は、部下の忠誠心を刺激する人ではありませんでした】
ラインハルト【よかろう。卿を貴族どもから買おう】
感想
覇業を成功させるためには、有能な参謀を必要としますが、
ラインハルトがオーベルシュタインを選んだのは正解ですね。
銀河帝国のトップの座を手にするためには、
政治闘争や宮廷闘争といった醜い戦いもありますから。
キルヒアイスはラインハルト陣営にとって、
調整役のような存在じゃないでしょうか。
彼の公明正大な人柄は多くの人を心服させるので、
勢力内に何かあった時には、ブレーキをかけることができるはずです。
オーベルシュタインは、ラインハルトを新たな覇者と言いましたが、
古今東西、切れるナンバーツーというのは、
こうした先見の明を持っているものです。
『光には必ず影が従う』
オーベルシュタインのこの言葉を聞いて、
この頃のモヤモヤしていた気持ちがスッキリしました。
人間には「清濁併せ呑む」という度量の広さが必要なんですよ。
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