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◆馳星周×東山彰良 『ソウルメイト』文庫化記念対談◆
東 山
読んでいて馳さんの作品群の中では、とても特殊なものだと感じて、すごくびっくりしました。『ソウルメイト』は、本当に自然な流れで書いてますよね。もしかしたら読者の期待に無理矢理応えるために、これまではあえてハードな方向に持っていっている部分があったんじゃないかと思ってしまいました。
馳
昔は無理矢理ハードに持っていってたかもね。
東 山
先ほど言ったように「柴」は、ノワール方向に進むのかな? と思って読んでいました。一編くらいはノワール要素が入ったものがあるんじゃないかなって。でも、それは僕が読者として期待しているハードな馳星周であって、馳さんが今書きたいものとは違うということですね。
馳
昔からのファンっていう人たちは大切にしたいなって思う。でもなんていっていいのかな、結局は読者のために書いているわけではなくて、自分のために書いているんだよね。矛盾するんだけどね。読者が買ってくれるから、俺たち食っていけるんだけどさ。
東 山
とにかく肩の力が抜けている感じがすごくしました。最新刊の『アンタッチャブル』(毎日新聞出版)もそういう部分がありますよね。馳さん楽しんで書いているなぁと感じました。だから、読んでいるこっちも楽しい。
馳
楽しんで書いてはいるけど、
楽
らく
して書いているわけではないからね。デビュー作の『不夜城』が売れてから、30代の時はノワールを書かなきゃ書かなきゃって自分で自分の首を絞めているところがあって、書いていて楽しくなかった時期もある。でも今は、幸いにも書きたいものを出版社が書かせてくれるから、本当に小説家でよかったなと思うし、小説書いて食えて、こんなにありがたいことはないと思う。
東 山
僕は今のところ、常に楽しいと思って書いてますよ。
馳
だからダメなんだよ、お前は(笑)。葛藤がないんだよ、葛藤が。
東 山
僕はずっと売れなかったから、編集者からあまり口を出されることもなく自由に書かせてもらえてたんですよ。次の作品が出るかどうか常に不安だったけど、自分の書きたいように書けるので、書いていてとても楽しいんです。馳さんのようにデビュー作であれだけ売れると、そこからずっとプレッシャーがあったと思います。だから、「もっと考えて書かないと売れないぞ」っていうメッセージを僕にくれたのかなと思ってます。
馳
いや、売れる売れないじゃなくて、「考えて書け」っていうのは、ちゃんとしたものを書いてほしいってことなんだ。『路傍』はいい小説だよ、本当に。でも、東山はもっと書けるはずだって思った。力のある奴が120%の力を出し切ってないのを見るのって腹立たしいじゃん? だからしつこくしつこく言ったんだよ。
東 山
自分としては全力でやってるつもりだったんですけど……。
馳
まぁ、『流』では120%出せたんじゃないの?
東 山
そうですね、確かに。
馳
商業作家をやってると、どうしても食べていくために作品の本数を稼がなきゃならない。だから、全作に120%というわけにはいかない。それでも机に向かっているときは、目の前の仕事に全力をぶつけなきゃならないし、俺は常にやっているつもり。結局、書くことって、「考える」ことなんだよね。このキャラクターはこういう時だったらどうするんだ? って。20年もやってると、文章とか物語の運び方って、第二の本能みたいになっちゃってるから。でもそれに、まかせちゃうと自分として齟齬が出てきてしまうので、常に考えて考えてを繰り返すものだけど、当時の東山にはそこが足りなかったかなと。
東 山
勉強になります。考えて書くって意味では、気になっていることがあるんですけど、『ソウルメイト』の最後の一編「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」って本当の話ですか?
馳
自分が本当に体験したことが元になっているけれど、フィクションだよ。
東 山
本当の話かなって思っちゃいました。あれだけが長い短編ですよね。長かったからそう感じたのかもしれないけど、あの一編は物語に込められた熱量が違うと感じました。
馳
犬がガンになって、軽井沢に別荘を借りて看病をしたっていうのは俺が本当に体験したこと。登場人物の夫婦のことなどは基本的にはフィクション。恥ずかしくて、私小説作家でもないのに自分たちのことは書けないよ。
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〈プロフィール〉
馳星周
1965年北海道生まれ。横浜市立大学卒。96年デビュー作『不夜城』で第18回吉川栄治文学新人賞、98年『鎮魂歌』で第51回日本推理作家協会賞、99年『漂流街』で第1回大藪春彦賞受賞。ほかに『生誕祭』『ダーク・ムーン』『約束の地で』『雪炎』など多数。
東山彰良
1968年台湾生まれ。73年より日本で生活。91年大学卒業後東京にて航空会社勤務の後、大学院に進学。経済学修士課程を経て、大学の非常勤講師をする傍ら、執筆。2002年『逃亡作法 TURD ON THE RUN』にて第1回『このミステリーがすごい!』大賞・読者賞をダブル受賞。15年『流』で、153回直木賞受賞。
馳星周 著
『ソウルメイト』(集英社文庫)発売中
東山彰良 著
『路傍』(集英社文庫)発売中