イラストを無断使用されたので、即座に料金をご請求申し上げた件
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先日、うちのイラストがとあるウェブメディアに無断使用されました。それに対し料金を請求したらこうなった、という顛末を紹介します。お支払いは無事頂けたのですが、そこに至る対応は一筋縄ではいかないものです。イラストが無断転用されたときにはどう対応すればいいのか、参考になれば幸いです。
※おことわり……ウェブメディアの名前や会社名はここでは非公表といたします。
1. イラストの無断使用を発見
イラストの無断使用を発見したのは、Google Analyticsでブログへのトラックバック元をチェックしていたときでした。見慣れないサイト名があったのでチェックしてみたら、うちのイラストをかなり堂々と使ってあったもので、びっくりしたんです。
無断使用されていたページはとある外国の情報サイトで、その国にワーホリや留学で滞在する人向けの日本語のウェブサイトでした。この運営会社からイラストの利用について問い合わせをもらったこともなければ、依頼を受けたおぼえもありません。
パクられたイラストはこの画像です。私のところで開発・運営しているタロット占いのウェブアプリ「タロットリ」の一部で、このブログでサービスを紹介した記事に使っていた画像でした。
ひどいことに、パクったページもタロット占いの記事でした!「今月の占い」といったコンテンツのメイン画像として無断転用されていました。OGPタグにもきっちり設定されていたようで、その情報サイトのFacebookページのタイムラインにも堂々と流れている始末。しかも数ヶ月分に渡る複数の占いページに盗用されていたことがわかりました。
さすがに悪質だなあと思ったので、すぐに料金を請求することにしました。
2. 盗用を発見してすぐにしたこと
スクリーンショットを撮る
無断使用された証拠を残すため、画面全体のスクリーンショットを撮りました。ブラウザからのファイル保存でもいいけど、その場合はリンクファイルも合わせて保存されなければなりません。とにかく無断使用されたページのその状態を丸ごと残せる方式で取っておきます。
該当記事にコメントを残す
証拠のスクリーンショットを撮ったあと、イラストが盗用されたページにはFacebookプラグインのコメントフォームがついていたので、そこに自分の個人アカウントで「このイラストはうちで制作したものですが、無断使用は許可していません。取り下げてください」とコメントしました。
これが適切だったかどうかは読んでいる皆様に判断を委ねます。私がそうしたのは、発見した日時を公開の場で残せるのと、先方が黙ってしれっと画像を削除した場合でも一時的に目印になる、と思ったのが理由です。
先方のサイトに連絡
それから、先方のサイトの問い合わせフォームから連絡をしました。内容はこのようなものです。
こんにちは。[屋号・私の名前]と申します。
本日、貴社ウェブサイト(http://[先方のウェブサイトURL])に、私が著作権を有するイラスト画像1点([イラストの内容])が無断で転載されていることを確認いたしました。転載元は私が運営するブログ(http://blog.factory70.com/news/tarotri1)です。
イラスト画像の使用を即刻中止してください。また、これまでの利用料をお支払いください。
2016年2月16日14時現在、貴社ウェブサイト上のこれらのページで使用されていたのを確認しました。
http://[先方のウェブサイトURL]/life/3776
11月の運勢 – [サイト名]
http://[先方のウェブサイトURL]/news/8243
1月の運勢 – [サイト名]
http://[先方のウェブサイトURL]/life/9718
2月の運勢 – [サイト名]この件について相談をさせて頂きたいので、2016年2月19日までにご連絡をください。
ご返信をお待ちしております。
[屋号・私の名前]
[当事務所の住所・メールアドレス]
ポイントは著作権の内容を詳しく書くことと、返答の期限を設けることです。この段階ではあまり余計なことは書かなくてよいかと思います。
3. 無断使用の請求金額について
最初の返信はその日のうちにあり、ここで運営会社の社長の名前がわかりました。さっそく請求書を発行します。
イラストの無断使用にいくら請求すればいいか?
さて、いくら請求するか。これはふだんの仕事と同じで特に決まりはないものと思われます。ただし根拠は必要なので、今回は「正規のお客さまが二次使用を申し出られたときの料金に、無断使用に対する特別料金を加算したもの」としました。
式で表すと、こんな計算です。
( イラスト制作料 x 0.8 ) x 3
「イラスト制作料 x 0.8」というのが二次使用料金です。イラストの二次使用料金は制作料の5割〜8割くらいを設定することが多いです。今回のイラストは依頼されて制作したものではありませんが、ふだん見積書を書くのと同じようにして制作料を決めました。
お尻の「x3」が特別料金(※)です。正規のお客様と同じ値段では申し訳が立たないので、という意味の特別料金ですが、これは裁判で認められた例もあるので問題ないでしょう。例えると電車の無賃乗車が発覚したら3倍の料金を取られるのと同じです。無断使用への加算料金はネット上の大手のストックフォトサービスでも一般的に設定があり、正規の使用料金の2〜5倍が相場のようです。
※罰金、という言い方は適切ではありません。
こうして請求書を発行しました。まずはふだんのお客様にもするように、ひとまずはPDFファイルに発行したものをメールで送りました。必要であれば郵送でも、内容証明郵便でもと思いましたが、今回はそこまでには至りませんでした。
4. 先方の言い分と交渉
その後数通のメールのやりとりによると、先方の言い分はこうでした。ちなみに、相手は団塊世代の男性です。
件のウェブサイトは、知り合いから運営をひきついだ情報誌のサブ事業であり、開設もほんの数ヶ月前のことで、自分はウェブについても、メディア・広告についても全くの素人である。著作権の知識もない。
知人から「転用元にリンクを貼っておけばイラストや写真は無断で転載しても良い」と聞いたので、それで大丈夫だと思っていた。今回の連絡も寝耳に水だった。迷惑をかけて申し訳ないが、盗用というつもりは全くなかったので、なんとかしてもらえないか。
たしかに、無断使用されたイラストの下にごく小さい文字で「Factory70」という文字とリンクがありました。本当にそれでOKだと思っていたそうです。心底驚いたのですが、いまどきのウェブメディアなんてそんなものなんでしょうか……。
「なんとかしてもらえないか」については「それは請求を取り下げろという意味か?」と質問したところ「できればそうしてほしい」との返答でした。つまり払う気ありませんということですね。よってこの後数日間の交渉をすることになりました。
はじめは電話は避ける
先方からのメールにの中には、お詫びの言葉とともに「電話でお話しできないか」と書き添えたものもありましたが、その点には「先に事務連絡を済ませましょう」と返信して、はじめは電話は避けました。
なぜなら、メールの方が都合がいいからです。こちらの主張の論理的に書いたり、根拠となる公的機関の情報へのリンクを示したりするには、口頭よりメールの方が有利です。
やはりいろいろごねられる
先方の反応は、こちらが説明する請求の根拠については「全く仰るとおりです」といい、しかし「わかっているけれども、悪気はなかったのでそこをなんとか」と情に訴えかけて値切ろうとしていました。「ウェブについても、メディア・広告についても全くの素人」とのことで、その点私はある部分ラッキーだったのかもしれません。もっと理屈っぽい相手だったら、交渉はもっと大変だったでしょう。
数日間のメールで請求の根拠をあらかた説明し尽くした頃、電話がかかってきました。この電話で1時間くらいごねられたのですが、結局、請求金額を何割か割り引くことで決着しました。
ことわっておきますが、私が値引きをしなきゃいけない理由なんてひとつもありません。無断使用は先方が100%悪いのですし、私が説明した根拠にも先方は納得していました。納得してるんなら全額支払え、それが筋だろう、と私は言ったのですが、こういう結果になりました。この部分はほんとうに不服です。ただ、長引かせれば要求が通るのかといえばそうも思えなかったので、これで手打ちにしました。
数日後、代金は私の銀行口座に振り込まれ、この件は終結しました。
5. 無断使用についての参考サイト
ところで、このたび私が無事イラストの無断使用の料金を請求することができたのは、あるウェブサイトのおかげです。私と同じようなケースがないかググってみたところ見つけました。
参考サイト:
»写真の無断使用を見つけたら、料金を請求しよう(旅するフォトグラファー 有賀正博)
この写真家の方は茂山組という会社に写真を盗用されて裁判を起こしたそうです。
無断使用との闘いの経緯をとても詳しく紹介されているので、すべてのイラストレーターやフォトグラファーは勉強のためにぜひいちどお読みいただきたく。私が先方に最初に送ったメールも、こちらのサイトを参考にしたものです。
有賀正博さん、面識はありませんが、この件の対応にあたっては記事を大変に参考にさせていただき、とても助かりました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。
しかしまあ、私の場合は有賀さんが写真を盗用されたという茂山組ほどひどくはなかったので幸いでした。茂山組はほんとうにひどい会社だよ。
6. 今回の無断使用の件を振り返って
当初、請求通りの金額をすぐに支払ってくれたならば、ブログの記事になどはしないでおこうと思っていました。ところが先方は申し訳ないと言いながらもあからさまに値切ってくるなど、私もかなり神経を逆撫でされましたため、傷ついた見返りにネタにさせていただいた次第です。ただしすでに解決した件であるため、先方の名誉に配慮して会社名やサイト名は非公表としました。
ここで無断使用した側へのアドバイスというのもおかしな話ですが、もしもあなたがパクリをしてしまって、その請求をされていて減額の交渉をしたいのだったら、代わりに相手の利益になるようなものを差し出すしかないと思います。今回のケースのような丸パクリの著作権侵害はやったほうが100%悪いのは曲げようがないので、論理の穴をつくとかは難しいんじゃないかなと思います。それに著作権法ってまあまあ強力ですし。著作権法違反って刑事事件にできるんですよ。
私はイラスト制作のプロモーションを10年ほど前からウェブサイトを使ってやっていますが、そのせいか過去にも無断使用されたことが何度かありますし、じつは今現在も他にも無断使用されているサイトを見つけてあります。
※仕事の手が落ち着き次第、順次ご請求差し上げます。連絡を楽しみにお待ちください。
フリーランスのイラストレーターって、どうせただの個人だろ?とナメている人はほんとうに気をつけたほうがいいですよ。個人サイトからイラストをパクったって実際には何の問題も起きないだろうと思っているかもしれませんが、じつはそのイラストが出版社や広告会社と契約して作ったものだったりすれば、その会社の著作権を踏みにじったことになる場合もあるわけで、大手企業から突然百万円単位の請求が、なんてこともあながちあり得なくもないことです。
無断盗用をされて困っているイラストレーターやデザイナーの方は、変に凹んだり悲しい気持ちをtwitterで言いふらすより、淡々と請求をしていくほうがよいのではと私は思います。お金の問題にしてしまうことでややこしい気持ちの整理もつくし、イラストやデザインは対価を得るべきものなんだということが世間により知らされることにもなるからです。