DRAGON QUEST―ダイの大冒険― 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 三条陸,稲田浩司,堀井雄二
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/01/19
- メディア: Kindle版
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こちらタイトルからしてクリックせざるを得なくて読みまして、
終盤のポップももちろん好きなんですが、終盤はちょっと意識高い感じになっちゃって、遠い存在に感じたりするんですよね。序盤の意識低いポップのほうがどちらかと言えば好みです。
書きたくなったので書きます。個人の感想でしかないし、ネガコメ的な意図は全くないです!意識が低いと読むのも視点が違って興味深かった。
最初から話がずれますが、日経新聞で有栖川有栖先生が「ミステリー国の人々」として「古今東西のいかにもミステリーな人々」を紹介するコラムを連載されてます。4月3日のコラムでは「ヘンリー・ポジオリ―T・S・ストリブリング 幕切れに名探偵を襲う悪夢」として、冒頭で、
主人公を名探偵にするに当たっての注意事項。知的強者の嫌らしさを消すこと。名探偵は誰よりも観察力・推理力に長け、警察の組織的・科学的な捜査をも出し抜く。事件の関係者(被害者を含む)がひた隠しにしていた秘密を白日の下に晒す。そんな行為に対して「いい気なものだ」と読者に冷たい反応をされてはまずい。
コラムは、だからミステリー作家は、嫌らしさを解消させるために名探偵にハンディキャップを与える、と続きます。
知的強者の嫌らしさを消すこと。これに近いことは何もミステリーに限った話ではなくて、物語の主人公は、読者の共感を誘うためにハンディキャップを負わされることが多いです。生まれの不遇だったり能力の限界だったり、主人公に劣等感を植えつける存在であったり。ハンディキャップを負わされるからこそ、それを乗り越えた時のカタルシスがあるわけですしね。
でもダイの大冒険の主人公・ダイって、基本真っ直ぐで優しい良い子で、最初からお姫様に気に入られ勇者に認められ、ハンディを背負わされた子、て印象がありません。その分「いい気なものだな」と読者に思わせないためのハンディを代わりに背負わされたのがポップなんだ、と最初思って、それがすごく嫌だったんですよ。主人公を引き立てるための脇役を割り当てられた感じが最高に嫌だった。何者にもなれない自分みたいじゃないですか。だからポップがおだてに乗っていい気になっているところをへこまされては「(身につまされるようで)痛いな」と思ったし、強い敵から逃げるたびに胸がきゅうっとなった。
その後物語が進んで仲間が増えて、ダイもポップも試練や敗北や修業を経て強くなって、で、この頃の"仲間どころか敵にまでも認められて重要な戦力としてカウントされてる"ポップを見て嬉しくなった訳です。なんだか平凡な自分にも可能性がある気がして、勇気づけられた。「いいように作者の掌の上で転がされてるなぁ」とわかりつつ嬉しかった。今なら、武器屋の息子っていうありふれたバックグラウンドも最高に素敵だと思います。
でも、その先に最大の挫折があるわけですよ。ある魔方陣を完成させるには5つの力が必要、という場面で、5つのうちのひとつがポップに割り当てられるんですね。でも、ポップはみんなより先に、自分にはそれに必要な能力がないと気がついてしまう。
そこからの苦悩というか絶望みたいなのが、大して挫折を経験したこともない子供心にも刺さって、今も読み返すときは頁を飛ばすくらいに痛いんですが、当時何を感じたかは覚えてます。特別な生まれ育ちを持たない唯の一般人は、結局、主人公にはなれないんだなと。どんなに頑張っても、所詮脇役には限界がある。漫画読んで、感動した訳じゃなく泣いたのってこの漫画のこのシーンくらいかもしれません。絶望というか悔しさというか。
そこからの逆転劇は「あなたの目で確かめてください!」ということで端折るんですが、最後、ポップはポップのまま苦難を乗り越えて、ダイと一緒にラスボス戦に臨むんですね。ダイが絶望で膝を折った時も、手を差し伸べて掬い上げる。このシーンで何か言えるのは、他のどんな立派な仲間でも駄目で、ポップなんだと思うんですよ。
竜の血を分け与えられたくらいで、「実は天界の血を引く子供でしたー!」的バックグラウンドを軽々しく与えられなかったポップが、脇役として終わらないってのが、作者からのエールっぽくて最高に好きです。だから自分は、格好良くなかったポップが、いろんな苦難を経て格好良くなった、の方が好みだなと。そしてそれは自分から遠くないほうが(希望が持てて)良い。という個人的所感でした。