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胸になんか刺さった

クリエイティブディレクター西島知宏が、思考、企画、表現、映像、言葉などについて書きます

勘違いして4年で電通を辞めたらエラい目にあった、俺死ね!

コラム

理由があるわけではなかった。ただ。

29歳で独立する。

それだけは自分の頭の中に、漠然とあった。

 

電通最後の日の、翌日から仕事を始めた。

仕事と言っても仕事があるわけではなかった。「おぅ、何かお願いするわ!」そう言ってくれた人たちから電話がかかってくることは、その後もなかった。

 

これから独立する人は、仕事を持って出たりしない限り、これだけは覚えておいた方がいいと思う。

 

自分が期待している10%くらいしか仕事は来ないぜ

 

いま思えば当然だが、半端者に仕事を出すほど社会は甘くない。広告賞を1個や2個獲ったくらいで勘違いしてしまうバカがいるとしたら(9年前の自分)、ハリセンで殴りながらこうアドバイスするだろう。

 

いまいる会社で上位1%の優秀な人間になってから辞めた方がいいぜ

 

貯金がみるみる減っていって「これ本気でヤバイかも」と思った時、仕事をくれたのは博報堂だった。結局、実制作にはつながらなかったけど、プレゼン費をもらえた。「はじめてのおこづかい」、僕は鼻を垂らしながら喜んだ。通帳に印字された「はじめての対価」のインクのあの感じを、僕は忘れないと思う。

 

もう一つ。これから独立するに言っておきたいのは

 

仕事が始まってから銀行口座にお金が入金されるまで5ヶ月はかかるぜ

 

ということだ。広告の仕事自体オリエンから納品まで平均3ヶ月、納品月の末日締めだから猶予が数週間、末締めの翌月払いだとしてプラス1ヶ月で計5ヶ月。得意先の支払いサイトによっては6ヶ月7ヶ月かかることもある。その間、無一文状態で持ちこたえられる資金を保持していないとヤバい事態に陥る。だから、できるだけ辞める前に有休も使って助走しておいた方がいい。調子にのって南青山に事務所、恵比寿に自宅を構えた9年間の自分に、本気でタライを落としたい。

 

会社を辞めた2007年から1年間、頑張った。「仕事選んじゃいますから!」辞める時に持っていた、そんな勘違いワードはとっくに頭から消えていた。ずっと頭の中にあったのは「あれ、俺なんで辞めたんだっけ?」という自問の言葉だった。辛かった。

 

2008年4月。1年間の寂しさから、新しい仲間を8人入れた。1年間頑張って、お金もそこそこ入っていたから調子に乗ったのだ。乗りすぎたのだ。9年前の自分に会えるとしたら、カラシスプレーを顔に吹き付けたい。そして、これから独立する人に言っておきたいのは

 

社員一人雇うと給料の3倍くらいお金が必要だぜ

 

ということだ。給料に加え、社会保険の会社負担金、交通費、家賃、デスク、パソコン、電気代、水道代、複合機のリース代、事務費用、経理費用など。額面30万円の社員を一人雇うだけで100万円くらいのお金が毎月必要になる。仮に利益率が30%のビジネスだとしたら毎月330万円の売上が必要になってしまう。うちの場合は8人雇ってしまったからまさに爆死だった。俺死ね!

 

でも何とかこうして、今生きている。生かされている。

9年間、会社をやってきて思うことは

 

世の中はなんとかなるし、なんともならない

 

ということだ。資金が100万足りなくて倒産する会社もあれば、運が坂に落としたおむすびのようにコロコロ転がって確変状態になることもある。もちろん努力や実力もあるだろう。でも、結局「運」が大きいような気がするのだ。実力があるのに運のない人をたくさん見てきたし、自分も運だけでやってこれた気がするから。

 

最後に。最近、もの凄く、強く思うことがある。

 

誰もがたった一人の人間でさえ、なかなか幸せにできない。

 

ということだ。「世の中をハッピーにできる」と言っている人がいたら、その人はきっと神様だ。BASEには、今まで20人くらいの人が入社して、去っていった。すべてが円満退社ではなかったし、すべての人が幸せではなかったと思う。「あなたは、あなたのスタッフを幸せにしましたか?」と、金の斧と銀の斧を持った女神に問いただされたら、私は汚い斧を指差しながら、おしっこを漏らすだろう。

 

家族だってそうだ。仕事に生き、家族との時間を作らなかった男の定年を、家族はスタンディングオベーションで迎えてくれるだろうか。

 

人はいつ死ぬか、わからない。明日死ぬかもしれない。

 

できることは、限られている。じゃあ、いつやるか? 今でしょう。

 

株式会社BASEは今日、10年目を迎えました。

 

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