不正会計問題を契機に経営不振に陥った東芝は、医療機器を扱う“虎の子”の優良子会社「東芝メディカルシステムズ」(栃木県大田原市)を売りに出した。入札の結果、売却先をキヤノンに決めたが、買収を最後まで競った富士フイルムホールディングスは、キヤノンの買収手法に不快感を示す。異例の展開は、水面下で繰り広げられた争奪戦の激しさと東芝の苦境の深刻さを物語っている。
「オープン・フェア・クリアな企業行動方針をもつわれわれにとっては考えられないやり方だ」
当たり障りのない内容がほとんどの企業の公式コメントの中で、3月17日に富士フイルムが出したコメントは異彩を放っていた。東芝が同日、東芝メディカルのキヤノンへの売却で最終合意したと発表したことを受けてのもので、強い怒りが込められていた。
富士フイルムが問題視した「考えられないやり方」とは何だったのか。背景には一定のシェアを持つ企業同士の統合に伴う独占禁止法の審査がある。海外にも同様の法律があり、各国の規制当局も審査するため、子会社化までにある程度の時間がかかる。
キヤノンによる買収額は約6655億円で当初予想されていた4000〜5000億円を大幅に上回った。東芝はこの売却益を、一刻も早く手に入れたい事情があった。2月時点の予想では平成28年3月期は7100億円の最終赤字で、3月末時点の自己資本比率は2.6%と危機的な水準に落ち込む見通しだった。もともと、優良子会社を泣く泣く売却する決断を余儀なくされたのも、「債務超過」という、企業の存続すら危ぶまれる事態を回避したかったからだ。
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