マイナス金利 逆に不安を広げている
日本の長期金利が9日、初めてマイナス圏に突入した。世界でもスイスに次ぐ2例目だ。大幅に円高が進み、株式市場も日経平均株価が900円以上急落するなど、市場は激しい動揺に見舞われている。
国内外のさまざまな要因がからみ合った結果ではあるが、先月末、日銀が決定したマイナス金利の導入が響いているのは間違いない。
金融機関が日銀の当座預金に預けた資金の一部から日銀が利息を取るのがマイナス金利政策だ。預けたままにしておくと金融機関は損をするので、融資や投資に資金を回すようになる、との論理である。
ところが、日銀は同時に国債を大量に買う政策も続けている。満期まで持てば損をするのが確実なほど値上がりした国債でも、日銀が必ず高値で買ってくれるとの安心感から、結局、金融機関は国債を選ぶ。市場で繰り広げられる国債の争奪戦の結果、利回りがマイナスになる国債が、ついに満期まで10年という代表的な長期国債にまで及んだのだ。
日銀の政策変更には、今年に入り不安定な動きを続けていた市場を、再び円安・株高方向へ誘導する目先の狙いがあった。だが、世界経済の先行きを懸念する投資家が、資金を日本国債に集中させ、日銀の思惑とは反対の流れが生じてしまった。
このままでは、かえって不安心理が広がり、日銀発の景気悪化ともなりかねない。「2%」の物価目標も一段と遠ざかることになろう。
日銀は、マイナス金利がもたらす負の影響を精査し、場合によっては撤回も排除しないといった柔軟な姿勢で対応を検討すべきではないか。
それにしても、経済の実体とかけ離れたところでいびつなマネーゲームが繰り広げられているとしか言いようがない。何より、世界で最も重い借金を抱えた国である日本が、借りるほどもうかる、というマイナス金利で多額の資金を調達できること自体、異様な現象である。
問題は、マネーゲームの結末が一般市民のくらしに跳ね返ってくることだ。預金金利の一段の低下や年金の運用難、金融機関の業績悪化などが心配されている。
住宅ローンや設備投資を刺激し、経済にプラスになるとの指摘もある。ただ、ここまで異常な金利水準になれば、むしろ経済全体の先行きが心配になり、大きな買い物は控えようという逆の効果も考えられる。
デフレからインフレに変わる−−。異次元緩和というショック療法で人々の心理に働きかけ、実際の物価を押し上げようというのが、黒田日銀の政策の肝だった。「マイナス」が付く今回の政策は、その心理をかえって悪化させている。