辺野古和解勧告 事態打開のきっかけに
米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古への移設をめぐり国が県を訴えた代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部が双方に和解を勧告した。
行政訴訟は、民事訴訟と違って妥協が成立しにくいため、今回のように裁判所が和解案を示すのは極めて異例のことだ。国、県双方とも簡単には受け入れられないだろうが、耳を傾けるべき内容も含まれている。
和解案は二つあるが、非公表のため不明な部分も多い。判明しているところでは、「根本的な解決案」とされるものは、県が辺野古埋め立て承認の取り消しを撤回し、国は辺野古に代替施設を建設後、30年以内に返還するか軍民共用にするかを、米国と交渉するよう求めている。
もう一つの「暫定的な解決案」は、国が代執行訴訟を取り下げて移設工事を中止し、県と再協議する。それでも折り合わなければ、代執行よりも強制力の弱い違法確認訴訟で争うよう求めている。
「根本案」は、辺野古に代替施設を造ることを前提としており、どちらかと言えば国寄りの案だ。ただ、米国が代替施設の使用期限を30年以内とすることに応じる見通しはないため、日本政府にとってその点は受け入れにくいと見られる。
一方、「暫定案」は、訴訟取り下げと工事中止を求めており、県寄りの案と言える。
2案への対応について、菅義偉官房長官は「対応が可能かどうか検討している」、翁長雄志(おながたけし)知事は「全く白紙だ」と述べるにとどまっている。
根本案には国も県も否定的で、暫定案には県の一部に評価する意見があるようだ。今後の展開は不透明だが、裁判所が異例の勧告をした意味を考えてみる必要はあるだろう。
辺野古移設問題は、法廷で司法判断が出たとしても、国と県の対立は解消されにくい。
代執行訴訟の判決で、仮に埋め立て承認取り消しの撤回を求めた国の訴えが認められても、県が反発する中で建設される代替施設を安定的に運用していくのは難しいだろう。逆に国の訴えが退けられても、国は工事を続けながら、最高裁に上告するものと見られる。
裁判所は、この問題は政治の場で知恵を出し合い、対話によって解決すべきものだと言いたいのではないか。
暫定案が違法確認訴訟への切り替えを促したことは、裁判所が代執行訴訟に疑問を持っているようにも受け取れる。
和解案をきっかけにして、国と県はもう一度、話し合い解決に向けた努力をしてはどうか。また、今回のように社会的影響が大きい裁判の場合、裁判所は和解案の内容を公表するよう検討してもらいたい。